酒蔵見学レポート:鳥取県 久米桜酒造
自身の企画がいろいろな事情で発展し、結果として鳥取県の4つの酒蔵を巡るツアーとなりました。
そのうちのひとつ、久米桜酒造へ見学へ行ってきました。
今回はその様子をレポートします。
※今回のツアーでまわったその他の3蔵の記事は以下から!
育みは地域と共に「上代」
地元に愛されながらの新陳代謝「大谷酒造」
次世代へと受け継がれる酒造りと新たな試み「千代むすび酒造」
■イベント概要
グループ会社の一つが久米桜酒造であり、同じグループには大山(だいせん)Gビールを作る会社もあります。
ホームページには、「くめざくら大山ブルワリー」となっており、そちらの方が全体を包括している表現にはなりますが、今回は久米桜酒造として表記していきます。
ここで欠かせない地名・名前が、八郷(やごう)です。
久米桜酒造はまさにここの土地ありきの話である、ということは、実際に足を運んで痛感することになるのでした。
■現地の様子、雰囲気
今回は終始、杜氏である三輪さんにエスコートしていただきました。
まずは直売所、兼、キッチンスペースにて、お酒造りにかける想いをうかがいました。
以下、その語録を、話の流れは順不同、ごく最小限の濾過でお届けします。
(似たような話題は集約しましたが)
情報量が多いため、太字の部分だけ読めばおおよそわかるようしています。
・酒質設計はしない。どれだけ醸造しないか。基本的に、日本酒という意識、くくりにとらわれない。
・酵母、特に協会酵母は基本使わない。あれはフレグランスつかっているようなもの。
・この2年半くらいで全量生酛造りとなった。お燗か常温でいきる酒ではある。
・酸度でいうと14近くになる。鳥取県の一般でも2-3程度。協会からは腐造扱いのような言われ方をする。
・「その人の本質」のようなお酒を。どんな服を着るか、ではない。その為人を知るような向き合い方をにあるものを。
・大山Gビールはメジャーなスタイル。誰が飲んでも美味しい、をジャッジしてあるナチュラルカーボネーションビール(※)。(※人工的に炭酸を加えず、発酵中に生まれた自然な炭酸のこと)他のビールではほかの炭酸ガスをほとんどいたりする。
・日本は「考えなくていい」というのがある種の文化としてある。ビールでいえば爽快感、リフレッシュのイメージ。それは否定はしない。
・地酒です、といっても、お米をどこかで買ったりすれば結局一緒。使っているのが同じ素材なら、地酒というのはそれはもはや「場所」を示すものでしかない。いまの日本酒は考えなくていい、均一化されている工業品が多い。
・「酔う」という言葉はつかわない。日常に、生きる営みに、どう「ゆらぐ」か。
・「味の向こう側」をどれだけ伝えられるか。向こう側とは、作り手、土地、思い。そこに決まったレールはない。向こう側にあるものは、自分たちではどうにもできない部分もある。
・お酒の向こう側がみえたら悪く言えない、その人を否定することになる。見えてこないのから、目の前の酒だけで評価してしまう。
・最近は造り方として山廃を使っていることも多くなったが、微生物相手のリスクを把握してないのではないか。
・例えば、ランビックというビールは酸っぱい。酸っぱいもの“しかできない”。自然と向き合った結果、できたものがお酒である。
・いわばリフレッシュとリラックスの違い。例えばサウナはリフレッシュ。僕らのお酒はリラックス。それぞれの楽しみに、それぞれのコンテンツを使えばいい。
・業界では、うち(久米桜)はいわばインディーズバンド。一つの店で演歌やロックまで扱うのと、皆がジャズ一つを聴くそのテンションであわせるものの違い。(ライブ感、アドリブでやる)ジャズミュージシャンに向かって、演奏プランや選曲をきくのだろうか?インディーズは的向け感、余韻、抜け感が大事。
・水は軟水で硬度27。優しく柔らかい。150m地下から汲み上げたもの。鉄分があり、やや色あり、酸味がたつ。
・お酒造りに米の違いは正直興味ない、カレーの具みたい(に同じようなもの)。ただし水の違いは変わる。
・陰の日本酒、陽の日本酒がある。はっきりしないようなお酒が、病んだり失恋したりする人に刺さることもある。心地いい「状況」との合わせ方がある。
・(蔵としては)設備よりも場所に金かけちゃってる。設備にお金かけてしまった方がいい酒を作れるはず(笑)
・欧米では、心地よく豊かな時間との感覚をあわせる、共有する、に価値をおいている。確かに料理の技術や食材だけでいえば日本は世界一かもしれないけれど。ワインから日本酒に入った人は、ワイン的な、海外の考え方を当てはめられるのが久米桜しかない、と言われることもある。同時に、味わいの酸耐性がある人が多い。
・日本酒を飲んで日本酒の話をするのはつまらない。オタクっぽい。
・半径3kmの田んぼのお米が9割。
・火山灰の島では土が黒い。雨風にさらされるから。しかし同じように火山灰の島でもハワイは赤。それは日照が強いから。
・・・、とこのあたりまでお話しして、それでは、と蔵の見学へ。
そうです、まだ見学は始まってません。
お米を洗う場所から、タンクのある場所へ抜けていきます。
協会酵母は強く、アンプル一本使えば、その後その部屋でお酒造りをすれば酵母を追加で入れなくても、勝手に酒になってしまうとのこと。
対して、野生酵母ではそんなに簡単にはいかない。
通常だと5%くらいしかアルコール度数がいかない。それはそれだけ自然で発酵するということは難しいということです。
かつ、温度は15度くらいはないと働かない。結果として、冷蔵庫内に“あんか”を入れて温めている、というなかなか見られない光景が広がっていました。
こちらで、少しだけ、山田錦と強力のお米違いで醪の味をみさせていただきました!
その強烈な酸味と、奥にある甘味は、レモン牛乳のような感じでした。山田錦というお米が比較的溶けるからこそ。
もう一つ、鳥取県特有の酒米「強力」を使った方は、カマンベールチーズ感。これもまた好きです。
なお、作業場の中では、セットリストが組まれた音楽・ロックが流しながらやっているとのこと。
続いて酒母室へ。
二箇所あり、写真に写っているのは40年前からある部屋です
前述の通り、過去には協会酵母を使ってたため、ここで作業すると、その残存した酵母により、どうやったってお酒になってしまうとのこと。
何本か酒作ると酵母の優先量が変わり、蔵付き酵母の種類が変わっていきます。狙った酵母を蔵に蓄えるような作業を、酵母誘導というそうです。
なお、空調を使い、温度の調整もしません。そもそも空調がついていません。
お次は麹室へ
室内は約30度、湿度が低めになっています。
DIY の道具、青い布は水を通さないのに蒸れない「防水透湿」の機能をもっているゴアテックスです。
実際に作業をしているところも見させていただきました。
さて、最初の場所に戻り、実際にお酒をいただきます。
実は蔵そのものは160年近くの歴史があります。
三輪さんは元々は神奈川県出身、子供服の会社の経営者で東京の中目黒にいたそう。そして服のデザインなどもやっていた多彩な方。
個性的なラベルにはそれぞれ意味を込めてあります。ちなみに、ラベルはエクセルで作成しています。
そして試飲の間も、たくさんの語録が生まれました。
以下、見学中や見学後の語録。
・うちは(オーガニックで有名な酒蔵T)と(これまたオーガニックで有名な酒蔵N)の間あたり。(N)を飲む人はうちは飲まない。でも(T)を飲む人は飲む。
・コイン精米で、くず米なども全部使用。米の出来が悪いというのも、それも個性。より野生味を伝えるために農薬添加剤なども使わない。
・酒造りしている人は「そこに生きる」ことをしていない
・こだわりとして、自然な味とは言わず、野生味があると表現している。
・野生味はありあわせから生まれる。レヴィ=ストロースのブリコラージュという言葉がある。いわば冷蔵庫でありあわせの、あまりもので作る料理が久米桜。
・外しができる人は人間味がある。
・酒造りは自然。自然な中で、不自然なことをすることこそが、不自然。季節の中で自然で作ろうとすると、ときには身の丈にあわない作業になってしまう。
・お酒を飲むという体験、寄り添い、時間の過ごし方を大事にする。
・ペアリングどうこうという話があるが、同じレベルの「思い」があるものなら、合わないわけがない。
・その人にあう酒を出すのが最高のサービス。お酒を薄めるかどうかでさえ、その時の気分の寄り添い次第。
■飲んだお酒リスト
単純な味わいとしては、かなり酸味がきいていて、甘さはほぼほぼなく、淡い旨味が広がるテイストです。
ですが、ここでは、お酒の味にフォーカスをあててあれこれ分析してても意味がないのです。
これらの話を聞き、蔵の空気や雰囲気を肌で感じたことの共有。その価値観の共有が何よりも大事でした。
そこにある久米桜は、どうやったって美味しいのです。
■終わりに
一言で言えば、久米桜という哲学です。
いわば温故知新といいましょうか、これでいいじゃん、それでいいじゃん、の究極形をみました。
文字だけで見てもわからない部分も多いと思います。そして、湾曲して伝わってしまうような部分もあるでしょう。
しかしながらこればかりは、現地に行かないと正直わかりません。写真や文字のようなフィルターを通してしまってはここの蔵の素晴らしさは絶対に通じません。
今の世の中は、何かが違うことで誰かから批判されたくない、という考え方から、無難・画一化してしまっている。久米桜酒造では紛れも無い自分自身やそれを取り巻く自然と向き合うことで、そんな価値観へ真正面からメッセージを投げているように思えました。
日本酒は、飲料・生産物という工業的目線、味わい科学的な側面、酒蔵というビジネス形式が意識されがちです。
久米桜の場合は、表現の一つの形が結果的に、現実世界では日本酒という括りになっているものだった、ということであって、さながら日本酒であって日本酒に在らず。久米桜というまさに嗜好品。アーティストとその作品のような、個人の感性と思想で徹底されたその姿には、本当に感銘を受けました。
最後に、三輪さんが話していて気に入ったフレーズを。
「山陰のお酒は甘さはいらない。枯れた感じがよく似合う。」
ではでは。
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