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【書いたもの】貴族院議員・麻生太吉の誕生

このたび上述の論文を『エネルギー史研究』No.36、2021年3月に発表しました。本稿は、明治44年から大正14年までの間、二期14年間多額納税者議員として貴族院議員を務めた麻生太吉の政治活動について、主に前半の七年間に焦点を絞ったものです。(本当は原敬内閣期をじっくり検討したかったのですが、そこにたどり着いた時にはすでに紙幅が尽きていました。笑 これはまた今度ということで。)

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筑豊の炭坑資本家は井上馨の影響もあり、立憲政友会所属の者が多く、麻生も例外ではありませんでした(一時期、政友会所属の衆議院議員だった時期もあります)。その延長線上で、貴族院議員となった麻生は、前年に誕生した政友会系の交友倶楽部に入会するかと思いきや、各会派の勧誘を受けた末、子爵中心の院内会派・研究会に入会。
一部では知られているように、研究会は議会審議における幹部の決議拘束が規定されており、政友会に所属している麻生は、政友会での党議と研究会の決議拘束が違背する可能性に悩みます。一方、子爵以外の議員の取り込みも図っていた当時の研究会は、決議拘束の「例外」があることを保証し、麻生の入会を取りつけます(実際に研究会規則に決議拘束の「例外」規定はあり)。
このあたりのことは、昔、議会関係の史料を整理した時に付した小文「議員時代の麻生太吉」で簡単に触れたのですが、今回、改めてこの経過を精査したうえで、政友会に所属したまま研究会所属にした貴族院議員・麻生太吉が、その後どのような政治活動を行うのか、「麻生家文書」をはじめとする諸史料で検討した次第です。

詳しい検討過程は論文の方に譲り、ここでは結論だけ述べると、一期目の七年間を見る限り、貴族院議員・麻生太吉の政治活動の特徴は、①院内会派・研究会に所属しつつも、それ以上に政友会への帰属意識が強いこと、②衆議院議員の経験を有するがゆえに、多額納税者議員が貴族院と〈地方〉とを結ぶ回路たらんとしたこと、の二点にまとめられそうです。②’ただ、②に関する具体的な行動は、あくまで自意識に留まっており、議場での言動を含め、研究会所属議員という観点からはほとんどみられることができなかった、とも論じました。自らが表に立つより、一歩下がった調整役を志向している点も特徴的です。
付言すると、各道府県より互選される多額納税者議員は、他の貴族院議員と異なり明確な”選挙区”があるところはポイントだと思います。それは、有爵者議員――大名華族の”旧藩”とはまた違った意識だったのではないでしょうか。

展望としては、麻生太吉翁伝刊行会編『麻生太吉翁伝』(同会、1935年)(←図書館送信資料です)において、原敬内閣期の鉄道敷設法案改正審議の際、野田卯太郎逓信大臣の意を受けた麻生が政友会と研究会との「接近に尽瘁」したとの評価があり、この記述の妥当性も含め、上述の①、②の評価を踏まえた貴族院時代後半の麻生の政治活動を分析することが次の課題となりそうです。
なお、この点は、よくよく知られている原内閣期の貴衆縦断政策と符号するところなので、多額納税者議員に視座を据えるとどうなるか、といった感じになりそうです、今のところ。

さて、今回主に検討した、九州大学附属図書館付設記録資料館に寄託されている「麻生家文書」は、福岡藩の庄屋で、筑豊御三家の一つとして石炭産業を牽引した麻生家と、同家が経営した関連会社に由来する膨大な史料群――おおよそ大型文書箱約1600箱――です。
史料群全体の概要・構造や整理の来歴については、古賀康士「麻生家文書の史料論的考察 ―大規模史料群の調査のために―」(日比野利信『近代日本における企業家のネットワーク形成 ―地方財閥の人脈に関する総合的研究―』平成28年度~平成30年度科学研究費助成事業研究成果報告書、2019年)が一番まとまっており、詳細はこちらをご参照ください。

ちなみに、「麻生家文書」に残された日記は、すでに全5巻で刊行されています。第5巻に付された詳細な人名・事項索引、関連年表は大変便利です。麻生の日記の記述は断片的なところがあり、上京時の記述があまりないという特徴があるものの、麻生太吉や麻生家は同時代的にも公私にわたる膨大な書類の整理を段階的に進めており、それは、顕彰的な色合いの濃い前述の『麻生太吉翁伝』も、その記述の根拠となったであろう史料の簿冊が複数発見されたことからも窺えます。
過去に史料整理した時(下記リンク先目録)、一人の議員が一会期で受け取った議会資料の数の膨大さに圧倒された記憶があります。ちゃんと保管していた政治家の私文書群、ほとんどないのではないでしょうか?

1974年から断続的に続いている「麻生家文書」の史料整理も、今年度原口が中心となって整理した分、829点の目録を「新規整理分「麻生家文書」目録」として同じく『エネルギー史研究』No.36で発表しました。論文とあわせて、遠からぬうちにリポジトリ登録されますので、そちらからご覧いただけたら幸いです。

ちなみに、現段階でオンラインで閲覧可能な目録は次の通りです。これで全体の約15%~20%ぐらいでしょうか。

整理済みの史料目録は段階的に公開する予定ですので、こちらの方もどうぞよろしくお願いいたします。

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