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私のメガネ人生

「そんなに本ばかり読んでいると目が悪くなるよ。」と親から言われ
「そんなにゲームばかりやると目が悪くなるよ。」とも親から言われ
親の忠告通り、私の目は順調に悪くなっていった。

 
人生の先輩であり、身内である父はメガネをかけていて
姉も既にメガネデビューをしていた。
私は二人の後を追うようにメガネデビューとなる。小学校三年生の時、視力検査で引っ掛かったのだ。

 
 
初めてのメガネは3万円だった。
3万円である。
親と一緒に何かを買いに行った時、こんな高い買い物は初めてだった。
1000円札でさえ大金だったあの頃、万札を複数枚出す親を見ておののいた。

 
私はメガネを手に入れた。おそるおそる触った。
なんせ高い。壊したら大変だ。
身近な物でランドセルの次に高級品だ。
まだ本格的にメガネが必要な時期ではなかったので
メガネ様は授業の時のみ使用した。
メガネをかけた姿を見られるのが恥ずかしくて
最初にかける時は躊躇した。
でもせっかく買ってもらったのだし、使わないと勿体ないし、申し訳ない。

 
最初はおそるおそる使っていたメガネ様だが
次第に授業中に使うことは恥じらいも何も感じなくなり
周りにとっても私がメガネをかけている姿は当たり前になった。
慣れである。
ランドセルだって慣れに従い、慌てていると雑に置いたりするようになる。
高級品だろうと、日常生活で使う身近な物だと
人は段々と扱いに慣れていく。

 
 
メガネをかけているからといって、目がよくなるわけではない。
私は相も変わらず読書やゲームを好み
目もどんどん悪くなっていった。

 
中学校の入学を機に、私は常にメガネをかけて生活するようになった。
地味な私のチャームポイントがメガネになった瞬間である。
視力悪化に伴い、二代目のメガネを購入した。
レンズの厚みがあるものは格好悪く、極薄レンズにしたわけだが
メガネは5万円である。

5万円だ。

私はひっくり返るかと思った。
どんどん高くなっていく。
 
 
中学校になると、メガネはなくてはならないものになり
私はメガネへの扱いが変わる。
定期的にシュッシュッとスプレーを吹きかけ
クロスでキュッキュッと拭いた。
メガネ用の小型ドライバーも携帯していた。
なんだか出来る女みたいで格好いいと勘違いしていたのだ。
勘違いは若さの強みであり、過ちになる場合もある。

  

 
高校に入ると、周りでチラホラコンタクトデビューの人が出てきた。
あんな訳分からんものを眼球に入れるなんて恐ろしい。みんなマゾじゃないか。
私はメガネを愛していた。
確かにメガネは異性ウケがすこぶる悪い。
メガネをかけているとまずモテない。
アニメのヒロインでメガネっ娘なんてまずいない。
レイアースというアニメで
風ちゃんがメガネをかけていたり
ちびまる子ちゃんの親友のたまちゃんが
メガネをかけているくらいだろう。
セーラームーンなんて、あれだけ女性が出てくるのに、誰一人メガネをかけちゃいない。
かけているのは海野くらい。

 
メガネをかけているのはオタク。
ブスで暗くて地味な女。
恋愛対象外な女。

 
当時は時代として、そんな印象は非常に強かった。

 
 
  
周りではどんどんコンタクトデビューを果たしていき
私もみんなに遅れて、大学入学前に、ついにコンタクトデビューを果たす。

かわいくなりたかった。
モテたかった。

動悸は至って不純だった。

 
 
コンタクト屋では、ハードとソフトタイプがあると説明を受けた。
言われてみれば、「ハードでも♪ソフトでも♪」とコンタクトのCMでやっていた気がする。
それぞれのメリットとデメリットを聞き
ズボラな私は手入れを怠りそうで怖かったので
使い捨てのソフトタイプにした。
ソフトタイプの方が目に優しいと聞いたのも一因である。

 
しかし、入れ方を聞いたものの、初回はなかなか入らなかった。
怖い。やはり怖い。異物を自ら眼球に入れる。怖い。
鏡を見ながらも手がプルプル震える。
両目にコンタクトを入れるまでに30分かかったような気がする。
コンタクトを入れるのも怖いが、取り出しがまた怖い。
ようやく入れたコンタクトを取り出すのがまた
すこぶる時間がかかった。

 
 
 
それでも練習の成果があり、私は大学デビューに合わせてコンタクト生活が始まった。
寝坊した時などはメガネだったが、基本的にはコンタクト生活だった。
だが、コンタクトの評判はあまりよくなかった。
私は顔が地味なのだ。
よく言えば、メガネが似合う顔だった。

「ともかちゃんは、メガネの方が似合う。」

小中高時代の友人だけでなく、大学時代の友人にすら言われた。
なんということだろう。
髪を茶に染めても「黒髪の方が似合う。」と言われ
メイクをしても「顔が変わらない。」と言われ
大学デビューをしたはずが
私は努力をした甲斐がまるでなかった。

 
 
そんな中、私が20歳の頃、異変が起きた。

蛍光灯が眩しくて、視界が真っ白になり、涙が止まらない。

特定の場所に行くと、そういった症状が毎日見られた。
就活どころてはない。
何が悲しくて、私は食品を一定時間経ったら廃棄する話を聞きながら号泣しなきゃいかんのだ。
すごく食べ物を大切にするエコ人間のようだが
偏食と少食でご飯を完食できないのが私だぞ。

いかん。
これは非常に、まずい。

  

 

私は眼科に行った。
医師からはコンタクト使用による、ドライアイの悪化だと言われた。 
そして、コンタクト使用禁止令が出た。

 
確かに私はコンタクト使用をした頃から、目薬を30分~1時間置きくらいにしていた。
周りと比べたら、目薬の頻度は高いとは思っていたが
体質というか目質に合っていなかったのだろう。

 
コンタクト使用をやめたら、涙はアッサリ止まった。
今でもごく稀に同じ症状が出ることがあるが、年に一回短時間位の頻度で
それほどまでに私はコンタクトが合っていなかったのだろう。

 
 
そうして私はコンタクトデビューしてわずか二年で、メガネ主体の人生に戻った。
私の周りにはメガネ女子の友達も何人かいたし
なんといってもメガネは目に優しい。
目への負担を考えると、これでよかったのだと思った。
コンタクトウケがよかったわけでもないし、自己満足だったのだ。

 
 
また、時代は変わり、お洒落メガネが流行りだしたのがこの頃だ。
今までの常識を覆すようなカラフルなメガネやスタイリッシュなメガネが続々発売され
度なしのメガネをお洒落でつける若者も急増した。

そんなバカな!?

時代は逆転した。
メガネがダサい時代から、メガネはシャレオツな時代に突入した。

 
 
ちょうどその頃知り合った友達から、「ともかちゃんは本当にメガネがよく似合う。」と絶賛された。
自分もメガネをかけたいが、目が良いし
お洒落メガネは自分には全然似合わないし
ナチュラルにメガネが似合う顔立ちが羨ましいと
私は力説された。

時代は変わったのだと思った。

恋愛においても、付き合った人はメガネフェチであったり
私のメガネ姿とメガネなし姿のギャップがいいと
メガネは必ずしも不利にならなかった。

 
メガネをかけていてよかった。
いや、世界がメガネ人に優しい世界になってよかった。

 
私がそう痛感したのは、メガネデビューして10年以上経ってからである。

 
 
メガネは顔の印象がかなり変わる。
私はメガネを購入する時は様々なお店を覗き、片っ端からメガネを試着する。
お洒落メガネが流行した頃、黒縁メガネが大流行して私も買おうとしたが

目が大きい人は黒縁メガネが似合い
目が小さい人は茶縁メガネが似合う。

と言われ
私は茶縁のメガネばかり試しにかけた。
確かに黒縁メガネは私に似合わず
茶縁メガネは我ながらよく似合っていた。

 
 
お洒落メガネが流行りだした頃、メガネの価格はどんどん下がり
今では薄型レンズに加工しても一万円以内でメガネが買える時代になった。

大学の頃は、通常用とカジュアル用のメガネ二種類を持っていたが
社会人になり、私はもう一つメガネを購入した。
家用、仕事用、プライベート用で使い分け
予備のメガネは必ずバッグに入れた。

 
昔はメガネは一つしか持っていなかった。
高かったし、それが当たり前だった。
だが、体育の時、バスケットボールが顔面に当たった私はその場でメガネが壊れ
どうしようもない状態になった。

 
 
 
大学は遠方だし、車を運転する機会がある私は
大人になり、予備のメガネがない生活が怖くなった。
メガネにも寿命がある。
ある日いきなり、衝撃もなく、ポロッと壊れてしまうこともあるのだ。
  
 
職場ではメガネの職員として認識され
調子に乗った私は
メガネモチーフの服を着たり、エプロンをつけた。
利用者ウケや保護者ウケがよかった。
メガネはトレードマークだ。

ある日、某利用者から「メガネを外したともかさんが見たい。」と言われ
「地味な顔だぞ~!ビックリするなよ~!それっ!」とメガネを外したら

「あ………幸薄そうな顔ですね。」

  
と率直なコメントをもらった。
これだからメガネは外すものじゃない。

 
 
 
「レーシック手術は興味ないんですか?」
そう人生で何度か言われたことがある。
私が大学生の頃に流行りだしたレーシック手術。

一泊二日20万円くらいで
視力がメガネをかけなくてもいいくらいに回復するらしい手術。

確かに周りにレーシック手術をした人はいた。
レーシック手術を絶賛もしていた。
だが、私の周りでは少数派だった。

 
 
今は、成功率が高い。
今は、後遺症が出ていない。
だけど、何十年先はどうなのだろう。

メガネ人生を送ってきた人達は同じようなことを言った。
リスクが高い。
まだ新しい技術だ。
まして眼球だ。
自ら望んだ手術で、もし失明でもしたらたまったものじゃない。

「そもそもレーシック手術が安全なら、なんで眼科医はメガネのままなの?それこそが答えじゃない?」

 
そう言われたことがある。もっともな話だ。
メガネ屋さんが販売目的で伊達メガネをかけることはまだ分かる。
だが、眼科医は、本当にレーシック手術が便利なら、やはり手を出すのではなかろうか。
リスクがあるから手を出さない。
多分、そういうことなのだろう。

 
そもそも大人になり、メガネ人生を歩んでいる人は、コンタクトにも消極的だ。

異物を目に入れるくらいならメガネでいい。

そういった方が多い。
私のようにドクターストップではなく、全くコンタクトレンズをしたことがない人も一定数いた。

 
 
恐らく、レーシック手術に興味がある人はすでにコンタクトレンズをしているし
コンタクトレンズで十分と割り切っている人もいるだろう。
 
 
それは人それぞれだ。

 
 
 
お洒落メガネが流行したように、その後、お洒落コンタクトレンズが流行した。カラコンである。
私が高校時代の頃はビジュアル系の一部の人が使用しているくらいだったが
今では若い女性がカラコンをつけることが珍しくなくなっている。
お洒落コンタクトレンズは進化を遂げ、縁有りやら黒目を大きくするものやら
種類は多岐に渡り
私は度肝を抜かすばかりだ。

 
私は目が悪くなかったら、絶対にコンタクトレンズなんか目に入れたくないし
例えドクターストップにならなくても、遅かれ早かれメガネ人生に戻っただろう。
だが
かわいいを探求し、視力が悪くなくても
好んでコンタクトレンズを入れる人も世の中にはいるもんなんだな。

人生色々である。

 
 
私はこれからもメガネと共に生きていくだろう。
メガネはもはや私の顔の一部であり
なくてはならない存在なのである。

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