クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #41 魔法の兜

 通りを少し進んでから、2つ目のブロックを右へ曲がった。その通りは道幅が広く、並んでいる建物もさきほどの通りの住宅より規模が少し大きかった。

 しばらく進むと、右前方の建物から明かりが漏れてきているのが見えた。
 ハーディはすぐさま「フーガ」といって、光の玉を消した。

 それは、3階建ての事務所のような建物だった。
 縦長の小さな窓は締め切られていて中の様子はわからないけれど、隙間からはかすかに光が漏れ出ている。
『さっきの人は、たぶんここにいるよ』
 建物の急な階段に前足をかけて、鼻をくんくんさせながらベベがいった。

 身をかがめて階段の上の方をのぞき込んでみたけど、真っ暗で状況は何もわからない。
『どうしようか?』
 振り返ってハーディに聞いた。
 このまま状況がわからずに乗り込むのも危険な気がする。もしかしたら、闇の勢力が詰めかけているかもしれないのだ。
 ホロロムルスで中の様子を探ることができればいいのだけれど、そうすることもできない。
 それに代わる魔法が何かあればいいけど、ホロロムルスが機能しないことにはそれを調べることもできない。

 そんなことを考えていると、ハーディのうしろに突如ぼわーっとキュクロプスのラシードが現れた。
 ハーディはラシードから、黒い兜を受け取っていた。
 ラシードはハーディに兜を手渡すと、にっこりと笑顔(に見えるだけかもしれない)のまま消えてしまった。

『何それ?』

 ラシードから受け取った兜は騎士の兜のように頭をすっぽりと覆いつくすタイプのもので、頭の周りには角が何本もついていて、なんだか少し狂気じみた雰囲気がある。
『暗闇の兜だよ』
 胸の前に両手で兜を掲げて、ハーディはいった。
『キュクロプスが冥界の神ハデスに贈った伝説の兜だよ。これを被ると、姿を消すことができるんだ。ギリシャ神話で、ペルセウスがメデューサを倒した話は君も知っているだろう?そのときに被っていた兜と同じ物さ』

 そういって兜を被ったハーディは、ふっと消えてしまった。

『キュクロプスは、優れた技術を持つ鍛冶職人でもあるんだよ』と、どこからかハーディの思念が飛んできた。
『ひとまず、これで僕が中に潜入する。もし10分しても僕から何も指示がなかったら、いったん逃げ出すんだ。逃げ出してマーティスに連絡するんだ。それで、マーティスの指示を仰ぐようにしてくれ』
『え?でも何かあったら、すぐにぼくが助けに行くよ』
 そう答えたぼくに『いや、ダメだ』と、ハーディはいった。階段の方から思念が飛んできた。
 ハーディは、すでに階段を上っているようだ。

『共倒れしてしまうことは避けよう。まあ、そんな心配をする必要は万に一つもないけどね』
 ふふっと笑いながらハーディはいった。
『とにかく、ベベとどこかに身を隠して待っていてくれ』
『わかった。気をつけて』と返事をしたけど、ハーディからの反応はもうなかった。




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