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わたしたちこれからいいところ

 おれがこの世で一番好きな飲み物はなあに?と北川景子に聞かれたならばそれは「うーん、コーラも捨てがたいけどやっぱりドクターペッパーかな」という。友人に聞かれてもそういう。親兄弟に聞かれても同じことをいう。ま、誰かに聞かれたぐらいで自分の好みを偽るようじゃこの業界やってられないよ。君は何が好きだい? えっ、お茶? おいおい、炭酸の話しようぜ!

 という、上段構えのテキストを今日おれは書きたいのではなくて、そもそも、無職のおれが、どの業界に属しているのか。そして未だ職歴真っ白な人間がやっていける業界などはあるのか。あるならば将来性はあるのか。どのくらいの収入が見込めるのか。えっ、そこんこどうなんだ! 毎日不安で眠れないよ! すみません、ハルシオンをください! なんていうことも書きたいのではなくて、なぜおれが、不人気で必要以上にこき下ろされ苛評されているドクターペッパーを愛してやまないのか、その理由を書きたい。

 さて。ではその理由だが、もちろんガキにはわからぬ23種類のフレーバーによる絶妙な味のハーモニーがそれにあたるのは当然である。が、しかし、それだけの理由で心を動かされるような安っぽいおれではない。伊達にこの業界に長くいない。おれがこのリリンが生み出した文化の極みとまでドクターペッパーを評するのは、この飲み物が世界一ロマンチックな由来で生まれたからである。以下、そのシェイクスピア級のロマンス。

 1871年にアメリカ・ヴァージニア州でウエード・モリソンという若者がチャールス・ペッパーという医師が経営するドラッグストアに勤めていた。モリソンはペッパーの娘と恋に落ちたが、ペッパー医師は、若すぎる二人の仲を認めようとはしなかった。

 失恋したモリソンはヴァージニアを離れ、テキサス州ウエイコに移った。彼はドラッグストアを開き、店員のチャールス・アルダートンと共に新しい飲み物を考案した。その飲み物はウエイコ中で評判になるほどヒットしたが、モリソンはペッパー医師の娘を忘れることはできなかった。それを知った常連客はモリソンの作った飲み物をからかい半分に「ドクターペッパー」と呼んでいた。

 いつしかウエイコにおけるドクターペッパーの名声はヴァージニアのペッパー医師の元へも届き、モリソンはペッパー医師の娘と結婚することを許されたのであった。モリソンはソーダ瓶の中に縁結びの天使を見いだしたのであった。

 どうよ? この由来。おーいお茶やファンタにはない、深いエピソードにこれ以上の装飾は不要ですね。大体、おーいお茶って何? そう言ってもあたしはお茶じゃないですからね! まったく社内のジジイどもはOLをお茶汲み係と勘違いしてるわ、キー! 日頃のストレスが溜まっている女性の部下にぞうきんの絞り汁を入れられたお茶を飲まされてしまうあなた。案の定、強烈な腹痛に見舞われ救急車を呼ぶ羽目に。運び込まれた病院で現れた診察医は外人。変な予感がするが名札までは見えなかった。そういえば昼食をステーキハウスと迷ってあっちの店を選んだのだった。薄れゆく意識の中であなたはピンクレディの名曲を聞く。走馬灯が見える。幼い頃、やったゲームの、たしかそれを持っていくと船がもらえる調味料が……あった…………ような……。