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Cyg rental wall 2022 review

 東北の作家に焦点を当てた企画展を行うCyg art gallery(シグアートギャラリー)では、スペース内でCyg rental wall(シグレンタルウォール)を運営しています。
 この記事ではCyg rental wall を知っていただくための取り組みとして、2022年度に開催された展示のレビューを一挙に5つ公開します(そのほかCyg rental wallではCygの主催展示も開催しました)。
 
 

Cyg rental wall とは?

 東北でのクリエイティブな活動とその発信を目的としたレンタルウォールです。絵画、版画、彫刻、工芸、デザイン、イラスト、写真などの作品展示と販売を目的とします。
 Cygは東北にゆかりのあるアーティストを紹介するギャラリー&ショップですが、Cyg rental wall は今まで東北にゆかりのなかったアーティストやキュレーターのご利用も歓迎しております。
 
★詳しくはこちら
 

レビュアー紹介

 本記事を担当するレビューアーは下記の2名です。

千葉真利|CHIBA Mari
シグアートギャラリー店舗代表/チーフキュレーター
1988年宮城県石巻市(旧桃生町)生まれ。東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コース卒業。同大学院芸術工学研究科芸術文化専攻こども芸術教育研究領域修了(修士)。福島県猪苗代町の〈はじまりの美術館〉の開館準備に携わり、学芸員として企画運営に参加。石巻、山形、猪苗代と南東北の3つの町で暮らし、2016年盛岡へ。2020年から現職。

佐藤拓実|SATO Takumi
シグアートギャラリー店舗代表代理/キュレーター
1北海道札幌市、豊平川の岸辺で生まれる。北海道・東北の歴史に取材した作品制作、調査、展示企画、本の編集を行ってきた。一方で絵馬や郷土玩具、民藝など民衆の中で作られていったものにも注目、調査と考察を行っている。東北への関心が高まる中、ご縁があり盛岡へ。

※レビュアーとして清水真介を予定していましたが、諸般の事情により佐藤拓実に変更となりました。
 

meく「もののけのあはれ」

2022年5月18日(水)ー5月22日(日)

 岩手県花巻市出身のmeく(みく)は2014年から独学で絵を描き始め、公募展への出品をメインに活動してきた作家です。
 今回の展示はキャンバスにアクリル絵の具で描かれたF50号、M30号が各1点、F10号が3点、30センチ四方の連作4点が出品されています。
 この展示の特徴は、作家が言及しているように日本の伝統的な文化からの影響があちこちから伺われることです。例えばタイトルは平安文学の理念の一つとされ日本文化の特性とも言われる「もののあはれ」から取り「もののけのあはれ」と名づけられています。連作は能の演目の「七小町」から題が採られています。また、ほぼ全ての作品で着物を纏った女性が中心的なモチーフとして描かれていることや《炎舞》における炎の描き方など、視覚的にもその特徴が伺えます。
 作家が展示に寄せた言葉では妖怪をモチーフにした漫画で知られる水木しげるの名が挙げられていました。《祈りの形》に描かれている頭が大きい女房装束風の人物は、薄暗い森の中に佇んでおりいる異質さから妖怪のように見えます。この展示の中で最も、作家がいう「白日夢」らしい作品ではないでしょうか。また作家と同じ花巻市出身の宮沢賢治からの影響もあり、《よだかの子》は童話「よだかの星」を連想させますし、連作のタイトルで用いられている「ダァリヤ」「真鶴」という言葉は童話「まなづるとダァリヤ」から付けられたものでしょう。
 個展「もののけのあはれ」は、作家自身のバックグラウンドや関心が素直に反映され、日本の伝統文化と妖怪、宮沢賢治の童話が絵画の上で交差するユニークな展示だったと言えるでしょう。(S)

佐々木光「日和事」

2022年7月26日(火)ー8月1日(月)

 暑い夏に涼やかなガラスの作品展。Cyg rental wallがキラキラ輝き、彩られました。Cyg art galleryではガラス作品を展示することがほとんどなかったので目新しく貴重な機会にもなりました。
 展示作家の佐々木光は、岩手県出身で京都造形芸術大学美術工芸学科で学んだ後、富山ガラス造形研究所 造形科に入所しました。オランダの Gerrit Rietveld Academie に交換留学を経て、富山ガラス造形研究所研究科を修了。現在は静岡の伊豆で制作活動を行ない、全国各地で精力的に発表をしています。
 今回の展示では、壁面には壁掛の作品が4点、立体作品が3点、そして色とりどりの器、展示台には可愛らしいアクセサリーが並びました。作品の額装や台には、輝きをより一層際立たせる鏡が用いられていました。いずれの作品もガラスの性質を生かした透明感のある色彩と煌めく表情が魅力的でした。佐々木光は、制作について「自身の記憶と経験を目の前に”視えるかたち”に表すことを制作の軸にしている。」(作家ウェブサイトより)と語ります。作品性を重視したアートピース、暮らしのなかで使ったり、身に着けたりすることができるクラフト。多様な角度からガラスの素材の魅力を伝えるとともに、ささやかな日常の移ろいを捉え、変容する姿をみつめた展覧会となったのではないでしょうか。(C)

ナツノカモ 村田青葉
〜“展示”二人会〜 カモのコテン 青葉のコトン

2022年8月25日(木)ー8月28日(日)

 ナツノカモは元落語家でコントやテレビ番組の作家として活動しながら演者として舞台にも立ち、2020年にオーダーメイドの落語を作り始めてからは落語作家とも名乗っています。「カモのコテン」は落語を展示形式で発表するもので、2021年12月から断続的に開催されています。村田青葉は岩手県盛岡市を拠点に活動し、演劇ユニットせのびを主宰しています。かながわ短編戯曲賞2021グランプリになるなど注目の劇作家であり演出家です。今回はそのような両名の初顔合わせの機会であり、会期中には同フロアで公演も行われました。
 会場向かって左側、ナツノカモのコーナーは自己紹介パネルのほか「メタとベタ」というテーマに基づいて選ばれた創作落語が10作品紹介されています。カードを買うことで台本と音声データが入手でき、さながら噺のバイキングのようです。右側の村田青葉のコーナーはボードゲームや将棋、花札、ティッシュ、キーホルダー、ステテコ、グミ、ブブゼラなどが乱雑に置かれており、まるで友達の家を訪ねたかのような雰囲気を感じさせます。これらは村田の私物であり、近くに貼られたQRコードを読みとると村田による説明や思い出を綴った文章が表示されます。
 この展示でナツノカモはパネルやカードというツールを用いて手軽に噺を楽しめる方法を実験的に展開し、村田は存在感のある私物にささやかにQRコードを添え文章を読み取る行為を誘発することで物から想像力を膨らませる過程をも鑑賞に組み込んでいるようです。言い換えればこの“展示”二人会は、形のない芝居を扱っている二人が「物」の利点を活かしつつ「物語」の新たな鑑賞のあり方を試みる場であったように思われます。(S)

牧野沙紀 個展 ICHI

2022年10月18日(火)ー10月30日(日)

 牧野沙紀は1993年生まれで岩手県立産業技術短期大学校産業デザイン科を卒業。現在は岩手県盛岡市のデザイン事務所homesickdesignに所属し岩手ADC審査会で受賞を重ねるなど活躍中のグラフィックデザイナーです。今回の展示に名づけた「ICHI」は、初めての個展であることと「位置」のダブルミーニングになっています。
 壁の中央には新作のポスターが横に3枚並び、その左右に十数点ほど大小の新作が組み合わされているためグッと中心に目が引き寄せられる配置です。小規模ながらほとんどが新作であることからも牧野の意気込みが伺えます。
 今回発表された新作のグラフィックデザインは、いずれも地図に立てるピンのような形が必ずどこかに紛れていました。A4サイズの作品群は概ね2系統の鮮やかな蛍光色でまとめられ、丸や三角、楕円や流線形がピンと様々に組み合わされることで、牧野や鑑賞者の立ち位置とその周囲の関係性を抽象的に表現していました。一方でハガキサイズの作品やポスター3枚のうち2枚は比較的具象よりで、ピンが動物の鼻として用いられていたり、ピンの形を分解した円や線、三角形が組み合わされて鳥や花が表現されています。
 このピンをモチーフにした「寄せ絵」のような表現は、クライアントの意向に沿いつつ存在感や個性をどこかに潜ませるデザイナーという仕事のバランス感覚が表れているようにも見えます。この展示によって自身の立ち位置を確かめ、デザイナーとしての発展の手がかりにしようという牧野の狙いが感じられる展示でした。(S)

Atsushigraph Inner Silence

2022年11月2日(水)ー11月6日(日)

 岩手県出身在住のビジュアルアーティスト・Atsushigraphによる個展が開催されました。Atsushigraphは、アートブックターミナル東北へも複数回出品している作家です。壁面に7点の3DCGやデジタルコラージュ作品を展示したほか、作品集やポストカードを販売しました。
 Atsushigraphは、2010年に統合失調症と診断されたのち、療養期間中に独学によるデジタルコラージュの制作を開始しました。その後、幼少の頃に魅せられたコンピュータテクノロジーを取り入れた表現を積極的に行っています。デジタルとアナログ、リアルとアンリアルの垣根をなくしたより自由な広がりを探求していると語ります。
 今回の個展のタイトル「Inner Silence」は「内なる静寂」という意味を持っています。平静を保つことが難しい社会情勢の中でも、日々平穏を大切に生きたいという祈りにも似たAtsushigraphの想いが込められています。
 作品は、撮り溜めた写真や手描きのドローイング、デジタルペイントなどを3D空間にコラージュする技法によって生み出されたそうです。さまざまな事象が重なりあい共鳴しながら、静謐なイメージが浮かび上がっていました。デジタルで制作されたイメージが紙やキャンバスに出力されていましたが、質感は起伏に富んだような瑞々しさも感じました。
 また本展では、ウェブ上に特設ページを作成したり、自身でデザイン・製作されたDMも特徴的で、告知案内・デザインにも力を注いでいることが窺えました。これからも旺盛な活動・発表が期待されます。(C)


Cyg rental wall を利用してみよう!

  いかがだったでしょうか?写真やレビューから利用者の展示の様子が伝われば幸いです。Cyg rental wallは幅十数メートルほどの限られた展示スペースですが、まだまだ工夫次第であなたにぴったりの新たな利用方法を見つけられる可能性がある場所です。
 Cyg rental wallはオープンから3年目に向けてただいまリニューアルの準備を進めています。今後SNSなどで情報を発信していきますので、ぜひチェックしてみてください。ご利用についての疑問や見学のお申し込みなどはお気軽に下記の連絡先までお送りください。
 
●所在地・お問い合わせ

Cyg rental wall(シグレンタルウォール)
〒020-0024岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルク・アベニューカワトク cube-Ⅱ B1F Cyg art galler(シグアートギャラリー)内
営業時間:10:00~18:00
定休日:水曜・木曜
Websitehttps://cyg-morioka.com/rental-wall
Website(Cyg
art gallery):https://cyg-morioka.com

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