クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #48 奇襲攻撃

 地下遺跡への入り口があるアパート前の路地に車を停めて、まずはホロロムルスでアパート内を確認した。
 部屋は電気が点いているけど、無人のようだった。
 ダニエーレから事前に得ていた情報では、組織の人間はこの時間はいつも仕事(スリや恐喝)に出ているということだ。

『さあ、行こうか』
 ハーディのかけ声とともに、ぼくたちは車を降りた。

 ハーディが部屋の鍵を開け、ぼくを先頭に続々と部屋に入った。
 クローゼットの床にかぶせてある蓋を開けて、用心しながら下へと下りた。面倒くさいので、梯子は使わずにピューネスで宙に浮いたままゆっくりと下降した。
 ハーディが魔法で灯した明かりに照らされ、トンネルを抜け出たところで突然銃声が轟いた。同時に、沙奈ちゃんがうしろへ吹っ飛んだ。

「アバーグラ」
「うっ」

 続けざまに鳴った銃声とほぼ同時にハーディがカンターメルを叫ぶと、うめき声が上がった。
 暗がりの中、痛みに顔をしかめて手を押さえる少年の姿がある。
 マルコだ。その周りには他に3人の少年と、あと黒い革の上下を着たボスもいる。

 ぼくは、地面に倒れる沙奈ちゃんのもとへ駆け寄った。
「沙奈ちゃん、大丈夫?」
「うん・・・」
 ピューネスを着ているおかげで、沙奈ちゃんは無傷だった。衝撃で倒れてしまっただけのようだ。
 お腹をさすりながら、沙奈ちゃんは立ち上がった。

「こんなのじゃ太刀打ちできないか」
 マルコが落とした拳銃を拾い上げると、ゆっくりとボスが近寄ってきた。
「やっぱり、今日の昼間に妙な真似をして僕らのアジトに乗り込んだのは君たちだったようだね。いくつかのブツと一緒に、指輪や時計もなくなっていたからおかしいと思ったんだ。どうやら、僕の記憶も消してくれたみたいだけど」

 拳銃をうしろに放り投げると、ボスはジャケットの内ポケットから杖を取り出した。

「ちょうどこれから探しに行こうと思っていたんだけど、まさか君たちの方からノコノコやって来てくれるなんて好都合だよ。ダニエーレもいなくなって連絡も取れなくなっちゃったんだけど、それももしかして君らの仕業なのかな?」

 ハーディは、とぼけるように首をひねってぼくの方を振り返った。ぼくもその芝居に合わせて、首をかしげた。そんなぼくたちを見て、ボスはふっと笑った。
「まあ、いい。否が応にも吐かせてみせるさ」
 ボスはそういってうしろを振り返ると、少年たちに向かって杖を振った。

「フェルーシア・ヴィオフィエーリ」

 すると、突如少年たちの様子がおかしくなった。
 みんな猫背になって、ピアノの演奏を始めようとでもするかのように、両手を胸の前に構えた。めいっぱい見開かれた目は赤く光り、大きく開けた口からはよだれが垂れ流れ、まるでゾンビのようだ。

『気をつけて。インペローモだ』
 身構えながら、ハーディがいった。
『人を操る闇の禁術だよ。本人たちは痛みも何も感じないから、動けなくなるまで襲ってくるよ』

「かかれ!」

 杖を振ってボスが号令をかけた途端、「シャアアア」っと奇声を発しながら少年たちが襲いかかってきた。
 ピョンピョン飛び跳ね、まるで猫のように敏捷な動きで壁や天井を蹴っては、次々に向かってくる。すぐさま防御魔法で盾を作って、攻撃を防いだ。

 しかし、少年たちの攻撃してくるスピードはものすごく速く、ぼくたちは防戦一方だった。反撃する間もない。隙を見てハーディが攻撃を仕掛けるも、易々とよけられてしまっている。
 このままでは埒が明かない。少年たちの体力が消耗するまで何とかしのいで、疲れ切った頃に反撃するしか手はないだろうか。でも、それまでぼくたちの体力が持つかどうかが問題だ。

 防御しながらあれこれと打開策を考えていると、うしろから「リュクスナシム」と叫ぶ声が聞こえた。
 直後、奥で杖を構えていたボスに大きな光の塊が襲いかかった。
 衝撃でボスが吹っ飛んだ。
 すると、攻撃を仕掛けてきていた少年たちの動きが止まった。すかさずハーディが「ネクトラーニオームネス」と、カンターメルを唱えた。

 前傾姿勢だった少年たちは、縄でぐるぐるに縛られたようにピンと気をつけの姿勢になって、その場に倒れ込んだ。
 倒れてもなお少年たちは暴れていたけど、徐々に正気を取り戻して大人しくなった。目の色も正常に戻っている。

『人操術(インペローモ)は、まず術者を倒すことが鉄則でしょ』という、思念が頭に響いた。ぼくたちを助けてくれた人の声だ。その正体は、振り返るまでもなくわかった。



お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!