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『Fleabag フリーバッグ』シーズン2 (2019)    3年ぶりにフリーバッグが帰ってきた

シーズン1に引き続き、シアン・クリフォード(クレア)、オリヴィア・コールマン(ゴッドマザー)、ビル・パターソン(ダド)といったお馴染みの面々に加え、シーズン2では『SHERLOCK/シャーロック』でジェームズ・モリアーティ役で知られるアンドリュー・スコット(プリースト)が登場。ヒュー・スキナー(ハリー)は出番は少ないが、彼が出てくるだけでなぜか笑ってしまう。ヒュー・デニス(髭の銀行員)もちょっと出てくる。実力派有名女優のクリスティン・スコットトーマスやフィオナ・ショウがゲスト出演。そういえばブー役のジェニー・レインズフォードもコールマン主演の『女王陛下のお気に入り』に出ていた。実は彼女、オックスフォード卒なうえに、RADA(王立演劇学校)出身という演劇エリート。いずれイギリスを代表する女優になるのではと期待している。


もはや名人芸の域に達したウォーラーブリッジのカメラ目線だが、この登場人物が鑑賞者に見られていることを自覚しているという手法は、実は大昔からあり、なんといっても有名なのはシェークスピアであろう(そもそも、フィクションである演劇内の世界と観客のいる現実世界との境界という概念はシェークスピアの時代には無かったとか諸説はあるが)。この手法は映像作品で使うと、鑑賞者にフィクションであることをことさら認識させてしまい、登場人物や物語に感情同化できなくなるものだが、本作品では徹底的に多用することで、舞台劇や即興劇のようにフリーバッグと自分(鑑賞者)との心理的距離を縮め、フリーバッグの存在をリアルに感じ、いつのまにか自分が彼女の友人になった気すらしてくるのだ。この、鑑賞者がフリーバッグの友人になったような気持ちというのが、最大の狙いであることが、シーズン2で次第に分かってくる。

〈以下、結末に関する記述です〉
シーズン2で、主人公のカメラ目線と語りかけは鑑賞者に対してでなく、実は死んだ親友ブーに対しだったのではないか、という解釈もできる。E4において、カフェを一緒に始めた友人のことをプリーストに聞かれたフリーバッグのカメラ目線に、首を横に振るブーがカットインされるのが象徴的である。エンディングも、フリーバッグの心の中で唯一の親友であり続けたブー(言い換えるなら、現実からの逃避)との決別と、罪悪感からの解放だろう。

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プリーストは劇中では唯一、フリーバッグのカメラ目線に気が付く人物である。声は聞こえないが、彼女の心が他所に行っているのを感じるらしい。これも、フリーバッグが現実の煩わしさから、実在しない心の中の友人(それが死んだブーであるかどうかは別としても)の居る安全地帯へ逃避しているということだろう。だからS2では前シーズンより、カメラ目線が減っているのだ。
今シーズンは「ラヴ・ストーリ」ということなのだが、喜劇も悲劇も表裏一体で、幸福な結末なら喜劇、そうでなければ悲劇という、シェークスピア劇の国のコメディである。バス停でのエンディングに、私は邦画の『女は二度生まれる』の駅でのエンディングを思い起こさずにはいられなかった。彫像は実母がモデルだから捨てられなかったのか、それとも…。シリーズとしてもこれで完結といったといった印象でちょっとさびしい感じなのだが、彼女のことだから、彫像を片手に走って戻ってくるかもしれない。

〈キツネの意味について〉
西洋でもキツネは狡猾、ずる賢いという印象があるようだが、実際のロンドンでは野生のキツネは珍しくなく、人前に現れることもあるらしい。しかし何らかの比喩的な意味はあるのだろう。あくまでプリーストの被害妄想で、彼以外には見えない存在(フリーバッグにとっての、心の中の親友と同じだ)が、最後はフリーバッグにも見えた、という解釈もできる。
・古いフリーバッグ自身の象徴  一番有りそうな解釈。 今までの彼女自身との決別である。fleabagはノミの付いた汚らしい人や動物という意味だし、野生のキツネは不潔だろう。生ごみをあさったり、庭を荒らすので嫌う人も多いという。犬のようには人間に飼いならされていない、という意味もあるかもしれない。
・プリーストを性的に誘惑する女性あるいは男性の象徴(フリーバッグも含む)  E3でプリーストは、フリーバッグと出会う前からキツネに付きまとわれていると言っている。電車のトイレで覗かれたり、修道院にいたころは目を覚ましたら狙われていたという。monasteryと言ってるので男性の修道士のみの修道院だろう。プリーストは、もちろんカソリックの司祭のことで、演じるアンドリュー・スコットが同性愛であることを考えると、かなりダークなジョークでもある。E6で、一人で式の練習をしていたプリーストのところにフリーバッグが現れたとき、「狐かと思った」と言って驚いているので、おそらくこちらの意味だろう。

ちなみにアイルランド出身のスコット自身、元カソリックで、フィービー・ウォーラー=ブリッジはカソリック系の私立学校卒業なそうである。

★★★★★

2019年5月17日に日本でレビュー済み

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