酒蔵見学レポート:鳥取県 大谷酒造株式会社
自身の企画がいろいろな事情で発展し、結果として鳥取県の4つの酒蔵を巡るツアーとなりました。
そのうちのひとつ、大谷酒造酒造へ見学へ行ってきました。
今回はその様子をレポートします。
※今回のツアーでまわったその他の3蔵の記事は以下から!
育みは地域と共に「上代」
揺らいで見るは酒の“向こう側”「久米桜酒造」
次世代へと受け継がれる酒造りと新たな試み「千代むすび酒造」
■イベント概要
代表銘柄は「鷹勇」。
お恥ずかしながら、人よりは多く日本酒を飲んでいる身でいても一度も飲んだことがありませんでした。
それでいて、鳥取県内ではかなりの出荷量を誇る蔵だとのこと。
まだまだ修行が足りない身であることを痛感いたします。だからこそ日本酒って面白いのですが。
■現地の様子、雰囲気
吹雪に近いような天候の中の訪問になりました。
案内していただけるのは、杜氏の中元さんと、社員の加藤さんです・
まず原料処理のスペースから。
この米袋は手作業で運び、かつ、人力でかつぎあげるそう!それにしても、なんとも絶妙なバランスで立っています。
大谷酒造では全量自家製米を実施。
精米器は2台のうちの1つを使用しています。
精米歩合はおおよそ決まっており、
普通酒:75%
純米:70%
純米吟醸:50%
大吟醸:35%
だそうです。普通酒と純米吟醸は結構削るんですね。
なお、蔵で使用する一升瓶はすべてリユース品です。
会議室のようなところでまずは酒造りの全体の流れを映像で見させていただきました。
明治5年創業で、2024年時点で151年目
だいぶスタッフが代替わりし、20代が2名、30代が2名と若いメンバーも入っています。
中元さんは杜氏としては5年目、入社歴は6年目で最も長いそう。
スタッフは全員酒造技能士を取得されているとのことで、酒造りの知識・技術の担保がなされています。
余談ですが、経験がものをいう世界だと、やはり年齢で評価されてしまったりするのでしょうか。「若いから造りのことなんて知らないだろう」というような。奇しくも、自分自身も、日本酒の資格を取っていることを言うと「若いのに詳しいんだね」みたいに言われることもあります。資格持ち・肩書きに弱い人もいるのも事実です。
さて、話を戻しまして。
地元琴浦町内の契約農家さんとのお米も使用しています。
お米を洗ったり蒸したりする場所へ。
仕込みが終わりに差し掛かる頃でしたので、すごく“作業中でどたばた”というわけではなさそうでしたが、それでも仕事中ですので、邪魔にならないように回っていきます。
階段や足場が急だったり狭かったりしてなかなかスリリング。
小ロットをまわして造るようになり、甑は1つで事足りているそうです。
続いて麹室へ。
この日の朝に作業をし明日また切り返す作業の麹が鎮座しておられます。
温度計で温度管理をしますが、Wi-Fiを使ってスマホで温度がわかるようになっていました。麹室でWi-Fi、という言葉の響きにちょっとした面白み。
麹造りにあたっては、和歌山県の紀土を醸す平和酒造さんの杜氏さんのノウハウが生かされているとのことでした。木箱ではなくタライでやる部分などですね。
今季は米が硬いため、麹を丁寧にきっちり作るように心がけたとのこと。
次は酒母室へ。
泡あり酵母を使われており、ぶくぶくとした泡を払う作業を見学させていただきました。こんなに泡がでているとは。目の前でかさが減っていくとかなりわかりやすい。
温度が高いと活性化し元気に発酵しますが、酵母があたかもフルマラソンのような状態になり、体力がつきてしまうと雑味になってしまいます。温度管理が重要なことがよくわかります。
タンクの上を覗かせてもらいます。
モーツァルトが流れてる空間は微生物に気持ちよく働いてはたらいてもらいたいという愛ゆえに。
冷やしたり、追い水でアルコール度数を調整して発酵をフォローしていきます。
なお、生酛は数年に一回しか作らないようでした。逆に言えば、リリースされた時は結構なレア物かもしれません。
続いて搾りを行う場所へ。薮田を使用しています。
冬場だけ無濾過生原酒を出しているそうで、しぼりたての、まだ色味がかかっているものも見せていただけました。そしてそこからはフレッシュで力強い香りも立ち込めています。
酒粕を押し固めたものが大量にありました。今年はやはりお米が溶けず、粕歩合は高めです。
綺麗に成型されているものと、断片を集めたいわゆる「切り落とし」とで分かれていました。
天井がややピンク色になっているのは、ふきつけた断熱材がそのまま見えているためとのこと。
また、社内の作業の様子確認やコロナ禍で直接見学できないときに備えてつけたカメラもありますが、あまりうまくいかなかったそう。トライアンドエラー、大事ですね。
一通り見終わった後は会議室に戻り、試飲です。
試飲をしながらも、いろいろと話も弾みます。
大谷酒造の特徴の一つが、大山にあるミズナラの葉から抽出した「ラカンセア酵母」を使用しているお酒があること。
鳥取大学の教授が地元で見つけたもので、その特徴はアルコール発酵の際に乳酸を共に出すこと。その結果として独特な味わいになるそうです。
ラカンセア酵母を使ったものは、詰めるボトルも香水をモチーフにしたものにし、同じ鷹勇でもイメージを変えています。
そのほかでは、
・鷹勇、と言う名前は、初代が愛鳥家で酒蔵のある地域に鷹が舞っており、優雅な姿にあやかってつけた。
・生産量は現在は480石ほどで、ピーク時には1000石ほど。
・販路としては県内半分、県外半分。
・仕込み水の硬度は4。
・鷹勇では、
あらばしり→あらばしり
なかどり→なかだれ
せめ→なごり
と言っており、せめ、ではなくなごり、というのは、言葉のイメージから優しく言い換えたもの
いいですね、なごり、というセンス。
せめ、より柔らかい感じがします。
なお、この3種の割合は何対何対何か、という踏み込んだ質問をしてみましたが、さすがに企業秘密でした。そりゃそうだ。
■飲んだお酒リスト
もちろんすべて鷹勇です。
ラカンセア酵母、面白いです。花酵母ともまたちょっとニュアンス。
また、純米吟醸の辛口三兄弟は、同じ「辛い」でも少しずつ方向性が違ってこれまた面白い。
飲食店さんとかで使いやすそうですね。
■終わりに
地域に定着している伝統的な部分と、ラカンセア酵母を使った新たに挑戦とのバランスがとれている印象でした。
機材も配備、投資もされ、人員も世代交代しているようですから、これからどのように発展していくのかが楽しみです。
なお、蔵見学は要予約で受け付けており、多ければ20人くらいでも対応可能とのこと。
お近くに来た方は、ぜひ!
ではでは。
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