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【談話室】記憶の話をしよう

談話室コーナーとは皆さんのお便りをもとに、質問、お悩み、聞いてみたいことなどをだちこが語る企画です。)

さて、今日開くお手紙は…


『「絶対に忘れない」と決めた記憶』について詳しく聞きたいです。


お便りをありがとうございます!

きっとこちらの記事を読んで下さったのですね。

記事に書いたように、私は「絶対に忘れない」と決めた記憶が5つあります。誰かに話すのは久しぶりなのですが、今日はその思い出話をしようと思います。



ひとつめ『祖父の背中から見た美しい景色』


小学校低学年の頃、祖父に隅田川のお祭りに連れて行ってもらいました。端が見えないほど大きな川沿いにたくさんの屋台が並んでおり、祭囃子の音楽が流れ、楽しそうにしている人たちで賑わっていました。私も普段は食べられないようなベビーカステラや綿あめを食べ、ねだって買ってもらった水風船で遊んだりもして、大好きな祖父と二人でお祭りを楽しみました。

はしゃぎ疲れた私は、日もすっかり暮れると眠くなってしまいました。目をこする私に祖父は、「そろそろ帰ろうか。どれ、じいちゃんがおぶってやるからな」と言って私を背負って、ゆっくり歩きながら歌を口ずさんでいました。


春のうららの、墨田川…。上り下りの、船人が…。


祖父のあたたかい背中で揺られてまどろみながら、うとうとしつつもふと顔を上げると、祖父の歌のように船が川を行き交っていました。

並ぶ屋台の提灯たちと、灯りをともす船たちの光が水面に浮かんで、船がゆっくりと進むのに合わせて水の上の景色も揺れているのが、まるで夢のように本当に美しかったです。あの綺麗な景色と優しい思い出は、私の胸に強く焼き付いています。


櫂のしずくも、花と散る…。流れをなにに、たとうべき…。

(このお話はこちらの記事でも少し書いております)



ふたつめ『青く燃える角砂糖』


こちらも祖父との思い出になります。

祖父母は銀のカトラリーを収集していたのですが、その中の特別なもののひとつが「角砂糖用のスプーン」でした。角砂糖を置くためだけに、丸ではなく四角にくぼみのあるスプーンです。

美味しいケーキを買った日は、そのスプーンの出番です。紅茶を淹れて、角砂糖をスプーンに乗せて、そこにブランデーを垂らします。電気を消して、角砂糖に火をつけると…角砂糖が美しい青い炎でゆらめきます。それは美しくて良い香りがして、祖父母と私の特別な時間でした。

ブランデーのアルコールが飛んできて香ばしくなってきたら、炎がついたままの角砂糖を紅茶に入れます。ジュワッと音がした後は、ブランデーの芳醇な香りが紅茶の香りと混ざって、うっとりとため息が出るような余韻が空気の中にも残るのです。


祖父はよく、祖母を怒らせてしまった時にケーキを買って帰っていました。その美しい青い炎と美味しい紅茶もあれば、祖母のご機嫌もたちどころに良くなっていたのも覚えています。



みっつめ『あの人が信じられないくらい照れていたこと』


中学三年生のバレンタインの日、私は好きな男の子に皆と同じチョコを「義理だよ」と言って渡しました。彼は「どうも」という感じで受け取っていて、後日にチョコの感想を聞くこともなかった気がします。


そして1か月後。彼はいつもは余裕をもって登校するのに、その日はやけにギリギリの時間に教室に入ってきました。コートも脱がないまま、私に向き直って、でも目も合わせず、何か入ったビニール袋をむんずと押し付けるように差し出しました。

これなに?と聞くと、「ホワイトデーだから、ほら…」とマフラーの下でごにょごにょと言っていました。よく見たら彼の顔は耳まで真っ赤になっています。

その瞬間、脳に電流が走ったように「私はこの人がこんな顔をしているのを一生見ることはないだろう」と思い、脳に焼き付けるように彼の赤い顔を正面から見ました。私は大人になってもきっとこの人が好きだから、この時この瞬間のこの気持ちを忘れたくないと思ったのです。そしてなんでもないように、「ホワイトデー覚えてたんだ、どうもありがとう」と受け取りました。


結婚してからも、その話をすると「ほんとにやめて」とよく言われていました。彼の黒歴史でも、私にとっては宝物の思い出なのです。



よっつめ『大切な人の心に触れさせてもらった瞬間』


大学生の時、彼と深夜に「なんか食べ物を買いにコンビニに行こう」となり、秋の夜風が気持ちいい中でふたりで手を繋いで歩いていました。一番近いコンビニならすぐなのですが、彼はそのコンビニでバイトをしていたため、それよりも少し遠いコンビニへ行くのが恒例でした。彼女連れだと思われるのが恥ずかしくて嫌だとか言っていた気がします。

少し遠いコンビニはちょっとした散歩くらいの距離なので、彼はまあまあだるそうでしたが、私はあの時間がとても好きでした。


「私、ずーっと忘れないんだ。大好きな人と手を繋いで深夜のコンビニに行くだけでこんなに幸せな気持ちになるんだってこと、これから一緒にいても別れても、絶対忘れないと思う」

そんな話をしてよく繋いだ手を振って遊んでいたのですが、その日は、

「俺もそうかも」

と言って手をきゅっと握り返してくれました。あの瞬間(あ、今この人の心に触れたかもしれない)と思ったのでした。


結婚してからも、深夜にコンビニに行くたびに「大学生の時もさあ、こうやってさ…」といつも私は話していました。懐かしさではなく、今もほんとにそんな気持ちなんだよっていう話を。



いつつめ『光を受け取った日』


これも大学生のとき、新幹線のホームの入場券を買って、法事のために帰省をする彼を見送った時のことです。

もうすぐ電車が来るという時に、彼は正面から私の手を握って、

「だちこ、ずっと一緒にいてね」

と言いました。「25くらいで死にたいなぁ」みたいなことをずっと言っていた彼が、はじめてなにか未来のことを約束してくれた日でした。

驚いて、嬉しくて、恥ずかしくて、握られた手があたたかくて、新幹線が出発してからもしばらくホームから動けずにぼうっとしていました。ずっと一緒にいてね。私ほんとうにそう言われたの?嘘じゃない?と何度も、さっきあったばかりのことをしばらく思い返していた覚えがあります。

その入場券は、パスケースに入れてお守りにしました。何よりも忘れないように。




以上5つが、私が「忘れないと決めた記憶」です。

この記憶の話は過去にブログに書いたもので、もう三年ほど前の記事でした。この三年だけでも本当に色んなことがありました。この大切な記憶の彼と、結婚をして、離婚もしました。(人生でいちばん一緒にいた人と、最後に会う日だったかもしれない日記


人生は色々あるもので、大切な思い出もずいぶんたくさん増えてしまいました。歳をとっても、その時の気持ちごと全部鮮明な記憶として、ちゃんと持っておけるか不安なくらいです。

忘れたくないけどいつか忘れてしまうかもしれない、そんな気持ちや情景はせめて文章にして、あれは本当に本当のことだったんだよと、未来の自分に書き残しておこうかなとよく思う今日この頃です。


改めて、お便りをありがとうございました!

久しぶりに思い出した、私の記憶の宝物たちでした。



だちこ

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