見出し画像

足跡を振り返れない(赤木 瞳)

私は、振り返ることができない人間だ。そして、省みて次へと生かすことがむずかしい人間だ。猪突猛進なのである。

初めて彼女と出会ったとき、同じにおいを感じた。私を好いてくれる女性は、だいたいなにかしらの共通点がある。彼女は、生き急ぐ感じといい、戦線へ出るわりには鎧すら着ないまま駆けていくところといい、私に似ていた。だから、はじめは心配をしていた(これは勝手な心配である)。
やはり彼女は傷ついてしまったけれど、その性質には似つかわしくない生命力があった。意外と立ち直りが早いのだ。

そんな彼女から、交換日記をしようと言われて、私は二つ返事で了承した。彼女もまた、猪突猛進なのである。

私たちは振り返ることができない。ひとつのところに定住することができない。自分のつけた足跡を見ることができない。
犬が人の言葉を話すことができないように、駝鳥(だちょう)が空を飛べないように、私たちも足跡を振り返って見ることができない、ただそれだけのことなのだ。

そんな私にも、彼女にもできることはある。決して社会に最適化されてない私たちは、足跡を振り返らないことで何とか生きようとしているのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?