行儀良く侮ってんじゃねぇよ。

日曜日。いつもより遅く起床した。具合も悪くない。

前日に職人さんとご飯に行っていた。お酒も飲めるようになり、半年ぶりに飲んだ。正月休みに沖縄旅行に行っていたらしく、お土産をもらった。話といえば沖縄旅行か、仕事の話。「最近現場ないから事務作業ばっかりか?」と聞かれ、最近は事務作業もしてない。とにかくやる気が出ないと答えた。会社で仕事をしていると来年の現場の話も聞こえてくる。

「来年の物件のところに挨拶に言ってきたけど、いい担当者よこしてねって言われた。」

「誰を行かせるの?」

「細々と連絡できて、現場の要望に応えられる人がいいんだけど、オリオンかな。オリオンの上司なら口答えしそうだし…」

聞こえないフリをしてしまった。自分の名前が出るのは嬉しいけど、なぜ最初に自分の上に立つ人間の名前が出てこないのか。一回ぐらいやって見せてくれよ。「チャンスは来るから腐るなよ。」と言われた。わかってはいるけど、どうもこういう待ちの状態は好きじゃない。なんとなくお酒が進む。ビール2杯目あたりで、頭が痛くなりはじめた。元々飲めるほうではないけど、全然飲めなくなったような気がした。その後は次の日にお酒が残らないからという理由で、焼酎をジャスミン茶で割ったものを飲むようにすすめられた。大学からの癖なのか、頭が痛くなってもビール以外を飲んではいけないような気がしてしまうし、水を飲もうという頭にならない。

そんな職人さんの気遣いのおかげで、次の日はお酒が残らず、思った以上に快調だった。約8ヶ月ぶりのバスケ。この日を迎えることを目標に、ヘルニアの治療を頑張った。バスケしたら笑うかな?泣くかな?はたまたどっちもかな?ワクワクしながら体育館に向かった。体育館に着いて準備をしていると、奥のカップルからの視線をすごく感じる。カップル専用のプリクラコーナーにでも入ってしまったかのよう。確かに一人で体育館に来たが、そんなに場違いなのだろうか。それとも自分の目つきが悪いのだろうか。メガネを外して裸眼でバスケをするので、ほとんど見えていない。見られたから見る。もしかして知り合いだったりするかもしれない。でも違うらしい。そもそも目つきが悪いというより、見えないから目を細めて眉間にシワが寄る。そんな目で見ないでほしい。下手だから練習するために来てるし、上手だったら練習なんかしない。それはさておき、久々のシュート。手から離れたボールから次に聞こえた音は、コートの床に当たる音。リングに当たらず、ネットの中も通らず。エアーボール。その時の自分の顔は、笑っていた。予想通りすぎた。まぁ、こんなものだろう。すこしドリブルの感覚を確認して、3Pシュートの練習。この日の目標は、①「3Pシュートはリングまでそんなに遠くない」と自己暗示をかける。②膝を曲げすぎず、あまり跳ばないでシュートを打つ。③シュートの軌道を少し下げて、上ではなく斜め上にする。④力みすぎないでリラックスして打つ。これらの4つが上手くいくと、入ったボールが手元に戻ってくる完成系のシュートを打つことができる。シュートを打つ短い時間で、1度にこれだけのことを同時に意識するのは正直無理だ。なので、最低①だけはクリアしたかった。確率は酷すぎるが、シュートフォームにも改善が見られ、リラックスして打てるようになった。後は、確率を上げることに集中できる。

ここでスラムダンクの2万本シュートを思い浮かべていた。原作を読めば映画の見方も変わるとのことで、漫画を買って読んだ。その話に出てくる2万本シュート。主人公の桜木花道がシュートを打てるようになるために、夏休みの7日間で2万本シュートを打つというもの。7日間で2万本打つためには、1日に約2860本。これを頭の中で、自分の3Pシュートに置き換えていた。この日はカウンターアプリを使って打ったシュートの数を数えていた。この日は1時間でおよそ150本の3Pシュート。20時間弱で目標の1日に2860本。2万本に達するまで約134時間→6日弱。これは寝ないでシュートを打ち続ける計算になる。なので、1時間に300本打って、10時間弱で1日2860本を達成。ようやく現実味が出てくる。漫画の中でシュート練習といえば、木暮が机等をリングの真下に組み合わせて置いて、「赤木、この机が上手くボールを返してくれないんだよ」なんて言いながら練習をしていた。自分の場合は赤木も来なければ、机もないので、「自分で全部拾えはいいじゃないか。」なんてやっていると、150本ぐらいになってしまう。打った後にどこが良くてどこがダメだったかなんて考えたら、尚更である。かなり集中して周りも気にしなくなるので、時間が経つのはあっという間である。

体育館から帰り、家に着く。階段を上ろうとしたら、力が入らない。30分もしないうちに筋肉痛がきてしまった。髪を洗おうにも右腕が上がらない。箸より重たいもの持てないという最大のチャンスだった。体はバキバキだが、嬉しかった。ここまで体を動かしても腰に痛みがない。なんなら、この日は腰の調子がよく、用意していたコルセットも使わなかった。だけど、下半身の筋力が落ちたのを実感した。結局、この筋肉痛は3日続いた。

週明けに会社に出社すると、副支店長が自分を見つけ、「今日出かける?出かける前に話あるんだけど。」と小部屋に呼ばれた。こんな1対1で話なんて、なんかしただろうか?全身筋肉痛で会社くるなとか?最近在宅勤務ばっかりで会社に顔出さないなんてなんかあったのかとか?

それともあれか?少し前に部長との面談があった。去年の振り返りと今年の目標や悩み事の聞き取りなど。その中で、やる気が出ないことを正直に話した。去年までは大型物件を一人でやり切ることでキャパを広げたり、ほしいものを手に入れたかったから、部長が「誰かと2人で現場見る?」と言ってくれたけど、それを断って一人でやり切った。でも今年はモチベーションがない。結果を出しても、座りたい椅子には座れないし、そのままでいいと言われる。今も実力が十分足りてるとは思ってないけど、普通に今まで通りにやっていれば、それらが身に付く。実力をさらに伸ばすことを今年の目標にしてもいいけど、それではモチベーションにならない。今の自分に圧倒的に足りないものがわからない。それがもしあるなら、それを身につける1年にしたい。そう部長に伝えると、「オリオンに身につけてほしいのは、全国平均になること。実力が平均以下だと言いたいわけじゃない。北海道独自の書式になっていたり、作成を免除されてる書類を全国平均で作れるようになってほしい。」とのことだった。別に目標にするまでもなく、やろうとしていたことだったので、拍子抜けだった。

一言でいえば「やる気がしない」と会社に言ったことになるから、それは流石にマズかったかもしれない。なんて思いながら、小部屋の椅子に座り、副支店長の話を聞く。「3月から手当を支給します。」…?これは予想外だった。去年末に発表になった新しい給与手当。社内試験に合格した人にその手当を支給するというもの。いつ試験をやるのか気になっていたが、全然日程が発表にならないから、忘れるところだった。「初年度は試験をパスできる推薦制度があって、オリオンを支店長と部長と相談して推薦しておいたから。全国でも何人かいるらしいけど、北海道ではオリオンだけ。実はこの試験には経験年数が必要なんだけど、実はオリオンは1年足りてないんだよね。周りには足りないだろって言われてたんだけど、なんとか頼み込んだら、社長がOK出してくれたんだよね。社長がOKならなんでもOKだから。大型物件をおさめたのも社長はわかってくれてるから。だから3月に模擬試験があるから、それは受けてもらって、受かっても落ちても手当は支給するから。だけど、来年の3月の試験で落ちたら、手当の支給はなしになるから。そこで落ちたら給料は下がるのに引かれる税金は増えるからきついよ。頑張ってね。」とのことだった。社長ぉぉ…。色々正直に言ってみるもんだな。これは社長の無茶振りに全力で応えなければいけなくなってしまった。なんだかんだ特別扱いもしてもらってしまった。給料が上がってやる気が出る…かと思いきや、そうはいかない。だけど、「やる気しないなぁ」から、「何かやらなければ」と前向きにはなった。半分以上腐っていたけど、腐った部分を切り落として、またコツコツと頑張らなければ。

週末にまたバスケに行こうと思ったが、お酒を飲みすぎて、体調が優れなかったので断念した。前の職場でお世話になった先生であり先輩でもある友達に呼ばれた。彼が自分がお酒が飲めるようになるのを待っていてくれた一人だ。「22時にすすきのラウンドワンに来て。仕事手伝ってくれたら早く飲めるから、ちょっと手伝って。」と言われた。お世話になっているので、何もためらわずに手伝いをすることにした。集合すると、ビルの一室に鍵を開けて入った。「お店やってる友達がここに引っ越しするんだよね。警察と保健所にこの部屋の平面図を提出しなきゃいけないから、寸法あたりたいんだよね。」とのことだった。まさかこれを一人でやろうとしていたなんて…それにしては部屋は広くて複雑で、陽が登ってしまいそうだ。仕事っぽい仕事ではないけど、何年かぶりに一緒に仕事をして懐かしさもあり、楽しさもあった。息があって、あっという間に終わってしまった。その後は腹ごしらえに居酒屋に入った。「やる気や目標があっていいね。年が近い人はみんな辞めちゃって、今はオリオンしかいない。だから、わがままを言える人もオリオンしかいない。いつ野望を果たしてウチの会社に来てくれるのさ。一緒に仕事をしたと思えるのも周りにオリオンしかいない。ただ人を増やしても、自分の負担になるなら夜遅くなってでも自分でやった方がいい。お互いに尊敬してると思うし、尊敬できる人にしかウチの会社に来いなんて言わないんだから。」なんて話をしてくれた。まぁ、今はやる気はないんだけど。自分ももちろん彼のことは尊敬しているし、恩も感じてる。彼に出会わなかったら、転職なんて考えなかったから、今の自分は存在しない。一緒に働けるのは嬉しい。だけど、野望を果たすにはまだ時間がかかる。出してもらったらそっちの会社に行かなきゃいけなくなるからと断ったが、そのお店は奢ってもらった。その後は、彼の友達が経営してるお店にいき、深酒をしてしまった。もう少し腐らずにやってみることにした。

次の週は、せっかく身につけたシュートフォームを忘れてしまわないようにと、体育館に行くことを決めていた。この日は体育館に着いた時は一人だった。受付の人に「一人ですか!?」と驚かれたが、この前のカップルのおかげでなんとも思わなくなっていた。この日はシュートする位置を変え、シュートフォームを定着させることを目標にした。できるだけ何も考えずリラックスしてシュートを打つ方が確率がいい。この前よりもシュートフォームが安定して、確率もいい。途中から、ピック&ロールを想定したりと、動きの中で3Pを打つ練習をしてみた。左手でドリブルをしている時は問題はないが、右手でドリブルをしている時におかしくなる。ここ最近、3Pシュートを打つときはホップ(軽く跳んで着地した時にシュートが打てる足の状態を作る方法)して打つ練習をしていた。シュートを打つ時は右肩・右膝が前に出るように体を半身にするので、左手でドリブルをしているときはシュートに行くのもスムーズにいく。しかし、右手でドリブルをしているときはそうはいかなかった。ホップしながら右肩を90°回転させるのも難しいし、ドリブルしているボールをシュートポケットに持っていくのも難しい。ホップではなく、左→右と1・2で足を置いてシュートにいく練習も取り入れたい。もしかしたら、ホップがただただ下手だったり、ハンドリングが悪いだけかもしれないけど。左手でドリブルをしている時しか3P狙わないなら、ないのと同じだからな…。この日は前よりも筋肉痛はひどくないが、抜けるまでやっぱり3日かかってしまった。


次は久々に友達と集まるので、かなり早いが実践となる。積極的に3Pを狙っていきたい。もうノンシューター扱いはゴメンだ。散々侮ってもらった分、日頃のストレスも加えてお返ししてやるからな。



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