ソフトカバーが増えたことに気づいて、出版業の将来についてちょっとだけ考えたこと―読書月記35

最近、単行本にソフトカバーが増えたように感じる。新刊として購入した本だけではなく、図書館で借りる本にもソフトカバーが多い。統計的な裏付けはないが、手元にあるここ数か月で購入した本を見てみると、ソフトカバーが以前に比べると多くなった気がする。

それが事実なら、理由として考えられるのは、まずはコストの問題だろう。石油が上がれば、出版も影響を受ける(しかも円安)。まず紙代、印刷代、輸送費が上がる。単純に考えれば、その上昇分をそのまま値上げすればいいわけだけど、他の産業を見てもそうしている企業は多くない。価格に転嫁する前に行うのは、生産コストの削減だ。だからハードカバーからソフトカバーなのだろう。原料代(紙代)と製本代などでどれほど違うか具体的には分からないが、重さや嵩を考えると、ソフトカバーが安いことは間違いない。そういった意味では、食品などで行われているパッケージを簡素化して価格据え置きに近いのかもしれない。
もう一つは、電子書籍の普及も影響していることが考えられる。電子書籍を買う人にとって、カバーがハードだろうがソフトだろうが関係ない。また、紙の本で5000部売れていた本を「紙」と「電書」で出す場合、1割の500部が「電書」で売れる場合、「紙」は4500部しか売れない。「電書」を作ったからといって売れ行きが伸びるとは考えられない。そして当然だが「紙」の本1冊当たりのコストは割高になる。もちろん、ベストセラーになってどんどん増刷したり、もともと初版部数がかなり多い人気作家なら問題ないのかもしれないが、3000~10000部ぐらいしか売れない本は「電書」で確実に影響を受けるだろう。だから「紙」の本のコストを下げたいと出版社が考えるのは当然だ。

あと、直接のコストではないが、消費税の存在もボディブローのように効いてきているのではないだろうか。8%から10%に上がったのは2019年で、この時の上昇率は2%だが、出版業界の売り上げが最も良かった1996年の消費税は3%。この四半世紀で7%上昇しているわけで、単純に書けば1996年当時、月に1万円書籍につかっていた人は、本体価格として9700円分の本を買っていたわけだが、それが今は9090円という計算になる。しかも、当時は携帯電話(スマホ)の普及状況が今とは違って、通信費が全く違う。また、様々なサブスクが増えてきてそれに対する費用も負担になっている。映画館での映画鑑賞、CDの購入もそれなりにかかるものの、毎月必ず費用が発生するとは限らないが、サブスクは退会しない限り、必ず引き落とされる。スマホ代もサブスク代も固定費なので節約などが無理(乗り換えで多少の減額はあるが、ゼロになることはないだろう)。本代、映画代、CD代の時期は、今月はどうしても観たい映画が3本あるので、CDと本を抑え気味にしようといった選択ができたが、それができなくなった。また、自由に作品が楽しめるようでいて、サブスクに入らない作品を楽しみたいとなったときに、自由が利きにくくなっている。

ちなみに私は「AmazonのKindle Unlimited 読み放題」を利用しているときもあるが、おおむねキャンペーン期間時の利用で、今は2か月で99円だ(先日、いったんやめた)。通常の契約だと月に980円、雑誌を数誌読むとかなら別だが、私の読書傾向にとっては980円だとメリットがほぼない。映画にしても本当に見たい作品、例えば1日つぶして電車にのって、1万円ちかくかけても観たい作品は、DVDを購入してしまうことが多い(サブスクにない場合がそれなりにある)。サブスクには話題の作品などは多いようだが、私個人としてはさして観たくもない作品を、他人との話題つなぎのために観るために、サブスクでお金を費やしたくないのだ。

閑話休題。
書籍販売の売り上げは、一応底を打っている状況だが、これから先がどうなるかは不透明だ。ただ、少子高齢化、人口減少を考えれば、多少読書する人が増えても、大幅な売り上げ増は望めないだろう。そして、紙の書籍に対する電子書籍の売り上げが比率の上で減少することはないだろう。
だから、7月にマンガの古書価について書いたときにも言及したが、出版社が増刷を控える傾向はどんどん強まってくるだろう。これはマンガに限らない。一例をあげるとロザリンド・フランクリンの評伝『ダークレディと呼ばれて』はkindleだと3080円(発売時の本体価格2800円に消費税280円がプラスされたもの)に対し、通常の書籍販売はなく、古書だとAmazonでは5000円前後に送料、ヤフオクは出品なし、メルカリだと現在取り扱い中で最安値が6100円(送料込)、日本の古本屋だと7000円プラス送料。ブックオフオンラインでは現時点で在庫はないが、本体価格よりも高い4290円が価格として設定されている。同書はメルカリでは過去にかなり安く売られているし、ヤフオクでも先日、私が入手したときは送料を含めて3000円を切っていた。運良く安く見つける以外は、紙の書籍だと電子書籍よりも高いお金を払うしかないということが増えていくだろう。
このように増刷しても在庫になるリスクがある以上、出版社は増刷しない方向にどんどん舵を切るだろう。というか、すでに舵を切り始めているのだ。

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