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進化する秋田を紐解く ~ 秋田ノーザンハピネッツ 前田顕蔵ヘッドコーチ interview vol.2 ~

ものすごいスピードで進化を遂げるBリーグの中で、積み上げてきたカルチャーで勝利を目指す秋田ノーザンハピネッツ。新たなチャレンジとともに歩みを進めた23-24シーズンは、アップダウンの激しいシーズンとなっている。今回は怒涛のシーズンのなかで着実に進化する秋田を紐解いていく。前回に引き続き、前田顕蔵HCに話を伺った。(インタビュー : 2月20日 インタビュー・構成 : 宮本將廣 写真 : 本永創太)

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長谷川選手も保岡選手ももっとできると思う

宮本 個人的にはチームとしての形が見えてきて、いい流れでバイウィークに入ったと感じています。藤永選手も戻ってくるのであれば、なおさら選手間の競争は激しくなりますし、それがチームとしてステップアップし続ける力になりますよね。
前田 そうですね。長崎戦で長谷川選手が活躍したとか、ある試合では保岡選手だったり、田口選手が爆発したとか。日によって活躍する選手が出てくることはすごく嬉しいです。僕のマネジメントは40分のゲームの中で前半はプレータイムを与えながら、今日は誰がいいのか、どこにアドバンテージが生まれるのかを見ています。その中で、後半20分の戦い方を決めることが多いので、嬉しい悩みなんですよね。
宮本 ちょっと性格が悪い質問ですけど、そういう意味では古川選手が出ずっぱりになるゲームはマネジメントとして結構苦しい展開ですか?
前田 (間髪入れずに)苦しい!!!
前田・宮本 ハハハハハ。
前田 ただ彼の存在は大きいですし、彼が必要な時間が多くあることは間違いありません。同時にそれを抑えて出てきてくれる選手が欲しいことも事実です。そういう意味で長谷川選手はもっとできると思いますし、保岡選手ももっとできると思います。もちろん古川選手や田口選手は秋田を担う選手であり、彼らが爆発する試合も期待していますが、決して1人の選手に依存するチームではない。繰り返しになりますけど、競争がある中でそれぞれがプレータイムを勝ち取っていくチームでありたいと思っています。
宮本 GAME1はこの選手が活躍したけど、GAME2は相手がアジャストしてくる中で、違う選手が活躍するということを期待したい?
前田 そうですね。長崎戦がまさにそうだったじゃないですか。GAME1は長谷川選手が活躍してくれたけど、小栗選手はほとんど出場しませんでした。でも、GAME2に向けて小栗選手がしっかりと準備をしていて、あれだけの活躍をしてくれた。僕としても2ゲーム続けて同じ選手がめちゃくちゃ活躍するとはあまり考えていません。それに触発されて、他の選手がステップアップしてきた方が相手としては嫌だと思うので、残り21試合はそういう試合を多くできたらと考えています。

スピードのある選手だから、そこをもっと活かせると感じた

宮本 今シーズンは、相手にいいディフェンスをされてディフェンスリバウンドを取られた後、トランジションディフェンスがうまくいかずに、ダーっと持っていかれて得点をされるケースが多いと感じています。意図しないアップテンポゲームになってしまっているというか。
前田 そこは……難しい!!
宮本 ハハハハハ。
前田 元々はアップテンポにやりたいんです。そこは僕の責任で、僕らももっとポンポンとトランジションを出していきたんですけど、そこを強調しきれていないと感じています。これは僕の課題ですね。理想としては、ディフェンスを武器にそこから走る展開を作り出したい。そして、もう一度高い位置からディフェンスをするということを繰り返すのが僕らのバスケットボールです。今のところポゼッションは多いんですけど、それはオフェンスリバウンドを取れていることが理由でペースが速いわけではない。試合を見直しても、ゆっくり持ってきちゃうところがあるので、その辺りを修正していかないといけないですね。
宮本 アップテンポに持っていきたいというお話しですけど、熊谷選手の特徴はどちらかいうとスローテンポなバスケットですよね? オフェンスエントリーまでを速く持っていきたいのであれば、熊谷選手はそこに課題の残るプレーヤーだなと感じたんですが……。
前田 まさにそうです。だからこそ、僕は彼をリクルートしたんです。元々はすごくスピードのある選手だから、そこをもっと活かせると感じた。ボールを速く持っていけば、意外と簡単にバスケットができるという成功体験を経て、12月あたりに本人もわかってきたと感じています。少し時間がかかってしまったけど、すごく良くなってきたと思います。
宮本 バイウィーク前のシーホース三河GAME1に、熊谷選手が右ウイングからエントリーに入って、そのままの流れでドライブをしたシーンがありましたよね?
前田 まさにあれですね。彼をリクルートした時に、そういう足をもっと活かすとさらに良くなるんじゃないかという話をしました。最近は彼の足を活かし始めていると思いますね。

僕らは自分たちの予算の中でチャレンジしていきたい

宮本 全体的にアップダウンがあるにせよ、チームとしてのクオリティは高くなっていると僕は感じています。
前田 ありがとうございます。ただ、リーグ全体のレベルが上がっているのは間違いないですね。
宮本 それは間違いないですね。
前田 B2から上がってきた佐賀さんと長崎さんが、これだけ勝つことは今までなかったと思います。僕たちがB1に戻ってきた最初のシーズンは17勝だったので、それを考えたらとんでもないことですよ(笑)。僕たちは序盤があまりにも上手くいかずに3勝11敗。最初のバイウィークで2人の外国籍選手を入れ替えて勝ち出した。そこだけを見ると、「外国籍選手が悪かったよね」という印象を持つ人が多いと思いますけど、彼らの貢献度はすごく高かったんです。もちろん、新しく入ってきた2人の貢献度が高いことは言うまでもありませんが、それ以上にシーズンの中で、それぞれのピースがはまってきたことがすごく大きいと感じています。
宮本 そこは結果が故に伝わりにくいですよね。これも単純な僕のエゴですけど、見ていてそこをどうにか伝えたいというところはありました(笑)。開幕のロスターを見た時にめちゃくちゃチャレンジングな陣容だと思って、僕はワクワクしたんです。パワー系のインサイドが強さを発揮するBリーグの中で、秋田さんは機動力で勝負をしに行った。
前田 機動力で勝負したいっていうのはまさにです。ただ僕の力不足もあって……ちょっと難しかったですね。
宮本 プロである以上、勝つことが大事なことも事実です。やはり勝つためには時代、チームのカルチャー、リーグの傾向などすべてを加味して考えなくてはいけない。だからといってみんなが似たようなチームになっちゃったら面白くないじゃないですか(笑)。秋田さんは自分たちのカルチャーを追求しているチームだからこそ、僕は魅力を感じているんです。
前田 ありがとうございます。僕らも似たり寄ったりのバスケットを作ってしまうと限界があると考えています。予算が大きく違う中で同じバスケットをしたら、それは負けるよね。そこにチャレンジをしたいとはいつも思っていて、今シーズンの序盤はうまく表現できなかった。そこは反省もあるし、悔しさもあります。
宮本 チーム予算もあるとは思いますが、バスケットスタイル、地域性、ブースターの熱。そのトータルが秋田の魅力ですからね。
前田 僕らは自分たちの予算の中でチャレンジしていきたいからこそ、まずはペップが見出してくれたハードなディフェンスというカルチャーをしっかりと作って、その次にどうやって得点を取るかというステップに入りました。そこで出した答えが日本人選手を起点にしよう。だから、いきなり外国籍選手にボールを渡して1対1をやってくださいということはありません。大事な時間帯になれば、古川選手や熊谷選手がボールを持つし、そういうチャレンジを続けていきたい。それは効率が悪いという見え方もあると思いますけど、チャレンジしている結果だと考えています。ただチャレンジししていることに満足してはいけないし、結果を残さないといけない。秋田に来てくれた日本人選手はそこに魅力を感じてくれていると思っていますし、外国籍選手たちもそれを理解してきてくれているので、あとは僕自身がその思いに答えないといけない。その責任はいつも感じています。

強みであるシチュエーションでシュートを打たないことはミスと同じ

宮本 貴重なお話をありがとうございました。これは余談ですけど、やっぱりわかりやすいので、「ショットチャートが綺麗に分かれている」という話をさせてもらいました。ただ、僕はそういう数字はあくまでも参考でしかないと思っているんですね。解像度を上げるための道具でしかないというか。最後の話がまさにで、秋田さんは特に、「ショットチャートが綺麗に分かれているけど、確率が低いじゃん!」って突っ込まれると思うんですよ(笑)。
前田 ハハハ。そうですね!
宮本 でも、これだけ打ち続けているから最後に古川選手が勝負所のシュートを決めてくるんだとか、最初はあまりタッチの合っていなかった熊谷選手の確率が上がってきていることが事実だと思います。そもそもシュートを打たないでパーセンテージを上げることは無理なので。
前田 そうなんですよ。だから、僕自身があまりプロっぽくないのかなって考えてしまうことはありますね。
前田・宮本 ハハハハハ。
宮本 僕もメディアになってから向いてないなって思うことがあるんですけど(笑)。あまり意味のない100%とすごく価値のある30%ってあるじゃないですか。そこを伝えるのが最近はすごく難しいんですよね。数字以上に熱量とか体感は大事だと思っていて、それこそCNAアリーナ⭐︎あきたで感じる秋田の熱量。たとえば古川選手のシュートが試合を通じて5分の0だったけど、6本目のシュートが入ってCNAアリーナ⭐︎あきたが湧き上がる熱量は数値化できないし、それがスポーツの醍醐味であり、バスケットボールの面白さだと思うんです。結局、古川選手が打ち切った5本のシュートの価値、打ち続けたことによって何かが起こり始めているということがバスケットボールでもあると思うんです。
前田 そうですね。これは選手全員ですけど、彼らの強みであるシチュエーションでシュートを打たないことはミスと同じだと考えています。それを打ち切ることが、それこそ宮本さんの言っていた選手の責任だと思いますし、もちろんそれを決めてきて欲しいという気持ちはあります。ただ、そこはコントロールできないことでもあるので、まずは打ち切ってほしい。僕も選手たちが打ち切れるようにアプローチすることを大事にしていきたいと思っています。
宮本 そうですよね。やっぱり数字が走るので……。
前田 そうでしょ? だから僕は数字が嫌いなんですよ!
前田・宮本 ハハハハハ。
宮本 35%とか、40%を越えないとスリーポイントを打ってもなあ……とか。フローターも50%を越えてこないと期待値が1を超えないからとかありますけど、そもそもそれを打ち切ったことにまず意味があって、それを決め切るために練習してきた選手がいるのなら、自信持ってやりきって欲しいですよね。
前田 そうですね。だから自分はあまりプロ向きじゃないのかもなって思っちゃうんですよ(笑)。さっきも話しましたけど、極論は勝つことが大事なんです。でも、ただ勝つだけじゃなくてチャレンジして勝ちたいみたいな気持ちが出てきちゃうので(笑)。
前田・宮本 ハハハハハ。
前田 それをやらせてくれるクラブの理解と応援してくれているパートナーさん、ブースターさんには本当に感謝です。
宮本 でも、そういうことにチャレンジしないと発展しないですからね。
前田 そうなんです。そういうところも含めて、秋田がチャレンジしていけたらいいなと思っています。ちょっと前に代表合宿を見学に行ったんですよ。そしたら、ある代表選手が「どうやって三河に2連勝したんですか?」って聞いてきたんです。「そりゃ、秋田は強いからね」って言いましたよ(笑)。
前田・宮本 ハハハハハ。
前田 そういう風に思ってくれる人が増えれば増えるほど面白いし、「秋田でもできるんだ」という姿を秋田の皆さんと一緒に見せていきたいですね。秋田をきっかけに、日本人選手が頑張ってることがもっとフォーカスされるようなれば、リーグも発展していくと思います。だからこそ、うちの日本人選手に頑張ってもらいます(笑)!

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