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【日記/60】最近しらべた麻薬4種

ペヨーテ:

ペヨーテという単語は、最近だとBBCのこちらの記事で目にした。ペヨーテ、和名はウバタマサボテンである。googleで画像検索してみたが、見た目は確かにサボテンっちゃーサボテンなのだけど、はっきりいってキモイ。ぶくぶくに水ぶくれしたサボテンだ。ネイティブアメリカンの宗教儀式に用いられることがあるらしいが、英国ではもっとも危険とされる「クラスA」に分類される薬物である。記事では「神に出会える」とされているが、カルロス・カスタネダ『呪術師と私』という本によると、まるで自分が犬になってしまったかのような幻覚を見るらしい。

ウバタマサボテンはなんと日本でも花屋などに行けば普通に売られているらしいが、日本で育てたものには麻薬成分であるアルカロイドが含まれていないので、効かないのだそうだ。神に出会えるのか、はたまた犬になるのか。効果のほどはわからないが、何しろ「クラスA」の薬物なので、悪用してはいけない。

参考:高野秀行『ワセダ三畳青春記』

チョウセンアサガオ:

個人的に、今最も興味のある薬物だ。……それはもちろん「試してみたい」という意味ではなくて(そんなことnoteに書かない)、これが出てくる他の文学作品やエッセイはないかなあ、あったら読みたいなあと強く思っているという意味である。なお、原産地は南アジアだ。

チョウセンアサガオの花弁は白く、見た目は普通の朝顔だが、種に毒があるらしい。その毒が非常におそろしく、服用した者は怪獣に襲われる幻覚を見たり、巨大なワシに追いかけられるスズメになった幻覚を見たりするらしい。気が狂って二階から転落するなんてこともあるそうだ。薬物中毒者ですら絶対に手を出さないといわれる、非常に危険なドラッグである。

通常は種を4粒ほど食べるともう危険ゾーンに入るらしいのだが、参考図書にあげる『ワセダ三畳青春記』のなかで著者の高野秀行さんは、このチョウセンアサガオの種をウーロン茶で流し込みながら百粒近く食べてしまう。百粒だ、百粒。幸い命に別条はなかったので上記にある本を書いて出版しているのだが、なんで死んでないんだこの人。話し出すとキリがないが、高野さん九死に一生を得すぎでもはや幸運とかそういうレベルじゃない気がする。なんで死んでないんだこの人。

種を百粒食べた高野さんはどうなったのかというと、瞳孔が開きっぱなしになってしまい、なんと3週間ほど、瞳のピントがずれて文字が読めなくなってしまったそうである。おかしな植物を遊び半分で食べて字が読めなくなったら、私は深く後悔し人生に絶望するだろう。だけど高野さんはこのとき、「文字が読めないなら当然書くこともできないから、物書きは無理だ。画家になろう」と思ったという。なぜそんなに楽観的なのか……。

だけど、このチョウセンアサガオの体験記は、深く私の心を魅了した。

瞳孔が開きっぱなしだと、世界が、というか世界のすべての色が、とても美しく見えるという。世界に一色として同じ色はなく、同じ2冊の本の表紙の「赤」も、同じ中吊り広告の「青」も、すべてがちがう色に見えるらしい。そして、高田馬場のホームから見下ろした夜の街があまりにも美しく、高野さんはホームで涙を流したという。そしてその瞬間、神に近づいたとも思ったらしい。

単なる薬物の作用だといえば笑い話で、事実高野さんはこの体験をとてもユーモラスに書いているのだけど、私は、こういった世界は本当に「ある」のだろう、と思った。岡本太郎や草間彌生には、きっと、世界は常時そのように見えている(いた)はずだ。芸術家は、フィクションを作っているのではない。彼らにはたぶん、世界が本当に、そのように見えているのだ。凡人である私たちは、彼らのフィルターを通して世界を見るか、あるいは薬物の力を使うなどして神に近づくしかない。だけど、「その世界」は、本当にあるのだ。

参考:高野秀行『ワセダ三畳青春記』

マジックマッシュルーム:

もともとは、古代メキシコでシャーマンが神託を得るために食べたりしていたらしい。個人的な趣味として、こうやって薬物について調べることにハマっているわけだけど、私たちが普段「ドラッグ! 危険!」と遠ざけているものは、昔はただの医薬品であったり、あるいは宗教的儀式ととても関係が深かったり、そして当然ヒッピー文化とも、アートとも関連があったりするから、やっぱり面白いなあ。

バリ島でマジックマッシュルームを試すというエッセイを見つけた。服用すると、世界が万華鏡になるらしい。瞳孔が開いてしまうようで、チョウセンアサガオと似た作用である。ヒッピーが着ているイメージがある絞染めのTシャツなんてのがあるが、おそらく世界がああいうふうに見えるのだろう。

参考:宮田珠己『旅の理不尽』

ヘロイン:

先日、ヘロイン中毒によって気絶した祖母とその交際男性の写真が記事になり、話題となった。ヘロインはドラッグの王様で、いっちばんヤッバイやつ、というイメージが私のなかにはある。

ヘロインはアヘンに含まれるモルヒネから作られる麻薬で、原料となる植物はケシである。今ではすっかりヤバい薬物として定着しているが、かつてはモルヒネに代わる万能薬として、国際的に宣伝された医薬品だったらしい。

原料が同じだからか、服用したときの効果はアヘンに似ているみたいだ。ハイになったり、気分が昂揚したりするのではなく、安らぎや静けさがもたらされるという。欲望を忘れられる。全身の力が抜け、深い眠りに引き込まれる。希望、夢、誇り、そして愛、すべてが消える。苦痛も、後悔も、自分を恥じる気持ちも、罪の意識も、悲しみも消える。

……それはつまり人間じゃなくなるってことだが、「良く生きる」というのは難しいことだ。希望があるから苦痛を味わう。夢があるから後悔する。誇りがあるから恥がある。愛があるから、罪がある。夏目漱石も、『こころ』で「恋とは、罪悪です」といっていた。

やはり、闇と光は表裏一体である。どちらか片方だけなんてありえないのだ。生きるというのは苦悩であり、この世は地獄だ。だけど、苦悩を手放せば希望は消え、地獄を見ないと天国の存在に気付かない。世界は美しく、そして同様に汚い。

あー生きてて良かった。人間てやっぱり最高にクズだ。最後はなんだか真面目なまとめになってしまいました。

参考:グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』

※前回のまとめた分はこちら↓

【日記/56】最近しらべた麻薬2種




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