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【10/7】でも、起きたことは仕方ない:『TENET』感想

クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET』を観てきた。が、難解な背景や時系列の解き明かしは私にはできないので(というか、めちゃくちゃいろいろな解説記事を読み漁ったが、いまだに半分くらいしか理解できていない)以下はあくまで「感想」、それも主題に関する感想である。解説記事をご希望の方はここでUターンを……。あと、少しネタバレしてるけど、そもそもよくわかっていないのであまり盛大にはやってないはず。観る前の人が読んでも平気だろうと思うけどそこは自己責任でどうぞ。

ちなみに私のノーラン遍歴はというと、まずいちばん好きなのは『インターステラー』。この作品は文句なしに大好き。次点が『ダークナイト』。このあたりからちょっと雲行きが怪しくなる。『ダンケルク』は正直「えっ?」って感じ。詳しくは語らない。『TENET』については、結論からいうと『ダンケルク』と同程度で、「別に観なくてもよかったんじゃないか」とわりと冷めた感想を持ってしまっているのが現状だ。その程度の感想なのになぜわざわざnoteに文章を残しておくのかというと、2500円と2時間を費やしてしまったので何も残さないのはもったいないという、貧乏根性ゆえである。

映像よりエリザベス・デビッキにグッとくるでしょ

さて、解説記事をお求めの方はUターンを……とは言ったものの、内容にまったく触れないのも無理がある。主人公(名前は最後まで明かされない)がTENETという組織に関わり、第三次世界戦争を食い止めるべくがんばるというのがこの映画のあらすじだ。そして、ここで秘密兵器として導入されるのが、「時間の逆行」である。通常、銃をぶっ放すときは、引き金を引き、弾が出て、的に当たる。原因があって、結果がある。だけどこの映画の中では、時間の逆行を起こすことができる。結果が先にあり、原因があとに来る世界だ。回転ドアの中に入るとそれが可能になるのだが、私はバカなので「時間が逆行するってそもそも何?」という時点で頭が止まっている(その程度の認識の人間が書く感想なので時系列などに関する細かいミスはご容赦ください)。

そもそもが二回以上観ることが前提で、一回観て理解できる作りにはなっていないらしいめちゃムズな本作だが、ウケている人にはウケているらしい。何がウケているのかというと、まずは、難解であるがゆえにわかるとマウントとれるっていう優越感だろうな。しかしこれについては私も、たいして教養ないくせにインテリを気取るシネフィルの気があるので、あまり咎められない。「テネット解説おじさん」みたいなのが巷でたくさん爆誕しているのではないかと心配している。

……というのは冗談で、『TENET』を絶賛している人の中では、やはり映像の魅力を語っている人が目立つ。逆再生と順再生を混ぜこぜにしたシーンの迫力が凄いらしい。観たのに「らしい」ってなんだよって感じだが、私はちょっとこれにも「う、う〜ん?」と思ってしまった。ジャンボジェットを空港の倉庫に突っ込ませてぶっ壊すシーンは「莫大な金をかけてとてつもなく大きなものをぶっ壊すのって楽しい! ハッピー!」と幸せな気分になったけど、私はそもそも戦闘シーンとかカーチェイスに魅力を感じにくいからな。逆再生&順再生の迫力シーン、好きな人は好きなんだろうねという程度だ。

本作の腕の見せどころであるそれらのシーンにあまりグッとこなかった私が、何を支えにこの2時間を集中していたかというと、ヒロインであるキャットを演じたエリザベス・デビッキの美しさである。私が最初にデビッキを「美!」と認識したのはバズ・ラーマンの『華麗なるギャツビー』で、ここでデビッキが演じていたジョーダン・ベイカーという役柄が原作で好きだったこともあり、相乗効果で大好きになってしまった。

しかしこのエリザベス・デビッキさん、身長がものすごく高いのだ。なんと190センチあるそう。『華麗なるギャツビー』のときもトビー・マグワイアと横並びになったときにデビッキのほうが大きく「あれっ」って感じがしたが、この作品でマグワイアが演じているニック・キャラウェイはちょっと頼りない感じのキャラなので、それはそれで受け入れられる。『TENET』でも当然、エリザベス・デビッキは背が高い。そのため、ところどころ遠近感が狂っているような印象を与える(男性のほうが背が低いので)。でもとにかく美しいエリザベス・デビッキ。物語の筋がよくわからなくなってきたときは、ひたすら美しいデビッキに意識を集中させていた。

もう少し真面目なことをいうと、SFでは決して珍しくない仕掛けらしいけど、彼女が「自由な姿に嫉妬する」と言っていた船から飛び降りる女性が、実は時間を逆行してきた自分自身だった……というオチはけっこう好きだ。人間はかけ離れた存在に嫉妬するのではなく、自分でも手に入れられたかもしれないもの、自分でもなり得たかもしれないものに嫉妬する。だから、嫉妬していた女性が実は自分自身だったというオチはそのことの象徴のようで、むしろもう少しここをクローズアップして描いてほしかったくらい。ノーランの映画の女性像って正直ちょっと薄っぺらいからな〜。

時間逆行は可能でも、「起きたことは仕方ない」。

そして、以下はさらに真面目な感想なのだけど、そもそも時間逆行の仕組みをあまり理解していないので、若干ズレたことを言うかもしれない。いや、この映画難しいよ!

『TENET』で印象的だったのは、本作が「時間の逆行」を扱っているにも関わらず、劇中で「起きたことは仕方ない」というセリフが登場することだ。作品中でビミョ〜に矛盾しているように見える描写をごまかすためのセリフと意地悪に捉えることもできなくはない気がするが、あくまでストレートに受け取ると、本作では1週間前、1時間前に時間を逆行して戻ることができる。だけど、「起きたことは仕方ない」のだ。

そもそもが、何か強いメッセージ性を持った作品というよりは「すげー映像撮れちゃうもんね! 撮っちゃったもんね! どーん!」ってノリのエンタメだと思うので、メッセージを考えたりするよりは素直に爆破シーンに感動してたりするほうがいい気もする。が、すでに結果が存在している世界において、自由意志はあり得るのか? とか、一応そのへんがテーマといえばテーマっぽい。文系人間の私としては、SFの設定はどうでもいいから自由意志のあり方とかを追及して(というか、もっとわかりやすくして)ほしかったと不満が残る。

私は「あのときああしていたら……」と考えるのがかなり嫌いで、だって起きてしまったことは仕方ないもんね。こうなるとわかっていたらその行動を起こさなかったかもしれないけど、そのときは結果がわからないから行動するわけで。結果を知った上で行動したい(あるいは、過去に戻ってやり直したい)と考えるのは人の心かもしれないけど、自分の自由意志を信じていない考え方なので、私には抵抗がある。時間の逆行が可能な世界で「起きたことは仕方ない」と語らせるのは、なかなかいいなと思った。

私はたぶん、この映画の二回目は観に行かない。細かい仕掛けの部分が気にならないわけではないし、二回目を観に行ってちゃんと謎解きをしたい気持ちがないわけではないんだけど、謎解きをしたところで主題に近づけなさそうというか、この映画における謎解きはあくまで知恵の輪をほどく快感に終わってしまいそうで、謎解きが完成すると主題がよりメッセージ性を持って迫ってくる……という類のものではなさそうだという予感がある。一回観ただけじゃわからず、二回目三回目を観たくさせるってのはいいと思うんだけど、それなら「知れば知るほど主題の味が滲みる」みたいな作りになっててほしかったな!?

個人的には、解説・感想記事でいちばん興味深く読んだのはsaebou先生のこちらである。そして、ここで書かれているような「乗っ取り」を、今後も多くの映画がやってしまうんだろうなと思う。

そういうわけで結論としては、「今後のノーラン作品がどのような方向に進むのか」をウォッチしたい人にはおすすめするけど、それ以外の人はあんまり観なくていい映画なんじゃないかと思ってしまいました。おわり。

شكرا لك!