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『ダブドリ Vol.5』 インタビュー06 上田篤拓(JBAアシスタントマネージャー、FIBAレフェリーインストラクター)&加藤誉樹(JBA公認プロフェッショナルレフェリー)

発売中の『ダブドリ Vol.5』(ダブドリ:旧旺史社)より、今回は上田篤拓さん&加藤誉樹さんのインタビュー(後編)の冒頭部分を公開いたします。※インタビューの前編は同誌Vol.4に掲載しております。

vol.4で大好評だった、日本初のプロレフェリー加藤氏と、師匠の上田氏が審判の本音を語る対談の後編です。後編では、インスタントリプレー、ゴールテンディング、各審判のプレゼンなどがテーマとなっています。


FIBAレフェリーインストラクターの上田篤拓氏と、JBA公認プロフェッショナルレフェリーである加藤誉樹氏。日本のバスケットボール審判の第一人者である両名が一堂に会し、「審判の本音」を語り合った前号の特集は大きな反響を呼んだ。後編はまずインスタントリプレーの是非について、上田氏が「反対意見」を投げかけるところから始まる。

石川 そもそも、こうしたビデオ判定に対してネガティブな感情というのはあまり無いんですか。僕から見てですけど、これって「審判の尊厳」に関わる問題でもあると思うんですけど。
上田 尊厳……確かに世代間のギャップはあるかもしれないです。それこそ誉樹達と僕等の世代だと、実は僕等の世代は結構葛藤があって。
石川 アレルギーがある。
上田 そうですね、bjの時もインスタントリプレー入れるか入れないかっていう議論があったんですが、僕は「絶対反対派」でした。それは審判の尊厳を守るというのもあったと思うし、それが入った時にゲームが180度変わっちゃうんですよ。しかもこれを浸透させるにはすごいパワーがいるんですが、じゃあそこまでbjが体力あったかっていうと、僕としては正直まだ早いんじゃないかなという思いがありました。NBAでもインスタントリプレーが入った直後、ベテラン審判の人達には、ゲームって誰が最終的に決めて誰がリードしていくのか――映像で見たら誰でもできるでしょみたいな考え方もあったんですね。そういう葛藤をしていたんです。
 でもいざ使うとなったら、じゃあ今度はそれをどう皆に理解してもらうかが大切になる。じゃないと本当にもったいないって思うんですね。機械が、じゃなくって、周りの人たちが本当にもったいない。意識を180度変えて、使うんだったらこうやって楽しもう、そのためには何ができるかなって考えていかないと。あとは実際に現場で使ってる人達が色々アイデアを発していく。主役はやっぱり現場とお客さんだから、そこがどうやってその時代に声を上げていくかが大事じゃないかなと思いますね。
石川 じゃあ現場からどうぞ。
加藤 アハハ。そうですね、上田さんとは違って、僕がこうしてB.LEAGUEとかでやらせてもらってる今の環境は、上田さんの頃とはだいぶ変わってきていると思うんですね。インターネットでライブ中継されてて、すぐにリプレーやスローモーションが流れて、色んなアングルがあって……っていうのが、もう当たり前になってる。僕はそんなバスケットをレフェリーするところから始まってるので、尊厳を保つ・保てないというところも大事ですけど、一方ではただ「正しさ」を追求していくっていうのがあるんです。だから例えば、僕らは2点だと思って見てたけど、実は3点だったっていうのは、もう観客も皆が知ってる時代になっちゃってる。そういうのは僕らの世代は多分当たり前だと感じていて、むしろ苦しい場面では助かる道具だとすら思っているんです。
 ただ一方で、おっしゃる通り、一試合に5回も10回も見に行くと、「レフェリー大丈夫?」ってなるのは当然です。だから僕らとしては、例えば2点3点であれば、まわりのメンバーでカバーできるようにスキルを磨くようにしています。やっぱりね、目の前のレフェリーが確認が難しい場面はあるんですよ。ピックアンドロールの抜け際の所とか。だからそういう苦しい場面は誰がオープンになるから、この人がヘルプしましょうっていう話をしています。尊厳を落とさないためにやってるわけじゃないんですが、「ビートザテープ」、映像には負けないように真実に基づいてレフェリーしていきましょうっていうのは今の時代かなって思います。
石川 「テープ」ってことは、VHSの時代からそういう言葉はあったんですか。
上田 そうですね。そもそもビデオ判定するとゲームが長引いちゃいますしね。VHS、僕らの時代は結構大変だったから。今はもう楽にできるじゃないですか。2分何秒のところ出して、とかピンポイントで。僕らの時なんて、望んだ場面を出すことから一生懸命やってたでしょ。
石川 キリキリキリキリ、ああ行き過ぎちゃった、みたいな。
上田 そうそう(笑)。円滑に試合を進める、という意味でもビデオ判定を避けていた面があったんです。でもそんな時代から、確かに教わったことはあったんだろうなと思います。テープは確実だけど、頼りすぎてはいけない、と。
大柴 あのー、見直してて「あっ」て見つけちゃういい例が「ゴールテンディング」、「(バスケット)インターフェア」だと思うんですけど。これもいちいち見てたら時間かかり過ぎるからっていうんで、見直す対象には入ってないんですかね。
上田 ゴールテンディングとインターフェアは4Qとオーバータイムの残り2分以降には、正しくコールされたかどうか見られるようになりましたね。
大柴 あ、そうなんですか。でもやっぱり終盤の残り2分だけなんですね。いま、スリーポイントラインを踏んでたかどうかについては、怪しいのは後で見るって流れになってるじゃないですか。レビューして、あーやっぱツーでした、みたいな。
石川 やっぱり全部見てたら時間かかるからでしょうね。それにスリーかツーかはシュートが入って一回試合が切れるから、その後のプレーとは連続性がないけど、テンディングってゲームが止まらない。ブロック扱いでゲームが流れるから、後で確認して「やっぱそう(テンディング)でした」としたら、じゃあさっきまで続いてたプレーはどうなるのってなる。その辺の難しさもあるんじゃないですか。
上田 石川さんのおっしゃる通りですね。できるだけ判定に映像を入れたくないっていうのはあまり変わってないんです。残り2分の大事な局面とかは仕方ないですけど、試合通してやっちゃうと試合が全く別物になってしまう。あれもこれもやり始めたら、「バスケットの面白みって何だっけ」っていうことになる。バスケの面白さって、スピード感あふれて、点がたくさん入って……という大本が崩れちゃう。だからまあ時代とともに映像を入れていくのは仕方ないとしても、何でもかんでも入れようっていうのは違うよね、それは皆分かってくれるよね、っていう思いを共有してもらえる、と信じている部分があります。
大柴 なるほどね。それにそもそも日本だと、審判を若い頃からやっていたとしても、テンディングというシチュエーションは多分B.LEAGUEを経験してようやく目にするくらいだろうから、判断も難しいでしょうね。
石川 『SLAMDUNK』でありましたよね、インターフェア吹いたの初めてだっていう審判。
加藤 ありましたね。高校生のゲームで。
大柴 海外だと多分高校位からインターフェアを見られるんだろうと思うんですけど、日本の審判は修行する場がないまま、いきなりBで外国籍見なきゃいけないって辛いだろうな。

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この後も、判定のプレゼンや試合中に選手たちと交わす会話、今後に向けてのお話などが続きます。気になった方はぜひ読んでみてください!

次回は川崎ブレイブサンダース社長の元沢伸夫さんと、株式会社NATIONS代表の平さんの対談の冒頭部分を公開予定です。

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