【歴史研究家・河合 敦のオススメ本】魏志倭人伝から歴史教科書まで変化するこの時代に歴史を学び直せ!

――中公新書から出された『応仁の乱』がバカみたいに売れている。日本史関連の書籍としては異例のことだというが、知られざる史実をつまびらかにしたような本当に面白い書籍は、ほかにもあるのではないか――。そんなヤバい“日本史”本15冊を、歴史学者や社会学者、ジャーナリスト、お笑い芸人らに紹介してもらった。

河合 敦(かわい・あつし)

1965年、東京都町田市生まれ。多摩大学客員教授。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学。平成元年より東京都の教員として日本史を担当。また、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)などにも出演し、数々の歴史書を発表。近著に『「お寺」で読み解く日本史の謎』(PHP文庫)、『テーマで歴史探検』(朝日学生新聞社)など。

愛知・長興寺所蔵の織田信長像(写真/PPA/アフロ)

「歴女」といわれる歴史好きの女性ファンが増えるなど、いま、歴史がブームとなっています。戦国時代と幕末がもっとも人気があるとはよくいわれることですが、なかでも一番人気は、やはり織田信長ですね。そこで私がまず挙げたいのが、『現代語訳 信長公記』【1】です。

 この書物を書いた太田牛一は信長に近侍していた人で、本能寺の変後は豊臣秀吉に仕え、武将というよりも行政官僚として活躍した人。彼が1600年頃に完成させた織田信長の一代記がこの『信長公記』なのですが、当時の他の史料と照らし合わせてみても、誇張や歪曲が少なく、現在でも第一級の史料とされています。そしてなぜこの書物を私が挙げるかというと、現在まで続く日本人の「織田信長像」を作ったのが、まさにこの書だから。その後の多くの小説や映画、そして昨今のドラマ、マンガ、ゲーム……それらすべての原点にこの書物があると思います。

 父・信秀の葬儀の際にヘンな格好で現れて焼香の際に抹香を投げつけたという有名なエピソードはすでにここに書かれており、一方で秀吉が信長に仕える際に懐でわらじを温めていたという後世の創作エピソードは書かれていない。そういう意味でも、ほかの軍記物などと違って史料として信用に値する書物であり、日本人の信長像の根幹には、間違いなくこの本があるといえるでしょう。

 さて、ここで「日本人」と私は言いましたが、いま、この「日本人」が問われていますよね。経済が停滞するなか移民の必要性が主張され、一方で排外主義を叫ぶ人も多い。そこで私が挙げたいのが、『魏志倭人伝』【2】です。我々が住むこの日本の風景が、初めてきちんと文字で明らかにされたのはこの書。もちろん、それ以前の日本を描いた『漢書地理志』や『後漢書東夷伝』もありますが、いずれも記述は短い。逆に日本人が自らの手で歴史書を著すのは8世紀の『古事記』『日本書紀』まで待たなければなりませんよね。そういう意味でこの『魏志倭人伝』は、初めて詳細に書かれた日本人の姿なわけです。

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