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フランス人と日本人と芸術について

 フランス人と日本人って、似ているところも多いけれど、ことアートやアーティストに対する気の持ちようだけは、だいぶ違うような気がする。

 フランス人は基本的に、歌だろうと絵画だろうと踊りだろうと、あらゆる芸術に対してかなり上位概念の敬意というものを持っていて、またそれらを表現する人、つまりアーティストに対してもある一定のリスペクトを持っている。

 これは、必ずしも自分の好きなジャンルの芸術や知っている歌手などに限らない。聞いたことのない国の全然知らない音楽や踊りでも、やっぱり無条件で敬意を払う。また、その人が有名な人だからというわけでもなく、例えばメトロの駅にいるストリートミュージシャンなんかも、どちらかというと尊敬の念で見られていることが多い。

 これは、自分がフランス人の家族の中で過ごしていて、かなり本音で話す環境の中で言っていたことだから、本心で間違いないんだと思う。
 ミュージシャンと聞くと「食えてんの?」と二言目には聞く日本人とはえらい違いだ。

 じゃあフランス人は音楽や絵などの芸術を志す人が多いのかというと、別にそういうわけでもないようで、そこはどうもあんまり日本と大差ないようである。だから、「みんな音楽や絵をかじったことがあって大変さがわかるから尊敬している」というようなことではあまりなく、単純に芸術というものの脳内カーストの順位が日本とは根本的に違うということなのだろう。

 自分が以前フランスに行った時は、よくサックスを持って行っていた。
 いつだかの滞在中、近所のフランス人の家に夕食にお呼ばれをして、ぜひそこでサックス吹いてよ、という話になったことがある。季節は夏で、バカンス時期だったと思う。
 お宅に夕方お邪魔して、大体5時6時から食べ始めて、11時ごろまでひたすらおしゃべりをして、あれ、もう忘れちゃったのかな?と思った頃に、ようやくサックス聞かせてよという流れになった。
 もう夜遅いけど大丈夫かなと思いつつ演奏すると、みんな思いのほか真剣に聞いてくれて、とっても喜んでくれた。
 用意していた曲が終わっても「もっとどんどんやってくれ」と言って、次から次へと結構長いこと演奏した。ありがたいことで、うれしかった。

 そして、演奏も佳境に差し掛かった頃、その家の奥様が、家の窓のほうに行ってがちゃがちゃと窓を閉め始めた。急に我に返る。あ、やっぱり真夜中だし、うるさいよな、ちょっと音大きかったかな。。
 と思っていたら、違った。閉めていたわけではなくて、なんと窓を全開にしていたのだ。

 「いい音だから、周りの家にも聴かせてあげようと思ったの」

 これである。
 日本でこの発想があり得るだろうか。日本では、決められた場所以外の演奏は害悪で遠慮すべきものなのに、ここではこんな真夜中にそこらじゅうに響き渡らせるという選択肢があり得るのだ。
 こんなのほんとにもう、かなわないよなと思う。

 これって、単に自由なわけではなくて、自分なりに自信を持って目の前の芸術に向き合う、ということが自然にできるからだと思う。だから夜中に窓を開けることも、当然のように自分で判断して行動できるわけだ。「素人だからわからないよ」とは考え方の方向性が全く違う。
 これに関しては、逆立ちしても追いつかない、これが文化の積み重ねというものなんだと思う。

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