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椅子にアイドルが立つと人は歩けなくなる(アイマスMRの感想)

2018年9月24日の日記に加筆修正を加えた記事です

 2018年、9月24日。私は横浜にいた。

 訪れた目的は『THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆2nd SEASON』だ。知らない英語がいっぱい並んでいてわからないと思うので説明すると「アイドルマスターの、なんか新しい技術をふんだんに使用したライブ」である。ここからはアイマスMRと表記する。

アイマスMRとは

 そもそもアイドルマスターとは何か。今回それは重要ではない。10年以上前からあるアイドル育成コンテンツで、プレイヤーが「P(プロデューサー)」としてアイドルをトップアイドルへと導く。それがわかっていればいい。わたしは今年の7月に初めてアイマスに触れたばかりなので、ニワカもいいところである。

 通常、アニメやゲームの生ライブといえば、キャラクターを演じる声優が登場して歌い踊る音楽ライブが主流だ。しかし、このMRライブでは「現実の舞台上に3Dモデルのアイドルが立っている」という点が大きく異なる。

VRシアターとは - DMM VR THEATER より

 しくみは意外にも単純である。夜に窓の外を見ると暗闇にテレビや蛍光灯の光が浮かび上がって見えるが、原理はあれと同じだ。ステージの下にあるモニターに映ったアイドルが、ステージと客席の間にナナメに設置された透明スクリーンに反射して、ステージ上に現れる。「いるように感じるだけで、実際はいないんじゃん」などと言ってはいけない。観念論を勉強するべきだ。

思い入れがある平面が立体的だとすごい

 この技術により、いつもはモニター内で平面的に存在していたキャラクターが、そのままの造形で、ステージ上に質量を持って立ち、歌い、踊る。本当の人間(あの、骨や血や肉で出来てるやつ)のバックダンサーが登場したりもするので、脳のフィクション・ノンフィクション判定機がガリガリと異音を鳴らすのを感じる。

 とはいえ、この投影技術自体はもはや目新しくないかもしれない。初音ミクとかも似たようなことやってるし。なんなら、大昔に行ったユニバーサル・スタジオ・ジャパンの、ウッディ・ウッドペッカーのアトラクションもこんなんだった。現実の役者とアニメがコントを繰り広げるのだ。あれもよくできていた。

 しかし、感動の度合いは段違いだ。なぜかというと元も子もないが、私はウッディ・ウッドペッカーの人生にぜんぜん興味がない。不当に知能が高いヒステリックな鳥くらいにしか思っていなかった。アイマスは違う。ほんの2ヶ月ちょっととはいえ、念と業を込めてプロデュースしてきたアイドルたちが目の前に実際に居るのである。開演してすぐにわたしはその事実に直面し、

「い、い、い、"""居る"""…………」

 とおののき、心の膝がガクンと折れて崩れ落ちた(実際には直立不動)。思い入れがある平面が立体的だとすごい。

 この「居る」と感じさせるための手の込みようが、本当にすごい。その気配りは観客である私たちにも向けられている。たとえば、会場内のスタッフは観客たちを絶対に「プロデューサー」と呼ぶ。これは本当に徹底されていて、ジュースの売店の人も「お次おまちのプロデューサーさんどうぞー」とか言う。現実のプロデューサーでもそんなこと言われなくない?

リアルタイムに生成される現実

 さてこのMRライブ、時間はぴったり1時間で6300円(+ドリンク代別途)だった。高い? 正直、私も最初はそう思ってたが、観終わったら「安すぎ…」となった。

 まず単純に、通常の音楽ライブと違って密度が違う。設営にかかる時間がほぼ皆無なので、1曲終わったら3秒で次の曲が始まる。衣装も一瞬で変わる。体感的には2時間以上。これはバーチャルゆえの利点だと思う。

 次に気になることが「映像を見るだけで一丁前のライブ料金を取られるのは損な感じがする」だが、実はまったくそんなことがなかった。ちゃんとライブであることを活かしたコーナーも用意されているのだ。何の情報も入れずに足を運んだので、そういうのがあることすら知らなかったから、これは本当に度肝を抜かれた。

 私が行った回は菊地真さんというアイドルの主演回だったのだが(日程によって主演が変わり、演目や演出が変わる)、アイドルがフリートークをする枠がある。つまり(あえてめちゃくちゃ野暮なことを言えば)裏にその回の主役を張る声優さんがいて、そのとき動いたモーションとリアルタイムに同期して、観客(プロデューサー)と会話をしてくれるのだ! 動きやトークにはまったく違和感がない。ほんとにそこにいる感じで(まあ、いるんだけど)客席のほうをさして話しかけてくる。ぴょんぴょん飛んだり跳ねたりもする。

 会場の入口ドアがなぜか鉄アレイで止めてあったのだが、ライブ中に「ボク、ここまでリュックにダンベル入れて徒歩で来たんです。ダンベルってドアストッパーにもなるから便利ですよね!」みたいな台詞があり、すべてが繋がり、ニューロンが発火する、という出来事もあった。フィクションを質量のある人格としてあらしめるための創意工夫が隅々に詰め込まれていて、運営サイドのエンターテインメント精神に感服した。

 そしてランダムに選ばれたプロデューサーとの会話では、偶発的なエンターテインメントが最高潮に達する。


菊地さん「あ! プロデューサー! そのタオル、なんて書いてあるんですか?」

ランダムに選ばれたP「……(肩にかけた「真」と書いてあるタオルと広げる)」

菊地さん「わっ、ボクの名前だぁ! じゃ、ボク、これからもプロデューサーの肩を温めますね!」

客席「…ウォヒイイイィ(悲鳴)


 各席で上がる悲鳴。いや、そら叫ぶよ。叫ぶってそりゃ。このやりとりがいまリアルタイムに生成されてるって……え? そんなこと可能なの……? 贅沢すぎる……足が震えた……現実…バーチャル…夢…理想…虹。こういうファンサービスをたっぷり十数分やってくれたうえで、ラストに歌う曲の衣装を多数決で決める平沢進のライブみたいなインタラクティブ要素で「参加感」のボルテージはどんどん高まっていく。

そして椅子に立った

 単純にエンターテインメントとしての質が高く、アイデアが詰め込まれている。音響も照明もこだわっているし、投影されたアイドルの後ろが透けて見えてしまうようなこともなかった。足元に炊かれたスモークは平面と立体の境目を曖昧にしてトランス状態へ導く。激しいライトの明滅が、アイドルに逆光を作り出す。タネのわかる手品を観ているつもりが、いつのまにか本気で騙されていた。

 特に、ダンサーとの連携はすごかった。途中、現実の(ここではアイマスも現実だが)ダンサーが登場して菊地真と一緒に踊るのだが、さりげないアクションに込められた「意味」がすごい。ダンサーとさりげなくアイコンタクトをとるなどする。それってもう「居る」ってことじゃん。

 極めつけは「椅子」であった。小道具として使われた木製の椅子に、菊地真がぴょんと飛び乗ったのである。

 ぴょんと、飛び乗ったのだ。

 あまりにも当たり前のように乗るので、そこで起こっている事態のすごさに気づくのが数秒遅れた。

 私が、プロデュースしたアイドルが、今、目の前で、椅子に立っている!

 人が椅子に乗ってあんなに感動することは、今後もう二度と無いだろう。

ニワカだけど大丈夫だけど大丈夫じゃなくなった

 情報の洪水が脳の溝を乱暴に洗い流す怒涛の1時間で、終わった後は椅子にもたれて放心した。

 ライブ中、周りの人は拳を振り上げて歓声を挙げていたけれど、私にはそんなことをする余裕がなく。両の拳をぐっと握りしめて歯を食いしばり、精神が詰まった棒になっていた。

 周囲には泣いてる人もいた。まだアイマスを知って2ヶ月しか経ってないのに、10年追ってた人がこれを観たら感情や精神はどうなってしまうんだ……。

 あと、たぶんわたしが会場で一番のニワカ野郎なので不安だったのだが、隣の席の人が気さくに話しかけたりしてくれ、またその人もアイマスを知って日が浅いと言っていたのでよかった。「想像の3000倍良かったです」とか、普段絶対言わないようなこと言ってしまった。なんか名刺まで頂いてしまった(P同士で名刺交換をするという文化があるらしい)。

 終演後の横浜の夜風は冷たかった。なんかまっすぐ歩けなくなっていて、どうにもならないので、しばらく路上にうずくまったりして、落ち着いてからファーストキッチンでハンバーガーを食べて帰って日記書いて寝た。

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ガムいりますか? 持ってないので買いに行きますけど…
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品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)

株式会社バーグハンバーグバーグのライター。品田遊として、コルク所属の小説家。ほかいろいろやっています。

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