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俳優のための台本の読み方講座

こないだリモートでやった台本の読み方講座を、ノートにも共有しておきます。
俳優の人、もしくは俳優を目指している人には、参考になると思います。
このやり方は、絶対ではありません。
人それぞれ、いろんなやり方があっていいです。

まずは第一段階。

伝えたいことがあるから、脚本家は作品を書くわけです。
それはテーマなどと呼ばれることもあります。
お客さんと、演劇や映画など作品を共有することで、心を動かしたいと思うから、創作活動をしています。
伝えたいことをキャッチしたら、それをメモしてみましょう。
例えば、
『心を閉ざしていた人が、心を開いて、一歩前に進み出すこと』
とか、
『家族を失い傷ついていた人が、家族を取り戻す』
など、簡潔に一行でメモすることが大事です。

次に脚本を読みながら、脚本に縦線を引きます。
構成を理解するために参考になります。
大きく変化するところが、ポイントになります。
登場人物の出入りも、ポイントです。

ビートというワードを使うのは日本にはそれに相当する言葉が思い当たらないからです。
僕はこのビートという考え方は、アメリカ人の俳優が言っているのを聞いて、それはいいなと思ったので、使わせてもらうことにしました。
音楽では、ビートという言葉は普通に使われていましたよね。
リズムとビートは違います。
ここで使うビートは、『変化ポイント』がある場所ということです。
感情が変化しているところ。
動き(アクション)が変化しているところ。
台本を読んでいて、ここで変化しているなと感じたら、そこにスラッシュを入れます。

台本は、つまりテキストです。
もちろん大事。
さらに大事なのは、このサブテキストなんでね。
本当の気持ちは何なのってことです。
夏目漱石が、『アイラブユー』を、『月が綺麗ですね』と訳したのはサブテキストを表現したということです。
これをどうするかで、台本の解釈は大きく変わります。

俳優の仕事は、登場人物を舞台上に立体化することです。
台本に書かれている登場人物を、俳優は自分の肉体を使って表現しなければなりません。
そのためには、まずその人物をイメージしなければなりません。
そのための作業として、何をすべきかを書いてます。

ここには大事な項目を5つ書いてますが、このリストはもっと増やしてもいいです。
脚本家は、もっとたくさんリスト化してます。
キャラクターシートとか呼んだりします。
これを作ることで、頭の中に人物をイメージしやすくなるからです。

このリストで、もっとも大事なのは、精神的な弱点と、目的の部分です。
精神的な弱点を設定することで、その人物は物語の中でどう変化するのかが、わかりやすくなります。
物語が始まるときには、弱点だったものが、物語の終わりではそれが変化しているというのが、脚本家が一番気を使うところなんです。
それは成長という言葉で置き換えられます。
人物が成長(変化)することを描くのが、ドラマです。

近い目的と、遠い目的というのは、ちょっと違います。
例えば、『恋人が欲しい』というのが、近い目的だとします。
その人物の遠い目的は『幸せな人生を送りたい』だったりします。

こんなふうに、目的には人物の潜在意識と深く関わってきます。
その人物が、どう生きているのかということです。

例えば、以下のようなことです。

テキスト上では、AさんとBさんが、修学旅行の計画を話しているというシーンがあったとします。

A「京都ではグループ行動になりますね」
B「グループを作らなきゃならないね」
A「行きたいところ別に分ければいいよね」
B「そうだね。そうしよう」

この四つのセリフの中で、AとBの目的をどう設定するかで、二人の感情や動きは全く変わってきます。

Aの目的は、Bと違うグループになりたい。
Bの目的は、Aと付き合いたい。

というふうに設定すれば、感情のサブテキストがどう変わるのかを想像してください。

または、

Aの目的は、Bと付き合いたい。
Bの目的は、Aと離れ隊。

そう設定すれば、全く違うものになってきますよね。

こんなふうに目的の設定しだいで、シーンは全く違ったものになってくるというわけです。

物語に登場する人物を理解するために、まず物語の主人公はどんな人なのかを知りましょう。

主人公って、観客に感情移入してもらわなきゃならない人です。
脚本家は、そういうふうに作ります。

感情移入の前の段階で、共感というのもあります。
共感があれば、感情移入もしやすくなります。

人は、『困る』という体験をほとんどの人がしています。
だから困っている人には、すごく共感しやすいのです。

脚本家は、こういう手口使ってます。
登場人物に観客を共感させるためには、ドジをやらせたり、困らせたりします。

その手口を知っていると、台本を読み解く参考になるわけです。

そして『決断する』というのは、主人公の成長をはっきりと見せます。
そして『行動する』ことで、観客は主人公を応援したくなるわけです。

俳優さんは、主役やることよりも、脇役をやることが多いです。
むしろほとんどの俳優は脇役をキャスティングされます。

主人公ではない役をやるということになるわけです。

しかしそこにこそ大きな意味があります。

脚本家は、台本の全ての部分に意味をこめています。

サッカーに例えるならば、シュートを決めて得点するフォワードに、どうしても注目が集まりますが、そこに至るまでボールをつないだ他の選手が大事です。
それらの選手がいるから、得点をあげられるわけです。

だからこそ脇役にキャスティングされたときも、俳優は自分の役がどういう目的を持ってそのシーンに登場しているのかを考えなければならないのです。

ここから先は実際の稽古に入ってからのことになります。
本読みというのは、だいたい舞台や映像の現場で、最初に行われる稽古です。

本読みで、気づくことも多々あります。

脚本家は、ここではじめて他人の実際の声でセリフを耳にするわけです。
そして気付かされることが、色々あります。
触発されるということもあります。

俳優と脚本家は、最大の協力関係を持たねばなりません
本読みは、その一歩目です。

俳優の生理として、セリフを声に出すことで、自分の心が動くことがあります。
いや、むしろ心が動かないのは、大きな問題です。

本来は心が動くから、セリフが出てくるのが、人間の生理です。
しかし俳優は、先にセリフが台本という形で用意されています。
だからこそ、このセリフが、どういうふうに心が動いて出てくるものなんかということを理解しておかなければならないのです。

嘘の演技と言われるものがあります。
嘘の演技と、本当の演技とはどう違うのか。
それは、そこに本当の感情があるのかどうかということだと思います。

感情は、生まれてくるものです。

用意されたセリフを、ただそれらしく読むのではなく、その瞬間にそこで生まれたものとして言うことができるのが、いい俳優ということです。

みなさん、いい俳優になってくださいね。

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