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【モチーフ小説】あなたが主人公の物語(vol.5)


*心、身体、生きろ、踊り狂え*


小さい頃に、親に手を引かれて
観た舞台を、私は今でも覚えている。

彼は、舞台の中で、若い命を燃やすように踊っていた。

そこには彼の人生の舞台ともいうべき空間があるようで、彼は自在に動き、息づかいに奇妙な生活感すら覚えた。


私は、相応しい年齢になっても、中々1人で走り回ることができない子供だった。

そんな私を気遣うように、周りは手厚く支えようとした。その手厚さが、私の成長をさらに遅らせることの可能性については、誰1人として考えなかったようだ。

そのうち私の中で、上手く走り回れないことへの焦りがはぐらかされて、気がつくと、背もたれの深い椅子に座らされて、四六時中監視されるようになった。

とても狭いその部屋は
世界一安全で退屈な場所。
危ういものに、憧れを抱くようになるのは時間の問題だった。


「わたし、踊りを習いたい。」

これまで意思を強く主張した事がなかった私の珍しい口ぶりに、親は目を丸くしたが応じてくれた。高校生の頃だった。

"お前は1人じゃ何もできないから"

そう言いたげな顔をしていたが、見て見ぬ振りができた。部屋が少しだけ拡がるのを感じた。


私が踊りに命を燃やすようになるのに、そう時間は掛からなかった。
踊りに集中している時だけは、部屋の狭さが気にならずに、代わりにひとつ視えるのは決まって、かつて観た舞台で踊り狂う彼の恍惚とした表情だった。

そんな彼の踊りを見つめていると、私の身体の中のある部分が熱を帯びるのを感じる。そのときの彼が表現していた情感が、1つ残らず私の中に注ぎ込まれていくように思う。


そして、
私が私を強く感じる瞬間と、
私の中に私以外のモノを感じる瞬間が
同時に押し寄せる。


小さい頃に観た舞台を、私は今でも覚えている。


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