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糖尿病治療の大躍進~上手につき合うために

11月14日の「世界糖尿病デー」、その前後1週間が「全国糖尿病週間」であることにちなみ、日本糖尿病学会認定専門医の寺島康博医師に、糖尿病の治療について聞きました。薬もどんどん進化・多様化し、患者さん一人ひとりの体調やライフスタイルに合わせたオーダーメイドな治療ができるようになっています。(2023年11月15日配信)《糖尿病について・その2》

糖尿病の奥深さに魅せられて

イズミン 寺島先生は糖尿病を、非常に奥深い病気だとおっしゃっていますね。

テラシマ 世の中的には単純にいえば、血糖値は食べたら上がる、食べなければ上がらないという感覚だと思います。ぼくの大学時代もそう教えられました。でも、人間の血糖値というのは、集中していたり興奮しているときや、高ストレス状態のときなど、けっこう変化しています。正常な人なら、その振れ幅は小さいのですが、糖尿病の方は、食べた後に急降下してしまったり、食べていないのに血糖値が勝手に上がってしまったりする。それがなぜ起こるかという仕組みがわかってきて、そういう患者さんごとの症状に合わせた治療ができるようになりました。まだまだ我々専門家も気づけていないことがたくさんあり、日々勉強だなと思っています。
 糖尿病学会というひとつの病名だけで学会があるくらいですので、関わっている人も多い。非常に奥深いというか、「闇」でもありますし、だからこそ「光」を見出すためにやることがたくさんあります。

シノハラ 合併症も進むと命にも関わるので、しっかり治療しなければならないですし、やりがいありますね。

患者さんウォッチングで治療方針を立てる

イズミン 寺島先生は、患者さんのウォッチングをけっこう熱心にされていると伺いました。

テラシマ 患者さんには本当にいろいろなタイプの方がいらっしゃいます。それぞれ病気に前向きに関わっていってほしいのですが、例えば食事指導をしても「自分はこういう生活スタイルだからどうせやらない。必要ない」などと、提案しても受け容れていただけないこともあります。自分が若いころは、その人たちを見て「もうしょうがないなあ、この人は」と思ったりしていたのですが、今は、こういう人にどうしたら病気と向き合っていただけるかを考えて、いろいろアプローチの仕方を変えています。そうすると、次に外来に来たときに、ちょっと前よりも病気の話を聞いてくれるな、とか、最初は固まっていた人が、ちょっと笑ってくれるようになったな、とか。それにつれて血糖値のコントロールも良くなっていきます。ですので、治療に後ろ向きの人がいると、これからどう変わっていかれるかな、と非常に興味を持って関わっています。

糖尿病の薬物療法について

シノハラ 糖尿病の治療はやはり内服薬が中心になるんですか。

テラシマ 2型糖尿病に関しては、基本的にはなるべく内服薬で治療します。患者さんもたぶん、そう望まれてると思う。最初からインスリンを打ちましょうといっても拒否感は強いですし、また内服薬の数も、ぼくが医師になったときには2系統くらいでしたが、今は本当にいろいろなものが出てきました。
 その人の病態、例えばインスリンの効きが悪いタイプ、分泌が悪いタイプ、あと体重が増えて減らないとか、それらに合わせて血糖値をコントロールしたり、インスリンを増やしたり、糖新生を抑えたり、必要な効果が期待できる薬を選びます。おしっこに糖をたくさん出してあげるお薬もあるので、そういったものをうまく使って、血糖値そのものをあまり上げないように、食事前後の変動幅がなるべく小さくなるように考えていきます。体重を増やさないためには、どうしても低血糖がついてまわるので、低血糖になりにくい薬を中心に使うのが最近のトレンドになります。
 だけどインスリン分泌が悪い人に関しては、やっぱりインスリンはちゃんと使うべきですし、今はGLP1(グルカゴン様ペプチド-1)といった他のホルモン薬もあります。グルカゴンという血糖値を上げるホルモンがあり、GLP1製薬はそのグルカゴンを抑制したりインスリンを増やしたりします。注射薬が主体ですが、飲み薬も使えるようになったので工夫して治療しています。
 ただ1型糖尿病では、どうしてもインスリン中心の治療になります。2型の人に使う内服薬の適応がないことが多いので、1型では診断された段階で基本的にはインスリン注射による治療が基本になります。インスリン注射は、毎日自分で注射するものになります。インスリンはゆくゆくは、週1回というようなものも出てくるだろうとは言われています。現在は長いものでも2日間ぐらいしかもたないので、2型でインスリンが必要な方には1日1回のインスリンと飲み薬を組み合わせるなどの治療方法をなるべく考えていきます。

イズミン いい薬がたくさん出てきて、ちゃんと治療をすれば管理できていくわけですが、やはり治療中断されてしまう患者さんが多いのですか?

テラシマ そうですね。なかなか受診しなかった人もいますし、1回来てプッツリという人もいますし、治療を始めて2~3回来てその後来なくなってしまう人、中には1~2年通ったのにフェードアウトしてしまうなど、いろいろなパターンがあります。
 やはり糖尿病は残念ながら治る病気ではないので、治療中断したあと、また血糖値上がってきて、調子が悪くなってからまた来られることが多いです。中には治療放棄していて、救急車で運ばれてくるほど悪化してしまうこともあります。
 通院してくださる限りは、みなさん治療を受けたい、何とかしたいという気持ちがあってのことだと思うので、一度中断した人でも、また来てくれれば、そこから早く良くなるように、継続できるように話をして一緒に考えていきます。

シノハラ 糖尿病の「教育入院」というものもありますよね。

テラシマ 教育入院では、本当に教育だけの入院もあります。例えば当院で昔やっていたものでは、週末に入院して翌週の途中ぐらいまでに全ての教育を詰め込んでみたいなスタイルですが、それだとほとんど勉強と食事体験ぐらい終わってしまい、その人の血糖のコントロールが改善するかどうかというと、決してそうではありませんでした。
 最近、当院のような大きい病院で「教育入院」としてやっているのは、血糖コントロールが悪くてなかなか改善しない人や、初めて糖尿病が見つかって症状が重めの人(痩せてきたとか、口が渇くとか、ヘモグロビンA1cのデータがすごく悪い、など)に対して、治療しながら入院中に1週間ぐらい、勉強もしてもらうというようなスタイルです。

シノハラ いわゆる治療を兼ねて、治療とともに勉強もついてくるということですね。

イズミン 病院での治療というと、どのようなことをするのですか?

テラシマ 入院して、インスリンや飲み薬を組み合わせて、10日~2週間くらいで症状が改善したら退院になります。

シノハラ 血糖コントロールのために一時的にインスリン注射を導入するけど、ある程度良くなればインスリン注射を卒業して、内服治療に切り替える人たちが多いということですね。

テラシマ インスリン注射を一度始めたからといって、一生インスリン注射を使わなきゃいけないってことは、1型の方以外はかなり稀です。2型の人でも、いろいろな内服薬を使ってきたけれどインスリン分泌が明らかに低下している場合には、なんらかの形でインスリンは使っていきますが。

イズミン わかりました。寺島先生、2日間にわたり、どうもありがとうございました。

ゲスト紹介

寺島 康博(てらしま・やすひろ)
大同病院 副院長、糖尿病・内分泌内科部長。
愛知県瀬戸市出身。子どものころは野山を駆けめぐり、育つ。内分泌学に興味を持ち、この分野を志すが、圧倒的に患者数が多く、どんどんサイエンスとして病気の仕組みが解明され、新しい治療薬が開発される糖尿病に魅せられていった。
日本糖尿病学会認定研修指導医・専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科指導医・専門医、ほか。

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