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ともかたんと呼ぶ利用者

前の職場では
私はともかさんと呼ばれていた。
同じ名字の人が他にいたからだ。

時には先生と呼ばれていた。

 
思えば私は
小さい頃からずっと
同じ名字の人がいたから
下の名前で基本的に呼ばれていた。

名字より下の名前の方が好きだから嬉しかった。

大学時代は
家庭教師や塾講のバイトをしていたから
先生とも呼ばれていた。

 
転職をして
私は驚いた。

同じ名字の人がいないのである。

だから私は
今の職場では、真咲さん、と呼ばれている。

こう呼ばれるのは久しぶりだった。

 
前の職場の未練がある私は
真咲さん、と呼ばれて嬉しかった。

前の職場の“ともかさん”と
今の職場の“真咲さん”は
まるで別人のように感じたのだ。

 
だけどある日
利用者が急に何故か
私を“ともかたん”と呼んだ。

本当は、ともかさん、と呼んでいるが
滑舌が悪く
ともかたん、と聞こえるのだ。

 
人の名前を覚えることが苦手なのに
誰もここで私の下の名前を話題にしないのに
何故か知らないけれど
満面の笑みで“ともかたん”と呼んだ。

 
その瞬間グワッと
前の職場のみんなの顔や景色が浮かんで
私は涙が込み上げた。

 
 
今の職場の人は誰も
私がかつてともかさんと呼ばれていたことは知らない。

私がどんな風に前の職場で過ごしていたかも。

 
私は下の名前で呼ばれる方が多いし
下の名前で呼ばれる方が性に合っているが
今の職場で下の名前を呼ばれるのは
なんだか、切ない。




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