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【雑記】誰が見ていなくても

うちから最寄駅まではあまり交通手段がない。
まず徒歩では行けない。(たぶん1時間以上はかかると思う)
いちばん近いバス停は2箇所あるが、バス停までも歩いてそれぞれ10分と15分かかる。
歩いて10分のバス停は1時間に1本もないし、
歩いて15分のバス停は多い時間帯でも30分に1本しか来ない。
車だとだいたい15分くらいで着けて、駐車場代もバスの往復より安いので、
必然的に駅に行く時は車を使うことが多くなるのだが、
裏道で行こうとすると、その道すがらになかなか危険な交差点がある。
信号はなく、カーブミラーがあるものの見通しが悪く、
どの方向からも交差点に進入しようとする車は
「え?これ行っていいの?いいよね?いっちゃうよ!」
みたいな感じで、1台1台が睨み合いつつ、徐行に徐行を極めて突入するので、交通量の多い時間帯はとても渋滞する。
うちから駅に向かうには道路幅員が狭い道から広い道へ右折するため、
交通ルール的には他の3方向から車が来ていないことを確認してからでないと右折できない。
もちろん右折専用レーンなんてないので、交通量の多い時間帯は後ろに車を溜めてしまうことがたびたびあり、
だいたいマナーと思いやりのあるトラック運転手さんたちに譲ってもらって右折する。

当初は
「信号をつけてほしい・・・
行政はこの危険地帯の存在を認知しているんだろうか・・・」
と思っていたけど、
春の、夏の、秋の、冬の、なにがしかの交通安全週間になるたび、
警察官がのぼりをたてて数名で井戸端会議をしているので、認知はしているようだ。
だったら信号機をつけて!
さもなくば井戸端会議をしていないで誘導して!
と思う。
信号機をつけてもらうのっていくらかかるんだろうか・・・
どれくらいの民の声が上がれば信号機の取り付けを検討してもらえるのだろうか・・・
と気を揉む日々だ。
そこまで思うなら表通りから行けよ、と突っ込みが聞こえてきそうですが、
難所はその交差点のみなので、そこさえ超えれば裏通りのほうが安全でスムーズなのだ。

そんな折り、難所交差点で工事が始まった。
わお、なんてこっただよ、と思っていたのだけど、交差点に近づくと、誘導員の方に停められることなくしごくスムーズに右折することができた。
お?めずらしく他方向からの車がなかったのかな、と思いながらハンドルを右に切ったその時、
交差点のど真ん中で「我のセンターステージなり」に言わんばかりに華麗に舞う誘導員さんの姿がそこにあった。
す、す、す、すげぇ・・・!!!!
その姿を右折の一瞬しか目撃していないものの、
誘導員さんは目が4方向についているのでは、と思うほどに全方位を把握されていて、
その身を華麗に翻しながら、北に南に東に西に、車を溜めることなく誘導していた。
しかもほのかな笑顔と会釈付きで。
誘導員さんは、センターの方の他にも、各道路の交差点40〜50m手前に一人ずつ配置されていて、
車が来る様子を適宜、センターの方にインカムで伝えているようだった。
わたしだったら4人から同時にインカムで連絡をもらいつつ、4方向からの車を把握して誘導するなんて絶対に無理!!
パニックになって逆切れでも起こしそうだ。
センター誘導員さん、すごい・・・!!
こんな感動する誘導は初めて・・・!!
そう思って、右折の瞬間にありったけの感謝の念を込め、手を上げてお辞儀をした。

それから難所交差点を通るたび、とても良い気分かつとても安全に走行でき、
毎回ありったけの感謝の念をセンター誘導員さんに投じた。
工事が休みだとちょっとがっかりしたし、工事をやっているようなのに車が詰まっていると、やはり違う誘導員さんだったりして、
「やっぱりあの人はすごいなぁ」と思っていた。

そんなある日、いつもより早い時間に難所入りすると、時間が早かったためか工事がまだ始まっていないようだった。
「そっか〜この時間だとまだ早いんだな」と思いながら交差点に突入する手前、
センター誘導員さんが一人で工事の準備をしているのが見えた。
こ、こ、こ、この人は・・・!
きっといつもこんなふうに誰よりも早く現場に来て準備を始めるんだろう、そんな様子が見てとれた。
思わず目頭が熱くなる。
あれだけの仕事をする人は、仕事前の誰も見ていないようなところでもこうなのだ。
人は人の目線に射抜かれるからこそ、正しい姿勢でいようとするところがある。
少なくとも私はそうだ。
でも、誰が見ていなくても、自分のやる仕事を全うするために淡々と自分を積み重ねていける人の格好良さたるや。
工事現場の誘導は誰にでもできる仕事かもしれない。
実際に棒を持って突っ立っているだけの人も多くいる。
でもセンターさんの誘導を受けると、「誰にでもできる仕事」とは到底思えないほどの感服する技術力だ。
どんな仕事に対しても、自分の姿勢を持ち、向き合い、技量を高めて、お給料をもらう以前のその目的を全うすることの大切さを、改めてセンターさんから学んだ。
どんな仕事でも、どんな姿勢で、どんなふうに向き合うのかによって、その人にとっての仕事の価値もまた大きく変わるのだと思う。

日々、センターさんからは安全だけではなく、気持ち良く背筋を正す想いをもらっている。
ありがとうセンターさん!
できればこのままずっと工事を続けていてください!
もしくは行政殿、信号機をつけなくて良いので、この方を公務員として雇い、誘導員として交差点に配置し続けてください!