note画像

今こそ「HUNTER×HUNTER」を読むべき

  先日再開した「HUNTER×HUNTER」がようやくハンターし始めている。

 と、いうと意味が分からないかもしれない。まあ一言でいうとこれからめっちゃ面白くなるんじゃないの? ってことなんだけど。正直「キメラアント編以降のなんだかよくわからない会長選挙・アルカ編ってピーク過ぎちゃった感あるよね」とかぼくは思っていた。でも違ったのだ。これからが本当のはじまりだったし、もしかしたら集大成となるのかもしれない。先に言っておくと、今回、すげえ長いです。あと既刊32巻までのネタバレがあります。

「HUNTER×HUNTER」(以下「H×H」)ではハンター試験に合格し、裏ハンター試験もクリアしたものが一人前のハンターとされているが、それは設定上の話。読者にとってハンターとは「念を使えるなんだか強い人」でしかない。しかも念自体はハンターでなくとも使えるから結局資格の有無よりも主人公格のキャラ=ハンターみたいな、曖昧なものになっていた。

 意外にも「H×H」は一部を除いてぜんぜんハンターしてない。ハンターになるためのハンター試験編が終わってようやく「ハンターするのかな?」と思ったら、キルアの実家に行くことになる(まあこの時点では念を習得していないので資格の意味でもハンターにはなれていないのだが)。不本意な形で離れることになったキルアを連れ戻し、仲間も揃ったところで、さあ! ハンターのはじまりだ! ともならない。ゴンたちは仲間ではあるが運命共同体ではない。クラピカは一族の復讐という重たいものを背負っているし、レオリオも医者になるという夢がある。なので再会を誓って、ゴンとキルア、クラピカ、レオリオは一度、解散する。

 ぼくはこの解散のあとの天空闘技場編で冨樫が「H×H」における念の概念を確立したと考えているのだけれど(イルミの腕を折ったゴンの描写とか見るとね)、別に後付けを腐したいわけではない。むしろ漫画的表現として、念の登場以前に出てきた、ヒソカのトランプに殺傷能力があることやブハラが体積以上の豚の丸焼きを食べたことなど、読者がそれほど説明を必要としないものにまで、念という概念で解決していることは「さすが冨樫」と言わざるを得ないと思っている。話を戻そう。そう、この天空闘技場編でようやく「H×H」を語る上で欠かせない念が登場する。そして以降は念を中心に物語が進んでいくことになる。

 少年ジャンプの漫画といえば今日、異能力・超能力の類はもはや当然のようにキャラクターに備わっている。もっと以前にルーツを見つけることもできるだろうが、現在のはしりは「ジョジョの奇妙な冒険」だろう。冨樫の過去作「幽☆遊☆白書」も最早クラシカルなものと言っていいかもしれない。「ドラゴンボール」の超サイヤ人もそうかな? 「H×H」の面白い点をあげるとその能力のあらましをほぼ隠さず、読者に伝えているところだ。例えば天空闘技場編のウイングによる念系統の解説だったり、ヨークシン編のクラピカと師匠の問答「なんでも切ることのできる剣は具現化できるか否か」や、グリード・アイランド編(以下、G.I編)におけるビスケの指導がそれだ。「ワンピース」ではSBSというコミックスのおまけページで解説している能力のバックボーンを「H×H」は劇中で行っていることが大きい。

「H×H」は念でできる範囲をあえて読者に伝えている。そのほうが作者にとって不都合になる場合さえあるのに。事実、念を知らなかったはずのキルアがキメラアント編でゼノのドラゴンダイブをとっさに理解したことや前述のイルミの骨折などの矛盾が生じている。そこはもちろんいくらでも理屈のつけようはある。あるが、定義を曖昧にしておけば理屈をこねることなく回避できたはずだ。「ジョジョ」ではスタンド能力を大きく近距離型と遠隔操作型のスタンドに分けているが(例外もある)、初期ではその定義は曖昧だった。だから承太郎のいる拘置所にラジカセやビールなどがあり、これは後に近距離型と定義されるスタープラチナが承太郎の元を離れて持ってきたことになり矛盾するんだけど、読者はそれを波紋とは違う異能力だと認める描写になっている。

 たしか「幽☆遊☆白書」のコミックスで冨樫はゲームを作ることが好きだといっていたと思う。今コミックスが手元にないので申し訳ないが確認はできないが、なるほど、念の定義はゲームのルールに似ている(余談だが、会長選挙編も思えば人狼のような論理ゲームであったように思う)。以降、「H×H」は天空闘技場編から導入された念の説明に費やされていたと言っても過言ではない。ヨークシン編では旅団メンバーの能力説明の扉絵を描いたり、G.I編では念の可能性を示したり、キメラアント編で逆に念の限界を提示していたり、架空の概念をこれでもかというぐらい解説している。

 結論です。ここまでよく読んでくれました。つまり、天空闘技場から今までの「H×H」はハンター漫画ではなく、念バトル漫画だった。「念×念」だった。それが今回の展開で、やっと「ハンター」し始めた。「作中の定義で言えば全部『ハンター』だよ」という意見は重々承知である。「G.I編はハンターしてたじゃん」という意見もわかる。が、前者はそれって別にハンターじゃなくてもいいよね? というものでなかったとは言えないだろう。キルアがハンターになったのはG.I編の途中だ。ヨークシン編はクラピカの復讐劇と旅団の登場というものでハンターでない念能力が数多く登場したし、キメラアント編はドラゴンボール的な地球を守るヒーローのそれであった。後者は思い出してほしい。確かにG.I編の極初期こそ「ハンター」していたが、後半はダイジェストのようにクエストをこなし、結局クリアする際にはツェズゲラ組にカードを譲ってもらっていたことを。

 だから今からしてみれば「なんだ、このお家騒動?」だった会長選挙・アルカ編は、これからハンター漫画になりますよ! という布石だったわけで、ネタバレを避けるから再開分のことには触れないけど、たぶん、ここから、マジ、超、面白くなるんじゃねーの?! ってぼくは思ってしまうのです。絵の描き込みも半端ないし。描くのが嫌でしょうがなかったと言われてる「幽☆遊☆白書」のいわゆるトーナメント編に突入する前振りとは明らかに違うと思う。そもそも1巻の第1話、冒頭の書き出しは「珍獣・怪獣 財宝・秘宝 魔境・秘境 ”未知”という言葉が放つ魔力 その力に魅せられた奴等がいる 人は彼等をハンターと呼ぶ」だぜ? 今回、全部当てはまるじゃん!

 と、息を荒くしていたのだけど、途端にまた休載って聞いて「ええー」となってます(でも休むの一回だけみたい。やっぱり冨樫、本気じゃね?)。