【無料公開中】三島由紀夫が赤裸々に描いた同性愛! 文学とプライバシーをめぐる差止め裁判の結末

 本文では掲載しきれなかったが、文学とプライバシーをめぐる問題で出版差し止め・回収をめぐって裁判で争われたケースもある。

『三島由紀夫―剣と寒紅』(文藝春秋)

 作家・柳美里の『石に泳ぐ魚』(新潮社)という作品は、1994年に雑誌に掲載された。その後、モデルになった女性から出版差し止め訴訟を起こされ、最高裁で柳美里側の敗訴が決定。これは、同じくモデルとなった人物から訴えられた三島由紀夫の『宴のあと』(同)以来の、文学とプライバシーをめぐる大きな裁判となった。

 当の三島由紀夫に関しては、死後28年を経て、かつて交友関係にあった福島次郎という男性が98年に刊行した『三島由紀夫─剣と寒紅』(文藝春秋)は、三島と著者の同性愛関係が赤裸々に描かれていたことから、大きな物議を醸した。

 これに対し、三島由紀夫の長男と長女が出版差し止めを求める訴訟を起こし、00年に著者側の敗訴が確定。その理由は、本書で引用している三島から著者に当てた手紙は三島の著作物に当たり、遺族に無断での掲載は認められないというもの。

 しかし、『剣と寒紅』の内容は、三島由紀夫の人物像を理解する上では興味深く、三島由紀夫の人物像にもっとも肉薄した書物だとする人もいるほどだ。

 プライバシーと文学の関係をどうとらえるかは、これからも出版界のひとつの課題であり続けていくだろう。

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