資生堂、東芝、サントリー、竹中工務店……自社商品を買わせる気がない!? ぶっ飛んだ「企業広報誌」の真意

――企業広報誌と聞いて、自社商品がこれ見よがしに載った“つまらない紙束”を想起するかもしれない。だが、インパクト大な写真を用いて大胆にデザインされた誌面に、社会問題に切り込んだ記事が掲載されることもある。明治時代から現在まで日本の企業が刊行したそんな雑誌の真意を、古雑誌蒐集家のばるぼら氏が読み解く!

【2】「洋酒天国」
壽屋(現・サントリー)/28号(1958年8月):開高健、柳原良平らが編集した遊びの雑誌。壽屋の洋酒チェーン加盟店でしか入手できなかった。1958年に広告電通賞を獲得。最盛期は20万部。
【3】「花椿」
資生堂/246号(1970年12月):「資生堂月報」→「資生堂グラフ」→「花椿」。近代女性に必要な情報を網羅した機関誌で、花椿会の会員になるか店頭で入手できた。仲條正義のデザインは圧倒的!
【4】「BELL」
カネボウ化粧品/160号(1970年6月):篠山紀信の表紙写真が印象的な化粧品PR誌だが、金井美恵子や寺山修司のテキストをはじめ、全体的に詩的な香りが漂う洒落た誌面。
【5】「Energy」
エッソ・スタンダード石油(現・JXTGエネルギー)/18号(1968年7月):まったく企業広告が載らないことで知られたPR誌/企業文化誌。社内に向けて作っていないと言い切った編集長の高田宏は、のちに作家に転身した。
【6】「グラフィケーション」
富士ゼロックス/1971年7月号:コピー機の会社だからこそ、機械ではなく人間を中心に編集すべきとした、版型も独特の複製文化PR誌。この号の表紙画を描いたのは赤瀬川原平。
【7】「SPACE MODULATOR」
日本板硝子/45号(1974年7月):ガラスが使われていれば、なんでもアリの科学特集を連発するガラスPR誌。この号の特集は「科学としての空」。表紙はイタリアの建築家集団スーパースタジオの作品。
【8】「approach」
竹中工務店/1968年3月号:AD田中一光によるデザインが美しい建築PR誌。エジプト文明再考と都市計画家クリストファー・アレグザンダーのシステム論を並列に扱う知的センス。
【9】「さろん」
東芝/25号(1970年10月):東芝製品を扱う家電店で入手できた。電気釜を載せるなら、その釜で作る料理のレシピも例示するなど、家電の活用に目を向けたPR誌。
【10】「無限大」
日本IBM/74号(1987年夏):来たるべきコンピュータ社会に向けて制作されていた広報誌。常に国際的な見地から特集を組んでいたが、2013年にウェブ版のみになった。
【11】「グリコカルチャークラブ」
グリコカルチャークラブ事務局/3号(1986年4月):グリコが提供するFM横浜のラジオ番組と連動していたサブカルチャー誌。中面には、みうらじゅんのイラストが随所に使われている。
【12】「ET PLUS」
三菱電機/19号(1992年):谷崎テトラ率いる組織メルブレーンズが編集を手がけた、異様にデカいカルチャー誌。三菱電機の社員が書いた原稿だけが浮きまくり……。

 雑誌がなくなっている。

 もちろんコンビニや本屋の雑誌棚に“雑誌のようなもの”は並んでいる。しかしそれは、メーカーが売りたい商品を広告費順に載せた商品カタログか、今やっている展覧会や映画に便乗した特集を組むガイドブックか、マンガ家や音楽家の人気に当て込んだファンブックか、インターネットで集めた情報を書き直したネットの二次創作本だったりしないだろうか?

 そうした経済を回すためだけに作られる紙束を雑誌だと思っている編集者たちを尻目に、さまざまな記事をまとめて特色を出す“雑誌らしい雑誌”として相対的に浮上してきたのが、企業が発行するPR誌だ。PRというと、近年の日本ではなぜか広告のことになってしまっているが、本来はパブリック・リレーションズの略で、自分たちの意見や情報を、対象に(好意的に)受容してもらおうとする活動のことである。広告は即物的に「この商品を買ってください」、PRは理念的に「私たちの取り組みを理解してください」とする違いがある。

 自分たちの姿勢を表明し、イメージアップを図りたいPR誌は、時に日本の社会問題へ意見をし、時に大衆文化を嗜む親しみやすさを見せ、時に最新テクノロジーに柔軟な態度をとることが多い。まずは自分たちの味方を増やし、結果として商品が売れればいいという態度で編集されている。単純な売上げが目的でない分、時事ネタに追われ、タイアップ記事であふれた“雑誌”よりも、よほど純粋な編集方針があるといっていいだろう。そんなPR誌には、大きく分けて社内報と社外報の2種類があり、ここでは後者である社外報=企業広報誌の過去から現在について取り上げていきたい。

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