クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #72 招かれざる客

 そんなある日、イビージャの元へ局から連絡が入った。
 グオン地区に予期せぬ訪問者がやってきたから、すぐに向かってくれということだ。
 連絡を受けて、イビージャは少し緊張した。何かの拍子に次元の狭間を乗り越えて、様々な時代から偶然ここへとやって来てしまう地表人が稀にいる。恐らく、今回もそれだろう。
 しかし、もしかしたら闇の勢力などの侵入者である可能性もある。重々注意しなければならない。

 グオン地区まで、イビージャはドラゴンを飛ばした。オーラムルスの地図表示に、その招かれざる客が表示されていた。通りの真ん中で、その訪問者は動かずにいる。
 どうやら、侵入者ではなさそうだ。ここがどこかわからずに、呆然と立ち尽くしているのだろう。
 予期せず次元の狭間を越えて飛ばされてきた者の、いつもの反応だ。

 現場へ到着すると、思っていた通りキョロキョロと辺りを見回しながらゆっくりと道を歩くひとりの男がいた。白い布着をまとい、ひげを蓄えた若者だ。

 ドラゴンに乗ったまま男の目の前に降り立つと、男は目を見開いて一目散に走り出した。これもお決まりのパターンだった。

『お待ちなさい』
 イビージャは、優しい口調で話しかけた。
『あなたを傷つけるつもりはありません』
 男は立ち止まって、そろそろと振り返った。その表情は、半信半疑といった様子だ。

 イビージャは、地面に降り立ち男を見た。日に焼けた肌に、たくましい体つきをした凛々しい青年だった。その男をひと目見て、イビージャは気に入った。タイプの男性だ。

 男は名をバラモスといい、地表世界のローマ出身だった。年齢は二十歳。
 イビージャは、戸惑うバラモスにゆっくりと近づいた。そして、ここがどこであるのかを説明した。
 安心させるために、他にも似たような人がやってきては住み着く者もいるし、地表世界へ帰ることを望むのであれば送り届けることもできるということも話した。

 地表世界へは元の時間に戻れるから、もしよかったらしばらく滞在してはどうかとも提案した。
 その間わたしが面倒をみるし、観光案内もしてあげるわと、挑発するように男の目を見つめて、イビージャは精一杯の魅力を振りまいた。

 バラモスは、イビージャの提案に興味を持った。
 聞けば、留守中に自分の住んでいた集落が何者かに襲われ、戻ったときには焼け野原と化していたということだ。そして、家族もすべて皆殺しにされていたと。
 自暴自棄になって谷へ身を投げようとしたところ、気づいたらこの地へやって来ていたということだった。

 滞在することを決めた動機が自分に興味を持ったわけではなさそうなので、半ば不本意ではあったが、甲斐甲斐しく世話をすれば否が応にも自分に興味を持つだろうと思い、イビージャは連れて帰ることにした。



お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!