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ポップ・マエストロとアルチザン〜山下達郎とジャニーズ問題〜

これを書いている時点では、ジャニー喜多川氏の性加害問題は、BBC報道を契機として、山下達郎氏をはじめとする一部芸能人による擁護発言、ジャニーズ社による記者会見後の、数々の広告企業によるジャニーズタレント採用見送りなどの動きが加速している状況で、この先の展開は全く読めないといった混沌とした状況であります。

BBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」

私(筆者)自身としては、山下達郎氏が今後どうなってしまうのか?また日本のポップミュージックシーン全体への悪影響を憂慮しているというところでありまして、思うところを書き記しておきたいと思います。

まず前提として、私はジャニーズタレント自体及び楽曲自体に興味があるわけではなく、思い返せばジャニー喜多川氏の古くからの噂を一因として、ジャニーズアイドルやアイドルカルチャー全体をうっすら嫌っていました。

現時点ではBABYMETALや私立恵比寿中学、いくつかのライブアイドルに衝撃を受けたことを契機に女性アイドルシーンのファンであるというのが基本な立場であります。

同時に数々の洋楽(主に英米の6~70年代のポップミュージック)について山下達郎氏(とあと幾人か)がラジオ番組、音楽雑誌で語る熱いレコメンド等に大きく影響を受けて、新旧東西のポップミュージックを長らく愛好している身であったりします。

バート・バカラック と フィル・スペクター

まず山下達郎氏への世間一般の評価がどのようになっていくか?ということに関してですが、洋楽ポップミュージックの世界の2人の人物を思い起こしたりしていました。

1人目は、稀代のメロディーメーカーであり、1960年代から70年代にかけて数々のヒット曲や映画音楽を手がけ、数々の賞に輝き、全米ソングライター協会のトップも務めた「バート・バカラック」。

B. J. Thomas - Raindrops Keep Fallin' on My Head

バカラックが人々の記憶に残るヒット曲を数多く手掛け、「マエストロ」として尊敬され(実際に清廉潔白な人物であったどうかは詳細は知りませんが)世間でのイメージはクリーンだったことと、一連の問題が公になる前の山下達郎氏が、安易な夫婦CM出演を断った話などが伝わっていたことから、クリーンなイメージを持たれていたこと。これはイメージ的に重なっていました。

もう1人は、「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれる「音」を作り出し、60年代初頭からガールグループによるポピュラーソングの源流を作ったとも言える音楽プロデューサー「フィル・スペクター」

The Ronettes - Be My Baby

1960年代初頭にヒット曲を数多く生み出し、その後のロックミュージシャンにも多大な影響を与え、ビートルズの最後期のアルバムをプロデュースまで行った。

と、音楽ビジネスにおける業績だけで見れば素晴らしい功績を残した人物ではあるのですが、数々の奇行(ビートルズのテープ持ち去りや、レコーディングで意見が対立する相手を銃で脅した話は有名)、家庭内外での暴力事件、晩年は殺人事件を起こし獄中で死亡。

ロネッツやロニー・スペクターなどの残酷物語はジャニーズ問題での性加害を連想してしまいますし、私の中での山下達郎氏の現時点でのイメージはフィル・スペクターに近いものになっています。

もちろんジャニー喜多川氏の性加害は山下達郎氏の本人のやらかしたことでは無いにせよ、この大問題について積極的擁護を行ったということがどのくらい人々の心に刻み込まれるかわかりませんが、音楽だからこそ人々の心に残るイメージが大切だと思うのであります。

少なくとも現在の私は彼の音楽を聴ける状態にはありません。

この問題がどのような推移を辿るかわかりませんし、山下達郎氏が今後どのような発言をするのか(あるいは一切発言しないのか)にもよりますが、現在の山下達郎氏はある岐路に立っているのではないかと思うのです。

「シティ・ポップから始まる日本のポップミュージック勃興の立役者であり、マエストロとして長く人々に記憶される存在」となるか、「ジャニーズ事務所との黒い噂が付き纏う存在であり、次第に知る人ぞ知る存在」となるかの別れ目ということです。

山下達郎の「アルチザン」

改めて、7月9日のサンデーソングブックでの山下達郎氏の発言を読み返しているのですが、ここの(中略)部分には「ジャニー喜多川氏と数々のジャニーズタレント」の才能への賞賛と感謝が述べられていて、「ご縁とご恩」の対象はそれらであることが読み取れます。

私の人生にとって1番大切なことは、ご縁とご恩です。(中略)このような私の姿勢をですね。忖度あるいは長いものに巻かれていると、そのように解釈されるのであれば、それでも構いません。えー、きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう。

【全文】山下達郎、ジャニーズへの忖度は「根拠のない憶測」事務所の契約巡る騒動に初言及(ENCOUNT)

要はこの「ご縁とご恩」の対象には山下達郎氏自身のファンも、ジャニーズタレントの先にいるジャニーズのファンも(もしかしたら性被害が原因でジャニーズを早々に辞めざるを得なかったタレントさんも)入っていないと読めるのですよね。

そして「きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう」という発言は「気に入らないならオレの音楽聴くな」とも読めるわけです。

山下達郎氏は「アルチザン」とのタイトルを付けたアルバムを発表しています。アルチザンつまり「職人」。「アーティスト」と呼ばれることを嫌って、自称するところは「職人」。

職人気質とは「自らの技術と審美眼を信じ」て「世間一般の評価なんか関係ない」しかし「自らの研鑽は怠らない」といったことを指すと思いますが、現在の山下達郎氏は職人気質の一部だけが肥大した状態になってるのではないかと訝しんでおります。

つまり「世間一般の評価なんか関係ない」≒ 「気に入らないならオレの音楽聴くな」ということです。

それだけではなく審美眼は信頼できると思っていたのに、ジャニーズのパフォーマンスを手放しに近い形で絶賛したことで、その審美眼にも疑問符が付いてしまってる始末。

風の中で今にも消えそうなロウソクの炎

ここでまた「エルトン・ジョン」という英国の国民的歌手とも言えるポップ・ミュージック界のマエストロを思い起こしています。

1970年代初頭から、溢れる才能を爆発させ、破竹の勢いでヒット曲を量産していた時期の奇行とも言える行動や、同性愛者であることをカミングアウトとした辺りの世間一般の評判は芳しいものではなかったことは、近年公開された伝記的映画にも描かれていたように思います。

しかし、ダイアナ妃への追悼曲を発表した辺りから世間の(英国の世間ですが)ずいぶんと変わったように感じていました。

Elton John - Lady Diana Funeral - Arrival + Candle in the wind 1997

この曲のタイトル直訳すれば「風の中のロウソク(の炎)」。パパラッチの無茶な追い回しがダイアナ妃の事故死に繋がったわけですが、

エルトン自身もマスコミからのいわれなきバッシング報道に長年悩まされた身であり、この曲からはエルトンのダイアナ妃に対する「深い共感」を感じることができるのです。(この「風」は「マスコミのバッシング報道」と読めるという訳です。)

また近年は。マスコミのバッシング報道に苦悩する若いミュージシャンをケアする姿が垣間見えたりと、他者に対する「深い共感と慈悲」がエルトンには感じられ、それが世間の評価に繋がっていると思うのです。

Elton John & Dua Lipa - Cold Heart

山下達郎氏の話に戻ります。

山下達郎氏に限らず、ジャニーズに楽曲提供をする楽曲制作者やアレンジャー、他にも振り付け師、MVを制作している映像作家など、ジャニーズの活動を支えるクリエーターは多数存在しています。

そういった方々が、ジャニーズの協力者であったとの謗りを受ける可能性もある中、今回の問題に対してどのように振る舞えばいいか苦悩しているはず。というのは容易に想像できることです。そしてそういったクリエーターのほとんどは後ろ盾を持たないフリーランスが多いはずなのです。

山下達郎氏が「共感」を示し、精神的にであれ物理的にであれサポートすべき相手はこのような方々なのではないのか?そういった方々の指針となる行動であったり、言動が求められる立場ではなかったのか?

というのがエルトンの行動を振り返って思うところであります。

この他にもジャニーズが他社のアイドル(私の推しも含まれる可能性がある)の地上波テレビや音楽メディアへの露出を妨害してきたとも言われる問題についても思うところは多々あるのですが、山下達郎氏とは直接関係ない話なので、別の機会にでも。

以上。