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『クトゥルフ神話TRPG』キーパーの友達がマーシャルアーツに蹴り殺された

(※9月13日 追記しました)

クトゥルフ神話TRPGの魅力に虜にされたユーザーの中には、オリジナルシナリオを作成して遊んでいる人もいるだろう。ボクたちも例に漏れず、「オチはニョグタが出てきて…」「ここでバケモノに追いかけられる展開になったら怖そう」とそれぞれが面白いと思うシナリオを作り、プレイ会を開いていた。

しかし、それらのシナリオぶち壊すプレイヤーがいた。タニオカが使うマーシャルアーツの使い手「二刀斎」だ。二刀斎て。侍感のかけらもない。丸腰にもほどがある。

ボクたちプレイヤーはある日、「呪いのビデオ」を見てしまう。その影響で、街はボクたちを殺そうとする食屍鬼で溢れかえることに。
恐る恐る路地を歩いていると、突如あらわれた食屍鬼が追いかけてくる。ボクたちは「あああああ!!!」と叫び声をあげるしかなかった。

そこへやってきた、マーシャルアーツの達人・二刀斎(技能99)。タニオカが嬉しそうにサイコロを振ったかと思うと、二刀斎が食屍鬼に蹴りを浴びせる。えぐいほどのダメージボーナスが乗り、食屍鬼の腹に足型の穴が空く。目の前でバケモノが無残な姿と化したことに、ボクたちは「あああああ!!!」と叫び声をあげるしかなかった。

当時、ボクたちはオフラインでの内輪プレイしかしておらず、ハウスルールというか誤った解釈でゲームを遊んでいた。その中で、マーシャルアーツという技能は、成功するとそのままパンチやキックが命中するようになり、加えてなぜかダメージボーナスも乗るという解釈だった。つまり、技能99のマーシャルアーツの達人である二刀斎は、「必中&えぐいダメージボーナス」を繰り出す最強のバーサーカーだった。(その後、全員で正しいルールを確認して、全員でタニオカにリアルマーシャルアーツを決めました)

その後も、街では大量の食屍鬼があらわれる。そのたびに、二刀斎はすべて蹴り殺していく。2、3人は当たり前のこと、5、6人があらわれても回転蹴りでグループ攻撃をはじめる。グリンガムのムチのようにしなやかに伸びた脚が、食屍鬼の儚い命を奪っていく。

「俺、大人食屍鬼になったら探索者を怖がらせるんだ」
立派な食屍鬼になることを夢見て上京した彼らの思いを粉々に砕いていく。

これじゃあもう、どっちが敵か分からない。少なくとも目の前にいる二刀斎は、食屍鬼を一撃で蹴り殺してしまうキラーマシーンだ。いや、ブルドーザーだ。強い味方がいるのは頼もしいが、こんなにも強い味方は誰も望んでいない。ボクたちは「ひとり三國無双」をやっている二刀斎を見て、後ろから「いけいけー!」と応援する役に成り果てている。もはや友達じゃない。ただの野次馬だ。格闘ゲームの背景にいるアイツたちだ。
二刀斎の蹴りによって、ひとり、またひとりと壁にめり込んでいく食屍鬼。壁めり込ませ代行業者と化した二刀斎。写真術がすごいボク。翌日の新聞に「壁にめり込む食屍鬼たち。お手柄マーシャルアーツ少年」という見出しで記事を書くことしか頭になかった。

食屍鬼たちの思いを引き継いだキーパーの友達も、なんとか二刀斎を潰そうとバーゲンセールのように食屍鬼を登場させる。しかし、二刀斎が両手を地面についてその場で回転を始めると、もう終わりだ。

「食屍鬼は……死にました」
バケモノと化した二刀斎を見て、ついにキーパーはシナリオメモが書かれてあるパソコンを閉じて、すべてを諦めた。完全なる敗北宣言だ。友達の心がマーシャルアーツによって蹴り殺された瞬間だった。「もう、お前の好きにしなさい」と言わんばかりのその態度は、「俺、東京に行ってミュージシャンになりたい!」と説得してきた息子の熱意に根負けした父親のそれだった。

夢見るミュージシャンの息子をもつ、町工場を経営する父親に変わり果てた友達。それを見てボクたちは、二度と同じ悲劇を繰り返してはいけないと誓った。ついに、マーシャルアーツ禁止令が施行されたのだった。

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