クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #64 小さな石板

 歓迎の席が少し沈痛な雰囲気に包まれると、その重苦しい空気を吹き飛ばすように『そうそう』と、ハスールが明るい声を上げた。
『あなたにぴったりの守護獣の卵を、ちょうど手に入れたのでお渡ししましょう』

 沙奈ちゃんに向かってハスールはそういうと、目の前に黄色い大きな卵を出現させた。
『あなたを守護することを望んで、ちょうど良いタイミングで生まれてきたのですよ』

 沙奈ちゃんは顔を上げると、涙を拭ってから差し出された黄色い卵を両手で受け取った。
 沙奈ちゃんが受け取ってすぐに、卵に一筋の亀裂が入った。
 ひびは瞬く間に広がると、やがて小さなくちばしが殻を破って頭を出した。
 一生懸命くちばしで殻を破って中から姿を現したのは、鳥の頭にライオンの胴体を持つグリフォンだった。

 殻からぴょんと飛び出し、ブルブルっと体を震わせて翼にまとわりついた殻を飛ばすと、グリフォンは沙奈ちゃんに向かって「ピイ」と鳴き声をあげた。

「かわいい」
 殻を脇へどかして、沙奈ちゃんは鼻をすすりながら笑顔でグリフォンに両手を差し出した。
 グリフォンは沙奈ちゃんの手の上に飛び乗ると、甘えるように沙奈ちゃんの指に頭をこすりつけた。

『それと、ハーディ。こちらはあなたに』
 ハスールが今度は赤い卵を出現させて、ハーディに手渡した。
『ラシードは残念でしたが、命を懸けてあなたを守れたことを誇りに思っているようですよ。そして何の因果か、あなたのことは今後フェニックスが守護することになりました』

 ハーディの手の中でかえった卵からは、赤紫色の炎に包まれた小さな赤い鳥が飛び出した。
 殻から飛び出すとすぐに、鳥は炎を振りまきながらハーディの周りを飛び回った。

『そして、あなたにはこちらを』
 小さなクリスタルの石板を出現させると、ハスールはそれをぼくに寄越した。

『え?何ですかこれは?』
 手渡された正方形の小さなクリスタルの石板を見つめて、ぼくは質問した。

『クルストンですよ』
 クルストン?クルストンといえば、情報を保存するためのメモリ装置だ。一体、何の情報が入っているのだろうか?

『アルタシアのクルストンです』
『田川先生の・・・?』
『はい。ザルナバンに潜入捜査してもらう上で、アルタシアの情報は抜いておりました。存在しない人間、ということにしていたのです。闇の勢力にもばれないように。そして、アイリーンという架空の人物のデータを作り上げ、アルタシアはアイリーンという存在で活動してもらっていました。
 ただし、もしアイリーンとしての任務を終えたときには、アルタシアの情報を復元してほしいと本人からはお願いされておりました。
 そちらのクルストンはコピーになりますので、どうぞお持ちください』
『えっと、それをなぜぼくに?』

 田川先生にはたしかにお世話になったけど、それは沙奈ちゃんだって同じだ。
 なぜぼくだけに、コピーを渡されたのかがわからなかった。
 疑問に思うぼくに、ハスールは『アルタシアもそれを望んでいるでしょうから』とだけ答えた。
 なんだか腑に落ちなかったけど、ぼくはそれをポケットに仕舞った。

『あ、そうだ。あとこれ先生の・・・』
 田川先生の剣を持ってきていたことを、ぼくは思い出した。

 壁に立てかけていた剣を取りに行くと、ハスールはそれを制して『そちらもクリス、あなたがお持ちください』といった。
『その方がいいでしょう』
 ハスールはそういって微笑んだ。



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