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【お茶と文学-韓国編】柚子茶とキム・エラン『外は夏』

昨年の夏頃まで、「だって、行けないんだモン。読んだら悲しくなっちゃうんモン……」とうじうじ泣きながら、旅行エッセイを読むことがほとんどできなかった私。重症だったな!? 

秋から冬にかけてようやく「そうはいってもしかたねえ」という心境に徐々になってきたので、いまは流水りんこさんの『インドな日々』とかを楽しく読んでいます。これを読むとめちゃくちゃインドに行きたくなるんだけど、このマンガはいささかシモの話が多すぎる気がするので、超おすすめだけど下品なのが苦手な人は要注意。ちなみに私は旅行先のトイレネタでいうと、カンボジアで「トイレどこ」って聞いたときに店員さんに笑顔で草むらを指差されたときがいちばん「わーお!」と思ったかな。でも下手に汚いトイレよりはいっそ大自然のナチュラルトイレのほうが清潔なのではと考え、そのとき、私は、私は……。

いや、今回はシモの話をしたいわけではない。3〜4分空き時間ができればスカイスキャナーで航空券をチェックし「はあ、こういうルートで飛ぶ飛行機があるのね。いいじゃないいいじゃない。いつかの旅で使いましょうじゃない〜」と妄想旅行をするのが趣味の私、この趣味をどうにかnoteに役立てられないかと(?)考えた。

そういうわけで今回から、「もし世界一周をやるならこういうルートだな」とスカイスキャナーを駆使して妄想しつつ、旅先の文学と料理でも楽しもうかな。いや、私は料理苦手なので、じゃあ、飲み物でいいや……という感じで、いろんな国の文学を読んでいこうかなと計画している。私が飽きるまで。なお、下の本が参考文献である。

柚子茶とキム・エラン『外は夏』

前置きはいいとして、世界一周をする人ってだいたい東南アジアから始めているイメージだ。でも今回は妄想だし、できるだけジワジワ行きたいので、最初は韓国。成田空港-仁川空港便はもちろんあり、お値段は最安で片道11660円。そんなお隣の韓国の、キム・エラン『外は夏』を読みながら、柚子茶を飲んでみる。(私にとって柚子茶は韓国のものというイメージが全然なかったが、普通に美味しい)

『外は夏』は7つの話が入っている短編集で、テーマは〈喪失〉らしい。子を亡くした夫婦、犬を亡くした少年、夫を亡くした妻などの物語があったけど、個人的にいちばん気に入ったのは『覆い隠す手』。シングルマザーの主人公が、中学生の息子の誕生日を祝うために料理をしている場面から始まる。クロソイという魚の鱗と内臓をとって、スープを作っている。それがどんな国のどんな料理であっても、料理の場面ってなんか楽しい(実際にやるのは別として……)。

私には子供がいないのであまり知ったことは言えないのだけど、『覆い隠す手』を読むと、子育てってきっとこうなんだろう、という気がする。ネタバレは避けるが、はっきりいってぜんぜん心温まる話ではないので、子持ちの友人にこれを言ったら怒られるかも。自分とはまったくちがう生き物がすぐそばで育っていくことの恐ろしさ、薄気味悪さ、というか。

不意にあの手、動画に出てきた手、関節が太くなった手でジェイが慌てておい隠したのは、悲鳴じゃなくて笑い声だったのかもしれないという気がして。もしそうだとしたら、私がこれまでジェイに与えてきたものは一体なんだったのだろうか。(p.229)

でも私の思想でいうと、恐ろしくて薄気味悪いからこそ次世代なのだ。上の世代と同じ価値観や同じ枠の中で育っていく次世代なんて意味がない。子供は親を(比喩的な意味で)殺してナンボである。……と、思っているから、心温まる話ではまったくないけど、これが短編集『外は夏』のいちばんのお気に入りとなった。

韓国と日本は、当然ながら文化的にかなり近いところにある。だけどときどき、個人的にはアメリカ文学なんかよりもよっぽど「異国感」を覚えることがあって、それは、近いからこそ差異が目立つし気になるのかもしれない。食事や料理の場面などだとそれが顕著で、パスタを茹でたりオムレツを作ったりされてもなんとも思わないけど、キムチとかクロソイとかわかめスープとかが出てくると「外国だ!」という感じがしてしまう。いや、その異国感が楽しいのでいいんだけど。

最後に、『覆い隠す手』の次くらいに好きだった『どこに行きたいのですか』という短編で好きだったセリフを引用して終わる。主人公がSiriに話しかけて、以下はそのSiriの返答である。

ー私の知る限り、人生とは悲しみと美の間に存在するすべてなのです。(p.246)

Siri、本当にこんなこと言うのか!? 私のSiriは話しかけてもぜんぜんしゃべってくれないのだが。でもそのとおり、私はペシミスティックな人間なので、人生とは「愛」「幸せ」「豊さ」などと言われるより、「悲しみと美の間に存在するすべて」と言われるほうが、腑に落ちる。

そういうわけで、ソウルから次の街に行くための航空券を、暇なときにまた探します。




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