ドライブ

元々、車の運転に自信がない。
運転するのは何週間ぶりだろうか。
この間、諸々なことでストレスを抱えていた。
それだけでも十分憂鬱だが、運転して向かう先が実家で、実印を持参して兄弟や専門家と同席すること…というのも気が重かった。

昨夜は早く寝た。
友達がくれた、目がぽかぽかするいい香りのアイマスクを着けて熟睡した。
緊張のせいか目覚ましより早く起きて、ぬるい湯にゆっくり浸かりリラックスできたはずだ。

入念に準備して家を出た。
すぐに忘れものに気がつき、引き返す…を4回やってやっと駐車場へ向かう。
尋常ではない。

高速に乗る前、行きつけの喫茶店に寄った。
初めてコーヒーのテイクアウェイ(マスターがイギリスかぶれのためテイクアウトと言わない)だ。
いい香りのエチオピアコーヒーを選んだ。
マスターと奥さんと少し話して、ほっとした。

友達にも連絡した。
心強い返信が来て、安堵した。

車内のBGMは奥田民生のみ。
たいていの歌は口ずさめるが、歌詞は間違っている。それでいい。

高速に乗って、初めてクルーズコントロールというのを使ってみた。
最高速度を設定すると、アクセルを踏まなくても進むのだ。
前に車がいる時は速度を調整してくれるのだ。
なんとかしこい仕組み!
実際、とても楽ちんだった。

滞りなく郷里に着き、時間があったので墓参りや近所の伯母の顔を見に行ったりした。

途中寄ったスーパーマーケットで、私の名を呼ぶ人がいる。
隣町の年に一度会うか会わないかの親戚のおばさんだった。
よくぞ、気がつきましたな…嬉しかった。

実家での用事は滞りなく済んだ。

帰り道、高速に乗る前にガソリンスタンドへ寄らねばならない。
出るときから薄々気が付いていた。
これも気が重い。
給油口の開け方は毎回賭けのようなもの、覚えられないのだ。
店員がサービスしてれるスタンドを選んだ。
もたもたしている私に、店員が「大丈夫、給油口開きました」と声をかけてくれた。
ニキビの残る、頬の赤い青年店員だ。
フロントガラスや、車の周りを拭いてくれた。
これは当たり前のサービスなのか、そんなこともわからない。
給油が終わり、会計し、私はまたもたもたと出発準備をする。
青年店員は「どこまで行かれるんですか?」と、声をかけてくれた。
明らかに気遣ってくれたやつだ。
2時間半かかる行き先を伝えると「明日はお休みとってますか?」、頷くと「ですよね、お気をつけて」と見送ってくれた。

途中、パーキングエリアで休憩がてら友達に連絡した。
気をつけて帰っておいで、と返事をくれた。
安全運転で帰るよ、と声に出した。

無事に帰り、駐車場に車を停めた。
夜の管理人は手続きしてくれたおじさんだったので、挨拶すると笑顔を返してくれた。

遅い時間だったが、久々に行きつけの店に寄り道したい気分になった。
閉店時間にはだいぶ早いはずだが、灯りが消えていた。
諦めかけたが、人影があったのでドアを開け声を掛けると、マスターとパティシエがワインを飲んでいた。
「久々に顔見れて安心しました」と言ってくれて、泣きそうになった。
あれこれ立ち話をして、楽しい時間だった。

私は人と関わって生きているんだと心底感じた。
言葉にすると陳腐だ。

長距離ドライブした日の記し。




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