歴史学者から法律家まで、専門家が徹底分析! SMAPのデキる女性マネージャーはなぜジャニーズへの“謀反”に失敗したか?【前編】

――SMAPの“育ての親”飯島三智女史が”SMAPの乱”に勝利するには、何が必要だったのか?企業統治論、企業経営史、そして歴史の専門家たちが、知恵を絞って「戦の指南書」をサジェスチョン!

ジャニーズネットアーティストHPより

 まず、企業経営の視点からSMAP騒動を見てみよう。

 家族・親族内、企業内での内部抗争を一般に「お家騒動」と呼ぶことも多いが、「今回のSMAPの騒動は、企業における狭義の“お家騒動”とは呼べないでしょうね」と解説するのは、『実例に学ぶ経営戦略 あの企業のお家騒動』(リベラル社)などの著書があり、相続問題にも詳しい弁護士の長谷川裕雅氏だ。

「株式会社における”お家騒動”とは、株式を所有する創業家の親族同士が揉めることをいいます。しかし上場企業の場合は、配当金や売買益目当ての一般株主も多く、経営に関与しようとする大株主は少ない。そのためお家騒動は、少数の親族のみで株を持っていることが多い非上場の企業に多いのです。通常は、創業者ひとりが圧倒的な大株主ですが、2代目、3代目と時代が下るにしたがって、相続により子や孫へと株は分散されがち。一方で経営のほうは優秀な番頭格の社員が担い、創業家は経営から離れていくことが多い。ここで、経営方針を巡って、株主総会において発言力を持つ大株主の親族同士が争い合う、狭義のお家騒動が起きやすくなるわけです」(長谷川氏)

 お家騒動で誰が勝つかは、株式を何%握っているかによる。1%なら株主提案の権利を持つのみ、3%以上で株主総会の招集……と、持ち株比率によって権限は増大していくが、51%を単独保有すれば、取締役や監査役の選任・解任権を確保でき、経営の実権を握ることができる。

「飯島女史は、ジャニーズ事務所の子会社であるジェイ・ドリームの取締役ではあったようですが、同社でさえ代表取締役社長はジャニー喜多川氏ですし、何かの権利を行使できるほどの株は持っていなかったのでしょう。つまりこの事件は、所詮は社員反乱であって、お家騒動と呼ぶようなものではない。単なる社内トラブルですね」(長谷川氏)

 株式会社である限り、過半数以上の株を保有する株主が勝つ。これが基本原理であり、株を持っていなければ初めから負け戦なのである。

「しかし、例外はある」と長谷川氏は言う。

「コンテンツ型のビジネスは株の論理だけでは立ち行かなくなることがあります。そのよい例が、エイベックスのお家騒動でしょう」(長谷川氏)

 エイベックスでお家騒動が起きたのは、2004年のこと。筆頭株主で会長兼社長(当時)の依田巽氏と、創業者で取締役、かつ制作部門を指揮する音楽プロデューサーでもあった松浦勝人氏との間で経営方針が激しく対立、松浦氏が退社することになった。ここまでは前述の株式会社の論理である。

 ところが予期せぬ事態が起こる。松浦氏の退社に伴い、看板アーティストである浜崎あゆみをはじめ、EXILEのHIRO、hitomi、TRF(当時)のSAMらが続々と移籍する考えを表明したのである。これにより株価は急落。結局、依田氏が会長兼社長を辞任して名誉会長に退き、松浦氏がエイベックスに復帰、丸く収まることになった。その後、エイベックスの株式はUSENが22・38%を取得し、経営体制が刷新された。

 これは、大株主である依田氏が負けたという珍しい事例である。株という武器を持っていなくても、その会社を支えるキラーコンテンツや多数の兵隊を味方につければ勝てるケースもあるのだ。

 仮にSMAPだけでなく、嵐ほか多くのグループが飯島女史に付き従って独立を表明すれば、事態は違っていたかもしれない。しかし現実には、“飯島派”のグループはおろか、飯島女史に恩義を感じているはずの木村さえもジャニーズ残留を希望した。「ジャニーズ」という看板があってこそ、自分たちは円滑に仕事ができるのだと判断したのだろう。いちグループの、しかも一部のメンバーの独立というだけでは、ジャニーズに与えるショックは小さすぎたわけだ。

 とはいえ、これだけの騒動となり事務所のイメージに傷がついたことは否めない。謝罪会見に対しては、「なぜSMAPが謝らなければいけないのか」「世間を騒がせたことを謝罪するなら事務所側ではないか」と、SMAPに対する同情意見と共に、事務所批判が多数見られた。

「SMAP案件がすべて飯島女史に集中し、SMAP=飯島女史という存在にまでなってしまったことが、騒動の大きな要因といえます。つまり、SMAPの担当をローテーションしていれば、飯島女史がこれほど力をつけることはなかったということ。社内反乱を防ぐという観点でいえば、人事労務面で事務所側に問題があったことは否めません」(長谷川氏)

 メリー氏自身、「週刊文春」のインタビューで「間違いがあるとしたら、この人(飯島氏)はSMAPが長すぎているのかもしれませんね」と語っている。人事の失敗は経営側の責任だ。起こるべくして起こった謀反だったといえよう。

(文/安楽由紀子)

後編に続く

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