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半年前とは違うポスティング作業

以前、私は利用者Aさんと他の利用者と初めての地域にポスティング作業に行ったわけだが
その時のことはなかなかに印象的だった。

 
Aさんは基本的に単独行動で歩くスピードが速く
グループ行動ができないから
勝手にあちこち配り
それに対して何か言おうものならヘソを曲げた。
他の利用者はペースが遅く
どうしても距離は縮まらない。

 
挙げ句に待ち合わせ場所にはいず
「真咲さんは約束の場所にいない!」と怒ったAさんは
勝手に歩いて施設に戻ってしまった。

 
ようやくポスティング作業を終えた後
約束場所にいない時に私は焦って探したわけだが
他の同僚から、既に施設に戻っていると聞いた。
本人は「なんであそこにいないんだよ!待っていたのに!」と逆ギレだ。
しかも、Aさんが言っている待ち合わせ場所と私が言った待ち合わせ場所は違う場所で
私は頭を抱えた。

 
初めてそこを配る私とは反対に
Aさんはその場所をもう一年以上配っているほど
地理が詳しかったからだ。

 
 
その時から約半年が経ち
再び私はあの場所をAさんらと配ることになった。

 
Aさんは自分のバッグに入る分のチラシしか配らない(基本はグループで分け合い、配るエリアが終わるまでみんなで行う)。

 
だが
出発前に「このバッグは嫌だ!」と、ごねるわ
「こんなにいらねぇ!」と、チラシを勝手にバッグから出す始末だ。

 
「待ち合わせ場所は〇〇ね!必ず待っててね!真咲さんは絶対に行くからね!」

私は念押しで言った。

 
だが、Aさんは煙たがる。

 
ハァ、と行く前からため息をつきたくなる。

 
Aさんは言えば言うほど
ヘソを曲げるし
そんな時ほど
気持ちとは逆のことを言いがちな天の邪鬼だ。

 
先行きが不安だったが
驚いたことに
半年前とは全くちがかった。

 
Aさんは色々と言ってきたが
その割に
配ったら小まめに私の元へ様子を見に来た。

 
しかも、私のバッグに入っていたチラシ(Aさんがバッグから出したチラシ)を
「よこせよ。」と言って勝手にとり
なんやかんやで結局配っていた。

 
ポスティング後
「あそこで待ってるわ。」と口にし
約束の場所でちゃんと待っていた時
私は感極まって泣きそうだった。

 
以前、前施設長が言っていた。

「Aさんは思春期の男子みたいな性格だから、付き合いの長い私とはじゃれあったりできるけど
新人の真咲さんはなかなか打ち解けるまで時間はかかるかもしれない。

だけど、時間が経てばきっと真咲さんとも関係が築けると思う。

悪気はないのよ。悪態吐いた後にいつも、「言い過ぎた…。」って気にしているんだから。」

 
あれから半年が経ち
Aさんはあの時よりも私を信頼したり、慕ってくれているのだろうか。

もしそうなら、嬉しい。

 
同僚の話によると
やはり入職したての頃はAさんがいなくなってしまうことがあったそうだ。
また、今一緒にポスティング作業をやっても
自分のバッグの中身が終わっても他のチラシを配ることは見たことがない、と話した。

 
確かに他の地域をAさんと配った時
いなくなりこそしなかったが
わざわざチラシを追加でもらいにはこなかった。

 
そういった話を聞くと
一歩前進できたようで嬉しい。

 
 
無事ポスティング作業が終わり
車を発進させた。

 
右折しようとした時
車が猛スピードで通り
私は慌ててブレーキを踏んだ。

危ないなぁ、もう…

 
そう思ったら、Aさんが言った。

「真咲さん、ボーッとしてんじゃねぇよ。」

「してないって!飛ばしてきたから止まったの!」

「赤信号で飛び出しちゃ…ダメだぜ。」

「赤信号じゃないよ!信号ないでしょーが。信号ない道は左右確認して通っていいの!」

「まったく、真咲さんはボーッとしてるんだからな。」

 
なんだか分からないが
私はボーッとしていて赤信号を無視して走った設定になっていた。おいおい。

 
Aさんは気を許した人じゃないと雑談はなかなかしない。

だからこんなやりとりができるのも 
一歩前進だと思いたい。

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