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ひみつのおにゃんこちゃん

1、「それいけ、おにゃんこちゃん!」連載開始のはずなのに!?

(「それいけ、おにゃんこちゃん!」第一回目のあらすじ)
 ミズホの國に住むごくごくふつうの極右弁護士だったトモミは、ある夜、茂みから現れたなぞのおばはん、ジュンコ・K(Kはコシノではない)に指をさされ、こう告げられたのだった。
「あんたは、ほんとにおにゃんこちゃん!」
 これを神からの啓示とかんちがいしたトモミは落下傘候補の修行を経て、正義の味方「おにゃんこちゃん」にコスプレ変身する力を持つことになった。
 トモミはおにゃんこちゃんとして、パン屋さんが禁止になって和菓子屋さんにのれんをかえたアベおじさんとその飼い犬スガのお世話になりながら、きょうもミズホの國のパトロールをかかさない。
 なぜならまちには、わるいシイキンマンとツジモドキンちゃんがあらわれ、日々こどもたちを危険な目にあわせているからである。
「あっ、シイキンマン、あわられたな!」
「おにゃんこちゃんか。へへへ、ここまでおいでーー。」
「うーむ、待て!」
 膨大な防衛費を背景に重装備したおにゃんこちゃんは、機敏な動きが苦手であった。それを逆手にとったシイキンマンから、事前に聞いていない質問攻撃が矢継ぎ早に飛んでくる。たいへんだ、おにゃんこちゃんがあぶない!
危機一髪のところを、アベおじさんの逆ギレ攻撃、さらに忠犬スガの噛みつきもあって、おにゃんこちゃんの拘束はとけ、反撃にでる。
「みてろー、おにゃパーーーンチ!」

 と、ここまで調子よくプロットを書いていたところで、ケータイが鳴った。
「ちょっとね、あんた、ふざけちゃこまるよ。国にたてつくとどういうことになるか、わかってんの?」
 いきなり電話の向こうからの露骨な恫喝を浴びせられた。しかしなんで発表もしていないのにわかったのだろう。共謀罪の予行練習にリストアップされたのかな。やはり時代の勢いである「忖度」には勝てないのか。しかしこれまでのスローガンに掲げたように、「わたしたちは、負けない!」でいこうと思う。
 結論からいえば、「それいけ、おにゃんこちゃん」は、「ひみつのおにゃんこちゃん」とタイトルを変えて連載を決行する。これ以降、ぼくの身になにかあったら、そのときはなにかあったんだなと思ってほしい。


2、かわって新連載「ひみつのおにゃんこちゃん」

 みずほ学園中学2年のわたしは、おにゃんこちゃん。サナエちゃんやエリコちゃんとは大の仲良しです。きょうも大好きな谷口雅春先生の本を貸してあげました。みんなで回し読んで「實相」がんばる。
 それにしても、まったくレンホウのやつ、うるさくてかなわない。あいつらのせいで、わたしたちの大好きなアキエ先輩があらぬ疑いをかけられて、おかあさまに座敷牢に閉じ込められてしまった。
 もう2週間も学校を休まれていて、3人ですごく心配しています。アキエ先輩はAKBでいったら不動のセンターだし、ぜったいに先輩は悪くない。なんで悪くないかって?それはアキエ先輩が「お金持ちで偉い」から。ああ、ツジモトの声がキンキンする。これだから学級会はいやだな。
 わたしがおにゃんこちゃんだってことは、クラスのだれにも知られてないひみつなの。こうなったら魔法で変身して、あいつらに反撃してやろう。さっそく「おなかいたいです作戦」をつかってトイレで行動開始だ。

「テクマクヤマコン テクマクヤマコン お金持ちの大臣になーれー!」
いいぞ、すっかり人相のわるいジジイに変身した。これで学級会でわたしをいじめるフクヤマとかタマキのやつにガツンといってやるんだ。
「おい、調子のいいこといってんじゃないよ。」
なんてね。そしたらタマキのやつ、まじでびびっるだろうな。わたしは手を洗いながら、タマキのびびりを想像して笑いがとまらなくなった。
 そのとき、えっ、まさかまさか。トイレの鏡にジュンコ・K(Kはコシノではない)の姿がぬっとがあらわれた。ジュンコ・Kのやつ、見たぞって顔してた。女子トイレなのにわたしったらすっかり「アソータロー」だったから、なにもいえない。
 ジュンコ・Kったら、鏡ごしにじっとわたしの顔をみつめて、ゆっくり指さした。わたしは足がすくんでピクリともうごけない。これじゃヘビににらまれたカエルじゃないか。ゴクリとのどが鳴った。
 そのときジュンコ・Kが大きな声で叫んだ。
「あなたはほんとに、おにゃんこちゃん!」
「ええっ。」
「ドーーーーン!!!」

 ああっ、わたしったら思いっきり気絶しちゃった。どれくらい時間が経ったのだろう。目が覚めてあたりをうかがう。女子トイレにはもうジュンコ・Kの姿はなかった。ホッとして起き上がると、足元に落ちていた魔法のコンパクトをひろいあげた。さて急いでもとのトモミにもどらないと。
「ええええっ!」
 やだっ、コンパクトの鏡が割れてるじゃない!ありえない。どうしよう。どうしていいかわからない。パニックだ。魔法がつかえないと、わたしは一生このまま口の曲がったお猿顔のジジイのまんまになっちゃう。それだけはこまる。
 わたしはあわてて、トイレの個室に逃げ込んだ。こんな姿をだれかに見つかったら痴漢にまちがえられてしまう。落ち着け、トモミ。さあどうする、トモミ。
 そうだ。座敷牢にいるアキエ先輩にメールしてみよう。こんなとき、いちばん力になってくれるのはアキエ先輩だけだから。ええと、かくかくしかじか、デンデンと。よし、送信。アキエ先輩、座敷牢でもスマホ持ってるかな。心配になってきた。
チャリ〜ン。
きた、さっそく先輩からメールだ。たすけて、アキエ先輩!
「祈ります。」
ええ、んなバカな。祈ったってジジイのまんまだよ。こりゃだめだ、窓から逃げるしかない。ここ3階なんだけど、だいじょぶか。


3、いよいよクライマックス「ひみつのおにゃんこちゃん」

 「アソータロー」になってしまったおにゃんこちゃんの危機を救ったのは、紅顔のヒーローでも白馬の王子様でもなかった。ただただじっとして息をひそめて、時間が経つのを待つことにあったのである。
 おにゃんこちゃんは、みずからこの地下にある、暗い壕に入り込み、そのすみにうずくまっていた。鯖江のメガネを置いてきたのは残念だが、伊達だし、暗闇のなかでは、そう困ることもなかった。
 そのとき、かすかな足音とともに、ひとの気配がした。えっ、ここにはだれもいないはず。おにゃんこちゃんは身をこわばらせ、耳をそばだてた。
「トモミ。」
 その声には聞き覚えがあった。
「あ、アキエ先輩!」
「トモミ、そこにいるのね?」
「先輩、どうしてここに!」
「静かに。」
「はい。」
 なんということだろう、あのアキエ先輩が助けにきてくれた。先輩はいつもたのもしい。おにゃんこちゃんのこわばった身体はゆっくりと溶けていくようだった。
「聞くのよ、トモミ。」
「えっ、先輩、なにを?」
「しっ!」
 トモミは全神経を集中した。真っ暗ななか、たしかになにやらものものしい音が遠くから近づいてくるのが聞こえる。
「あいつらに見つかったら、一巻の終わりよ。」
 トモミは息をひそめた。それはみるみるうちに大きくなって、地響きとともにトモミの鼓膜を圧迫した。
ドンドン、ドシンドシン、ドンドン、ドシンドシン。
「アキエ先輩、これはいったい‥。」
 トモミは怖くなって、たずねられずにはいられなかった。
「いい、いまわたしたちのすぐうえを、大きなカバが通り過ぎてるの。」
「カバが?」
「そうよ、カバ。カバなのよ。このドシドシいう音。カバの行進よ。これが過ぎるのをじっと待つの。あとすこし。そうしたら、またわたしたちは‥。」
「先輩!」
 そのとき、不意に伸ばしたトモミの手にグラスのようなものがあたり、大きな音をたてて割れた。
「あっ!」
 カバたちの足音がぴたりと止まった。
「‥‥。」
 よもや気づかれたか。ふたりは身をよせあい、息を殺して地上のようすをうかがった。聞き取れないが、カバたちが低い声でなにか話をしているのがわかる。突然、リーダーらしきカバの大きな声が響きわたった。
「貴様たちがそこまでいうのなら、降りてみようじゃないか!」
 この地下壕につづく石段をカバたちが降りてこようとしている。
ドシン、ドシン。ドシン、ドシン。
 にぶい音がおにゃんこちゃんのすぐよこの壁づたいに聞こえてくる。扉はひとつしかない。鍵はかかっているものの、そまつな扉はカバたちの力をもってすれば、容易に壊すことができるだろう。
 暗がりのなかで、おにゃんこちゃんは、すがるようにアキエ先輩がいるほうを見つめた。アキエ先輩はしっかりとした声でこうつぶやいた。
「祈りましょう。」
 おにゃんこちゃんは大きくうなずいた。そしてふたりは声を合わせて祈った。
「いやなことなんかあっちへ行け!わたしはなにも悪いことなんかしてないもん!」

4、そして感動の最終回「ひみつのおにゃんこちゃん」

ドンドン、ドンドン!
「あかないな、どうやら鍵がかかっているようだ。」
扉のすぐ向こうで、カバたちの声がする。
「壊すか。」
カバのひとりがいきり立つ。
「そうだ、やれやれ!」
 その喧騒に、おにゃんこちゃんは震え上がった。ただただ手を合わせ、小さな声で「いやなことなんかあっちへ行け」と唱えるばかりだ。
 興奮したカバたちを制したリーダーカバの冷静なひとことが、おにゃんこちゃんたちを救った。
「いや、それにはおよばん。いずれネズミがいるだけだ。さあ、みんな、上がろう。行進を続けようぞ。」
 その号令にひとときカバたちの不満気なざわめきが起きたものの、順番に階段をのぼっていく様子は、いたく静かであった。
 おにゃんこちゃんとアキエ先輩は、遠のいていくカバの足音に安堵の息を吐いた。
「ふう、アキエ先輩、わたしたちの祈りがとどきましたね。」
「そうね、さてと‥。これからどうやったら、この地下室から脱出できるかしら。」
 暗闇のなか、アキエ先輩は一生懸命考えていた。その真剣さにおにゃんこちゃんはつい、こう漏らしてしまった。
「こんなとき、魔法がつかえたらいいのだけど‥。」
 アキエ先輩はこのつぶやきを聞き逃さなかった。
「トモミ、それ、その魔法ってどういうこと?やっぱり噂のとおり、トモミはおにゃんこちゃんなの?トモミは魔法使いだったの?」
おにゃんこちゃんは黙ってうなずいた。
「アキエ先輩、そうなんです。わたしは、おにゃんこちゃん。学園で起こる不思議な出来事は、実はみんなわたしの魔法の仕業だったのです。いままで隠していてごめんなさい。でももう‥。」
アキエ先輩がつめよった。
「でもって、どうしたの?」
おにゃんこちゃんは正直に話した。
「トイレで変身しているところを、ジュンコ・Kに見られてしまったんです。そのときにひみつのコンパクトが割れてしまって‥。もう魔法がつかえないのです!」
「トモミ、いや、おにゃんこちゃん‥、じゃあなたはいま、変身した姿のまま、もとにもどれなくなっているのね。」
おにゃんこちゃんは、いまにも泣き出しそうだった。
「はい。」
と、か細く返事をするのがやっとだった。
 アキエ先輩はポケットからスマホをだして、上にいるカバたちに気づかれないように注意深くライトをつけた。そしてその光をゆっくりとおにゃんこちゃんに向けた。
「えっ!あなた、こ、これはどういうことなの?」
 おにゃんこちゃんは眩しさだけでなく、この現実からも逃げたい一心で顔を背けた。アキエ先輩はさらにスマホを近づけ、こういった。
「アソータロー‥。アソータローなのね。でも、なんであなた、よりによってアソータローなんかに変身しようとしたの?ほかにだっていろいろあるじゃない!」
「だって、タマキのやつをやっつけようと‥。」
 うつむいていた顔をあげ、その声のほうを見返したとき、おにゃんこちゃんは、照り返すスマホのライトで浮き彫りになった相手のすがたをみとめた。
 なんとあろうことか、そこにいたのはアキエ先輩ではなかったのだ。おにゃんこちゃんは驚きのあまり、うめくような、声にならない悲鳴をあげた。
「うううっ、どういうことなの!あなたは、あなたは‥。」
 おにゃんこちゃんは、アソータロー顔のまま、いっぱいの涙をあふれさせていた。そしてそのにじんだ視界のなかで、ジュンコ・Kが、たのしそうに笑っていたのである。遠くなっていく意識のなかで、またあのことばがいくえものこだまとなって響きわたった。
「あなたはほんとに、おにゃんこちゃん!」

(了)


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