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カステラ工場のある街(日記の練習)

2023年7月28日(金)の練習

 知り合いの方と、そのひとが教えてくれた中目黒のお茶屋で会う。住宅街のなかをすこしはいったところで営まれていて、一階は茶器や和食器を取り扱っているから、一見して二階に喫茶があるとは気づきにくい。席に着くと、お冷やのかわりに水出しの緑茶をだしてくれる。これからして、とても美味しい。
 冷やしぜんざいと昆布茶をいただきながら、お互いの近況などを話す。性懲りもなく青柳瑞穂の骨董随筆を薦めたら、はじめて会った頃にも同じように中谷宇吉郎の随筆を薦めたことを思い出のように話してくれる。若気の至りを憶えられている気恥ずかしさと、憶えてくれていた嬉しさで、なんともいえない表情をしていたのでないか。

 帰り道で「隠れ家のようなお店を見つけても、それがメディアで取り上げられると他のひとに見つかってしまって、そのうち隠れ家ではなくなって足が遠のいてしまう」と言われた。どれだけ美味しくて雰囲気もよくても、いつ行っても混雑しているお店は確かに疎遠になる。ましてや、行列にならんでまで行くなんて問題外だ。窓や入口からならんでいる人の列を見ながら寛ぐのは、あまりに悪趣味であるし落ち着かない。
 言われてみると、そのひとが連れてきてくれたそのお店は、三時間以上は話していたのにほかのお客さんが来ない、本当に隠れ家だった。隠れ家のようなお店でなく、本当に隠れ家の(けれども)いいお店を知っているひとは本物だ。そういうひとが教えてくれたお店は、どんなに素敵でもほかのひとには教えないよう心掛けている。

 帰り際に福砂屋のカステラをおみやげでいただいて、何から何まで気を遣っていただいて恐縮する。そうは言っても、福砂屋のカステラは大好物なので、隠しきれずうきうきもする。福砂屋には、あらかじめカットされたカステラをカラフルな立方体に梱包したフクサヤキューブという商品があって、これがかわいくて美味しくてとてもよい。いただいたのもフクサヤキューブで、夏季限定かキューブのデザインが夏らしい青空をバックに向日葵が印刷されている。
 中目黒には、目黒川沿いに福砂屋の東京工場がある。川沿いにカステラ工場がある街。それだけで中目黒を好きになりかけてしまう。

 最寄駅に帰ってきて、近所のワインバーで飲む。Oppenheimer Kröetenbrunnen 2021とTiet Jan。前者は林檎の蜜みたいに甘くて驚き、後者はそれよりはすっきりしているが香りはより芳しい。

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