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脳や心臓に大接近する、血管造影検査とは?

血管に造影剤を注入してX線で透視する血管造影検査。
脚の付け根(鼠径部)などからカテーテルという細い管を挿入し、心臓や脳などの患部に到達させてから、直接、その部分の血管に造影剤を注入するため、効率よく画像を写し出すことができます。そのとき、いかにクリアに血管を見えるようにするか、その放射線検査中の患者さんへの被ばく量の管理など、大事な役割を担っているのが診療放射線技師。大同病院 放射線診断科の水野克彦さんに、検査について教えてもらいました。(2024年2月14日配信)

血管造影検査とは

イズミン 水野さんが担当されている「血管造影撮影」とはどういうものですか?

ミズノ 血管にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入して、カテーテルから造影剤というものを注入して、X線を用いて目的の血管を描出する検査になります。この検査は医療用語でアンギオグラフィといわれますので、僕たちは「アンギオ」と略して呼んでいます。

イズミン 造影剤を入れて撮影することによってどんなメリットがあるんですか。

ミズノ 通常レントゲンの検査ですと、血管の走行具合は確認できません。そのため造影剤を使って、写真にあえて影を作ることによって、血管を表示することができるようにします。CT検査やMRI検査でも造影剤は使用されるんですけども、アンギオで大きく違うのは、カテーテルを血管に挿入するという点です。これでより細かな結果までも描出することができます。

イズミン ただ造影剤を注射して、血管の中に造影剤がある状態を撮るのと、管を入れて患部まで到達してから造影剤を注入するのでは違うんですね。

ミズノ はい。医師が見たい血管までカテーテルを進めて、そこからダイレクトに造影剤を入れるので、より細かな血管が見える形です。

イズミン 体の中に造影剤を入れていくというのはちょっと怖いイメージがありますが、体に毒ではないんですか。

ミズノ 毒ではないのですが、確かに体の調子を良くするための薬でもないですね。検査後に水分多めに飲んでいただいて、尿とともに排泄を促していただくように説明しています。1日もあれば造影剤は排泄されます。
 ただ、今回お話している血管撮影アンギオや造影CT検査で使用する造影剤は、基本的にはヨードという成分を含んだもので、患者さんによっては造影剤が体に合わない方も少なからずいらっしゃいます。当院ではなんらかのトラブルが出てしまった方に「副作用カード」をお渡しています。次回同じ検査を受けたり、他院で造影剤を使用した検査を受けたりする際に、このカードを担当技師にお渡しいただけば、どの薬が体に合わなかったのか一目でわかるようになっています。
 ヨード造影剤にもいろいろ種類があり、種類を変えると副作用なく検査できることもありますので、不安なことがあれば、放射線技師に気軽にお声掛けいただければと思います。

あらゆる放射線検査に精通していることが求められる

シノハラ 水野さんはどうして放射線技師になろうと思ったのですか?

ミズノ 私が高校生のときに、祖父を膵臓がんで亡くしまして、そのとき診ていただいた主治医の先生から、もう少し発見が早ければ結果が変わっていたかもしれないねと言われたのがきっかけでした。
 未熟な高校生でしたので、医師でも発見が遅くなることもあるんだと思いつつ、「じゃあ誰が見つけるんだ」と調べたときに「放射線技師」という職業を知りました。早期発見という点で重要な役割を担っているのではないかなと考えて今に至っています。

シノハラ 血管造影を主に担当されるようになったのはどうしてですか?

ミズノ 大同病院へ来る前、大学病院で働いていた経験があるのですが、そこでCTとかMRIとか、さまざまなモダリティ(医療用画像を撮影する装置一般)を経験した後に、最後に配属されたのが、アンギオの検査室だったんです。
 アンギオの技師というのは、レントゲン、CT、MRI、ほかに放射性同位元素を使ったアイソトープ(RI)検査、3Dデータの作成といった他のモダリティに精通していないと、有用な画像を医師に提供したり、助言したりすることができないという場面が多々あります。そのことに強くやりがいを感じ、専門的に従事することが多くなりました。

イズミン 血管造影はどんな病気が疑われるときに行うのですか。

ミズノ アンギオ室では、脳の血管に動脈瘤が疑われる場合、またはお腹の血管から何かの拍子に出血が疑われる場合、心臓の血管が細くなって血流が悪くなっている場合、足の血管が動脈硬化などの影響で詰まっていて、詰まりを取り除く必要がある場合などです。アンギオによる検査や治療の対象は、全身の血管に関連する病気や病態に対してなので、種類としては、ここではお伝えしきれないくらい多くあります。

シノハラ 救急で来られた患者さんに緊急で検査することも結構ありますよね。

ミズノ そうですね。レントゲンやCT、MRIの検査などで、脳こうそくや心筋こうそく、出血が強く疑われる場合は、早急な治療が必要で、時間との勝負になります。
 そのためすぐにアンギオ室で検査治療ができるように、スタッフ間で密な連携を取って、迅速な受け入れを行っています。

イズミン つまり24時間体制で検査ができるようにしているということですね。

診療放射線技師としての役割

イズミン そういった迅速な受け入れをやってる中で、放射線技師はどのような役割を担ってるんですか。

ミズノ はい。血管の撮影に関しては基本、放射線技師が行います。造影剤の注入条件一つ違っても、見え方が異なりますので、医師が診断しやすいクリアな画像を提供するためにどうするか、を常に心がけています。
 緊急検査や治療に関しては時間との勝負なので、手技が始まると、どこが詰まっているのか、どこから出血しているのか、またどのようにカテーテル操作をするべきかなどをいち早く知る必要が医師にはあります。
 その際、放射線技師としては、手技開始前に測定した心電図を読み解いて、心筋こうそくなら心臓のどの血管が詰まっているのかを予測した上で使用する物品を準備したり、あとは術前のCT画像から3Dデータを作成して、どの血管から出血しているか、どのように機械を操作すれば、カテーテルがよく見えるか、操作しやすいか、あと評価が可能かなどを助言したりします。
自分たち技師には、先生が考えること、やろうとしていることを常に先回りして準備する「おもてなしの心」を持った黒子のような役割を担っていると思いますし、そうなるために日々研鑽を欠かさないようにしています。

シノハラ 緊急検査だと特に、各スタッフが本当に全力で力を合わせて、できるだけ早く効率的に有効な治療ができるようにすることが大事だもんね。

イズミン あともう一つ、とても重要なお仕事があるそうですね。

ミズノ はい。患者さんや医師などのスタッフの被ばく量管理をしています。放射線を利用していますので、少なからず被ばくはしてしまいます。手技がとても難しいものだと、それだけ時間も長くなり、被ばく線量も増えます。ある一定量被ばくすると皮膚がただれてしまったり、潰瘍ができてしまったりする可能性がありますので、そうならないために、機械が出す線量の調整をしたり、撮影角度を医師に提案したりします。

シノハラ 放射線の当て方によって被ばく量が調整できるということですね。

イズミン そういった役割を担いながら、安全でクリアな検査をするために、大事にしていることはどんなことですか。

ミズノ 画像をクリアに撮影するためには、基本的なことではありますが、日々の振り返りや最新技術の情報収集、あとは検査に関する知識を増やすことは常に行っています。また、画像をクリアに撮影しても医師のニーズに合っていなければ意味がありません。なぜこの画像が必要なのかを知るために、先生方とコミュニケーションをよく取ることも大事にしています。また緊急検査が円滑に行えるように、検査に看護師さんや、臨床工学技士さんとも意見交換を積極的に行っています。

シノハラ 頼もしいですね。皆、すごく奥深い世界だから、こうやって日々研鑽していただいて、技術がしっかりした放射線技師さんがいると安全で、迅速な検査や治療が可能になりますね。


ゲスト紹介

水野克彦(みずの・かつひこ)
大同病院 放射線科 診療放射線技師。大学病院で一通りの放射線科業務を経験し、最後に到達した血管造影検査で、それまでやっていたことがすべてつながった。以来、この道をきわめたいとスペシャリストを目指している。趣味はバドミントン。休日には小学校の体育館などで練習し、年2回県内のリーグ戦に参加している。バドミントンは「だまし合いのスポーツ」といわれ、相手との駆け引きに面白さを感じるという。