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読書感想文「禁猟区」

池袋ウエストゲートパーク以外の石田衣良の小説はあまり読んだことがないのですが、この小説で改めて石田衣良の文才を思い知ることになりました。

内容は保育園に通う娘を抱えるライターの既婚女性がママ友の誘いで出かけたパーティで若い俳優と出会い恋に落ちる恋愛小説です。400ページ弱あるので長編小説と呼べる文量です。

石田衣良は年中取材をして小説に時事の話題を盛り込むのが上手な作家ですが、この小説も平凡な日常がある日を境に刺激的な日常に変貌する様をよく表現していると思います。主人公の心理状態や同居している配偶者に対する複雑な気持ち、既婚者が感じる結婚生活への諦観など共感できる内容が非常に多く、自分の既婚者としての心情にもリンクして、とても考えさせられました。

恋愛小説なので、主人公と若手俳優のデート中のやり取りや台詞回しはお互いが思いあっている感じが伝わり、恋愛はいいものだよな、と昔持っていた感情を思い出しつつ読めました。ここだけ切り取れば爽やかな恋愛小説ですが、ママ友からトラブルが持ち込まれたり、家の事も仕事もこなしという日常とどう折り合いをつけていくか、という部分は既婚者なら感情移入できると思います。逆に独身の方だとあまりピンとはこないでしょう。

読了して改めて考えたのは、若い頃に当たり前に持っている他者に恋をするという感情、人としての権利を法的に婚姻状態となった時に手放さざるをえなくなるのか、配偶者を大切に思えなくなった時にそれでも婚姻状態を続けるべきなのか、という葛藤は果たして人生に必要なものなのか、ということです。

フランスなどのように法的な手続きが必須では無いという国ではこのような葛藤は生まれないでしょうし、配偶者への不信が募った時に別れという選択を積極的にとることができることの方が、人の生き方がよりシンプルになるのではないか、と思います。

未だにモヤモヤしています。
心の奥底に眠っている葛藤を掘り起こされた感じというか。
賛否両論ある小説と思いますが、私としては30歳台半ば以降の既婚者にはおすすめしたい小説です。

手に取る機会があれば是非読んでみてください。


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