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美学とロマンと青春の詰まった名作『宝島』

アニメ『宝島』を見たことがあるか

もし見たことがないなら断言してもいい、絶対見るべきだ。
等と断言しつつも昔のアニメだし時間を割いてみるのは億劫だろう。なので宝島がどんなに魅力的な作品なのか大いに語ってみようと思う。
それで見たくなったら幸いというもの。

アニメ史上の最高傑作

だと思ってる。原作からしてももちろん名作なのだけれども、魅力は作品のストーリーだけではない。

アニメーター出﨑統という天才

アニメーターの出﨑統(でざきおさむ)さんは日本アニメ史上屈指のアニメーターであり映像監督だ。ガンバの冒険やあしたのジョー、ベルサイユのばら、スペースコブラ、ルパン第1シリーズ等など上げたらきりがない傑作アニメを監督し世に出している大監督。

羽田健太郎という天才

オープニングとエンディングは羽田健太郎さん。自分が最も尊敬している音楽家の一人で、NHK交響楽団でのピアノソリストをはじめクラシック出身にも関わらずポップスや映像作品への作曲も精力的に行っていた。マクロスのテーマや宇宙戦艦ヤマト等の楽曲も羽田さんの作曲だ。

オープニングは子供の声と共に始まり冒険への希望を歌う。Bメロでは、やがて青春時代に過ごした人生の冒険の在り方を語り掛けるように展開する。そして自身の生き方や人生の背中を押すようなメッセージのサビ。曲単体でも傑作だ。エンディングは大人になった主人公が遠く回想するような手紙をしたためるような淡い気持ちに焦がれるような歌である。

2人の魅力的な主人公

無垢に未来に憧れ、全身にあふれる希望をたぎらせる主人公の少年「ジム」
そして美学と誰もが憧れ惹かれる海賊「シルバー」

ジムが様々な人間や大人と関わりながら、一人の成人に成長していく物語と全ての業や既成価値観にとらわれず自分の宝をひたすら追い続けるシルバーの2つの物語が並行しながら進んでいく。宝の島へ行って財宝に辿り着くという単純なプロットを忘れてしまいそうなほど登場人物たちの群像劇に引き込まれていく。

あらすじ

父を亡くした少年「ジム」は母親と、営む海沿いの町の宿屋で暮らしていた。そこへボーンズという男が宿を求めてやってくる。大きな衣装箱を抱えて。ボーンズは一本足の男がやって来ないかと恐れながら過ごしていたが、ある日ジムは町で出会った盲目の男に道案内を頼まれビリーのもとまで連れて行く。すると盲目の男はビリーに「黒丸」を渡す。この黒丸と呼ばれた紙は海賊流の絶縁状であり死刑宣告であり、受けた者は必ず殺されるというものであった。ボーンズは元海賊だったのだ。ボーンズはショックで倒れ、息絶える前に自身の抱えた衣装箱の鍵をジムに渡した。その衣装箱の中から出てきたものは「宝島の地図」だった。

ジムの父親は船乗りの海の男。亡き父の背中を追うようにジムは海へ憧れを抱き一人前の男になりたいと強く思うようになっていく。

ジムの強い思いと憧れを汲み取るように、たくさんの大人たちが一緒に冒険に出てくれるのだが、いずれも立派な大人の人物像に描かれている。
物語のご都合主義のようなキャラクターはおらず皆ひたむきに、誇りを持ち精一杯に生きている。そんな小さな「社会」の中でジムはどんどんと大人になっていく。

そんな中で船に合流したもう一人の主人公「シルバー」。料理長として乗り込んできた気さくで愛嬌たっぷりの怪力で豪快な男。肩にフリントというオウムを乗せた片足が義足の男。
このシルバーこそがボーンズが恐れ続けた一本足、最強の海賊と知られたフリント海賊団のNo.2であり、そのフリントが最も恐れた男「ジョン・シルバー」であった。

頼もしく、明るく、優しく、そして恐ろしく冷酷で平気で人を裏切る。しかしその根底には「何があっても夢(目的)のためには絶対に貫く」というニーチェがいう超人的意思を持った魅力的な人物、それがシルバーだった。「男はな、いったんやると決めたことはとことんやる。いいも悪いもねえ。それがオレの流儀さ」。神も悪魔も信じない。信じるものはただ己れのみ。
まるでベルセルクのグリフィスじゃないか

ジムはシルバーの強い意志と生き方に惹かれ、シルバーは若き日の自分をジムに重ね、やがて奇妙な友情が生まれていく。仲間であり敵であり、そして戦友のような二人の絆や心の交流が描かれながら物語が進んでいく。

お前なんか、シルバーじゃない!

宝を見つけたのちに裏切り、捕まり、みじめに生き延びようとするシルバー。何かを貫くために生きるシルバー。
敵味方に別れてしまったジムとシルバーが嵐の海で二人再開した時、シルバーにジムは言った。「オレは人殺しの作った料理なんて食いたくない。おまえは人殺しで海賊で、そして裏切り者だ。オレはだまされないぞ。おまえはもう…オレの…ジョン・シルバーじゃない!

かつて一緒に旅をした船で、共に働いた台所で、嵐を乗り切れたら一番好きな料理を作ってやろうと敵味方に分かれてもなお声をかけるシルバー。
怒りと悲しみに震え拒絶するジム。けれどもどちらも憎み切れず瞳が揺れる。ジムの気持ちもシルバーの気持ちも痛いほどグサグサ刺さってくる。

財宝を見つけたのち町へ帰る船の中、犯罪者ながら協力者として生きながらえて同行していたシルバーが財宝をもって姿を消す。みんなその姿を見てシルバーらしさに小さく喜ぶ。まあ犯罪なんだけど、大人しく捕まって町で死刑になるシルバーなんて一団誰もみたくなかったんだろう。誰か逃亡の手助けしたまでありそうなエピソードだ。
宝石よりも美しい恋人の元へ帰ったに違いない。

そして10年の時が過ぎジムは港町に勇名を馳せる船乗りになっていた。そして、唐突にシルバーとの再会の時はやって来た。

いたんだよ、やっぱり。オレのシルバーが。

恋人を亡くし、そこらの酔っ払いに腕相撲の勝負を挑んでは一杯のラム酒をねだる痩せた姿のシルバーがそこにはいた。酒場を出ていったシルバーを追いかけるジム。街角でみたのは、老い衰え弱ったオウムのフリントに語りかけるシルバーの姿だった。「どこヘ行ったって、どんなことに出くわしたって、その気になりゃあオレたちはまだまだ飛べるんだ。

老い衰えて、何もかもを失っても生きることを追い続けることをやめないシルバー。その姿をみたジムは言う。「いたんだよ、やっぱり。オレの…オレのシルバーが。」

ジムにとっての最大の宝は宝島を目指した冒険の日々と、シルバーと旅をした青春だと、そこに宝島はあったと。シルバーはシルバーのままいてくれた。これこそが宝だと。おまえなんかシルバーじゃないという言葉を最高の形で回収してくれました。ありがとうを100回は言いたい。

フリントはもう飛べない

これが最終回のタイトル。でも飛べる。どこヘ行ったって、どんなことに出くわしたって、その気になりゃあオレたちはまだまだ飛べるんだ。
シルバーがかっこよすぎてヤバい。もうヤバい以外のボキャブラリーがない。ジョン・シルバーはいたね、マジで。
最終回は老人と海のような文学的な結びになっていて痺れる。

こんなに書いたのに語りつくせない名作

メチャクチャ端折って書いたのに、多分10%も魅力を書ききれない傑作。
それが『宝島』

そして人生の美学、哲学、『超人』(超人の解説リンクあり)を描き続けた出﨑統。出崎作品にはこんなキャラクターがいつもいる。だから堪らなく憧れてしまうのかもしれない。あと本当は夕凪について語りたかったんだけどそれはまたいつか。

このnote読んで、宝島をみたくなったり語りたくなったりしたら嬉しいな。
ご拝読ありがとう!

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