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JTACとはー IV 実行

この記事は第IV章です。前回の近接航空支援を支える統合末端攻撃統制官とはー III 準備をご覧になっていない方は、先にそちらを読むことをお勧めします。

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 いよいよ近接航空支援の最後の段階である Execution Phase (実行) の解説です。上図のように、地上部隊指揮官の役割は JTAC と作戦センター間の調整、CAS 標的の攻撃の2つのプロセスに分けられます。

 JTAC は航空機とその兵装に関する専門的な知識を以って指揮官の要求に応じます。そのときの要求や戦場の環境によって考慮すべき事項は様々ですが、以下では最も一般的な航空支援要請の流れを紹介します。

① ルーティングと飛行の安全確保
支援機と交信を確立し、衝突などの危険回避に関する飛行制限を伝えます
② 近接航空支援機のチェックイン
機種や機数、兵装などの支援機の状態を確認します
③ Situation Update (SITREP)
作戦地域における敵と味方の詳細な戦術的状況を説明します
④ ゲームプラン
Type of Control と Method of Attack を含む攻撃方法を伝えます
⑤ CAS Brief
攻撃手順をまとめた 9-Line と呼ばれるフォーマットを送信します
⑥ Remarks と Restriction
CAS Brief までの通信内容に含まれない付帯情報を伝えます
⑦ リードバック
確認のためにパイロットは Line 4 と Line 6 及び Restriction を復唱します
⑧ Correlation
JTAC とパイロットが認識している標的が一致しているかどうか確認します
⑨ 攻撃実行
上記のゲームプランや CAS Brief に従って攻撃を行います
⑩ 攻撃効果の評価
再攻撃の必要性を判断します
⑪ 戦闘損害評価
敵の損害と任務の成否を判断します
⑫ ルーティングと飛行の安全確保
支援機が空域を安全に離脱できるよう指示します

IV.1 ルーティングと飛行の安全確保

 支援機が作戦空域に到着すると、JTAC は可及的速やかに他の AOS (Aircraft on Station: 既に当該空域で活動中の航空機) とそのコールサイン、高度および無線周波数を伝えます。また、他の航空機との衝突や敵による対空砲火、地形や気象などの状況を把握し、航空機に危険が及ぶのを防ぎます。その後、飛行可能な空域に加えて攻撃進入の起点となる IP と旋回待機する Hold ポイントの場所を伝えます。

ルーティングコールの例
"Proceed xxxx and report established"
指定した位置と高度へ飛行し、完了したら報告せよ、という命令
"Maintain xxxx"
指定した位置と高度で待機せよ、という命令
”Report passing xxxx”
指定した高度を通過したら報告せよ、という命令

 交信が確立されたら、航空機の飛行をコントロールするためにまずは"maintain"指示を与えます。

“Razor 53, maintain Chevy-Dodge 14-15”
「レイザー53、シェビードッヂ空域にて高度1万4千~1万5千フィートを維持せよ」

 以下は様々な状況におけるルーティング指示の一例です。JTAC は戦場の状況を素早く判断し、航空機に最適な指示を送ります。

 もし到着した航空機の位置と高度が分からない場合は、JTAC はその航空機にリクエストすることで衝突の可能性を減らし、飛行の安全を確保します。

“Hawg 23, say current position and altitude”
「ホーグ23、現在位置と高度を報告せよ」

 もし待機のためにキーホールテンプレートを使う場合は、JTAC は前もってキーホールの中心位置を航空機に伝えます。

“Latch 65, keyhole in effect, Echo point is November Uniform nine one eight three five seven, proceed Alpha ten, angels 14-16.”
「ラッチ65、キーホールを使用、中心位置は NU918357、A10空域まで高度1万4千~1万6千フィートにて進出せよ」

 もし作戦空域に他の航空機 (AOS) がいない場合は次のように交信します。

“Latch 65, proceed Chevy-Dodge, hold 13-15, you are the only aircraft on station.”
「ラッチ65、シェビードッヂ空域まで飛行し高度1万3千~1万5千フィートを維持、貴機はこちらの管制下の唯一の航空機である」

 もし安全な飛行に影響を及ぼすような敵の対空脅威、周知すべき地形や気象状態などがあれば次のように交信します。

“Deuce 21, proceed Emily to Adder maintain below 1500 ft AGL, there is a ZSU-23-4 vicinity of compound 34, you are the only aircraft on station.”
「デュース21、対地高度1,500フィート以下を維持しつつエミリー空域を通過してアダー空域まで飛行、防御陣地34周辺に ZSU-23-4 自走対空砲が存在、貴機はこちらの管制下の唯一の航空機である」

 また、SA (Situational Awareness: 状況の把握) のために JTAC は飛行中の航空機に現在の状況を尋ねることがあります。

 ルーティングと飛行の安全確保のための全般的な交信例は以下ようになります。

“Razor 57, proceed Frog-Gambler angels twenty-five, at Frog-Gambler,
descend and hold sixteen block eighteen, report established; hold your check-in, attack in progress.”
「レイザー57、高度2万5千フィートでフロッグギャンブラー空域まで飛行、当該空域にて降下し高度1万6千~1万8千フィートにて待機、待機完了し次第報告、チェックインは待機、現在他の航空機による攻撃実行中」

(攻撃ヘリコプターの場合)
“Deuce 23, proceed HA Betty, stay below 2K ft MSL en route, gun position 12 is hot, gun target line three four zero. You are the only air on station, send your check-in.”
「デュース23、HA (待機空域) ベティーまで飛行、経路では海抜高度2千フィート以下を維持、射撃位置12番が使用可能、機関砲指向方位340、貴機はこちらの管制下の唯一の航空機である、チェックイン送れ」

IV.2 近接航空支援機のチェックイン

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