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本レビュー『考えるナメクジ』

松尾亮太先生の著作です。ナメクジ研究者がナメクジの生体を語ってくれています。特に学習ができるという点と脳について大変興味深い本です。

あ、写真は紫陽花です。ナメクジは関係ありませんw

脳のことについては私もそれなりに詳しいのですが、ナメクジは全くのノーマーク。エリック・カンデルがウミウシの研究で連合学習の研究をしていたので、ナメクジも類縁ということで、それなりに凄いだろうとは想像していましたが、どうやらナメクジの方が賢いようです。

例えば、ナメクジは二次条件づけができます。古典的条件づけによって、学習した条件刺激に更に連合ができるという能力です。犬やネコではよく語られているのですが、まさかナメクジもそのような学習ができるとは!

それから、ナメクジ独特の能力もあります。それは「再生」です。角を切り取っても再生されます。脳の一部、前脳葉を切り取っても、再生されます。そうなんです、ナメクジの神経系は再生可能なんですね。

面白いのは、学習との関わりです。先程のような条件付を学習したナメクジですが、脳を切り取ると、忘れてしまいます。それから興味深い点としては、角を切り取ってもやはり忘れてしまうんですね。目にある神経核と脳の両方を使って学習ができるようです。なかなか面白いですよね。ヒトであれば、何かで目を失ってしまっても、記憶が消えることはないですから、少し仕組みが違うのでしょう。

それから、目を失っても光を感じることができるそうです。脳そのものに光感受性があるらしく、目を切り取られてしまっても、ナメクジが好きな暗がりに移動できます。脳そのものの光感受性なんて不思議です。ただ、人間にもそういう節があるようで、脳の視交叉あたりに光を感じる場所があるとかないとか。オカルトの第三の目ってのを彷彿としますよね。

他にもナメクジの運動神経はなんとDNAが増幅されるとか。哺乳類一般では、細胞は2倍体という形でDNAを保持しています。ところが、ナメクジの運動神経では1万倍のDNA量になっている細胞が見つかっています。こうすることで、神経細胞の巨大化を助けているとのこと。ふーむ、さすがナメクジ、ヒトとは戦略が違います。

一番印象深かったのは、ナメクジの走性と矛盾する学習のとき、ナメクジが苦悩するところでしょうか。ナメクジは身体を湿らせておく必要があるので、暗がりで湿った場所が好きなわけです。そして明るい場所を避けようとします。ここで研究者が意地悪をします。暗がりに向かうとキニジン硫酸とう苦味を吹き付けるんです。そうすると、暗がりに対して嫌悪を連合学習します。
 そのように学習したナメクジを普通の環境に戻すと、明るいところから暗がりに行こうとするのですが、暗がりに対する嫌悪をおもだして、明るい場所から移動できずにいる状態が続くことになるわけです。明るい場所にいたくはないけれど、暗い場所も嫌な感じ。。。なんだか身につまされる実験です。

仕事が嫌だから会社にいきたいくないけれど、会社にいかないと生活が成り立たない。行きたくない。なんなら辞めたいけど、程よい仕事があるのかもわからないし。。。みたいな?w

このようなナメクジの不思議が色々と書かれている本です。意外な能力、というか、脳力に触れて驚きが沢山でした。

日頃は、害虫という存在なのでしょうが、知っていくうちになんだか親しみが湧いてきます。ナメクジってなんなんだろう?と思った方はぜひ、この本を手にとってもらえたら良いんじゃないでしょうか。内容もわかりやすく、丁寧で分量もライトなのでお手頃だと思います。

以上、ブックレビューでした。


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