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CBC⑮「対人緊張と父親への殺意」

※注意
この投稿にはDV(家庭内暴力)のシーンが登場します。苦手な方はここでおやめください。他のケースからもカウンセリングは学べますので!

コーチがするカウンセリングの続きです。

自分の中にいる「小野田さん」に出会いにいって、何をしたら良いのでしょうか?

・もう戦争は終わっていると知ってもらうこと
・だから怖がったり、頑張らなくていとわかってもらうこと
・現在に戻ってきてもらって、今ここから一緒に生きること

それは迎えにいく私たちにとっても、生き直しの体験となります

あるセミナーでの公開カウンセリングでの出来事です。

出てきてくれた男性は20代後半。教育系の仕事をしている、明るく真面目なナイスガイです。

僕「さぁ、今日はどんな話をしましょうか」
彼「えっと。。。僕は、案外緊張するタイプで。。。」
僕「そうなんだ(笑)よくわかってなかったよ!」
彼「はい。。。。で、特に、年上の男性の前だと、緊張することが多くて。。。」
僕「あはははは。。。それで良く僕の前に来てくれたね!!」
彼「あはは。。。。ホントウですね(笑)」

僕はカウンセリングをするときに大切にしていることがあります。

それがユーモアや笑いです。

ともすれば重苦しくなりがちなカウンセリングにおいて、クスッとでも笑えること。。。

一緒に笑えたら、仲良く協力してセッションを進めることができる(協働関係)

笑えている瞬間、クライアントは問題から少し離れている(脱同一化)

『人生をクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇』

これは喜劇王チャップリンの言葉ですが

少しでも問題から離れたところから自分を見てもらいたい。あなたの中には、大変な状況を笑える強さや余裕をもっている自分だっているのだから

僕はそう伝えたいのです。

セッションは続きます。

僕「特に年上の男性ね。。。。。なにがあるんだろうね。。。。。」
彼「。。。。。。。。。。。。」
僕「何か思い当たることありますか?」
彼「。。。。。父のことだと思います」

突然、彼の声のトーンが下がりました。目の前にいるのは、いつもの彼ではありません。

問題の真っ只中に立ちすくんでいるような彼。そんな彼が突然出てきました。だから僕は、親しみを込めながらも、初めて出会う人に話しかけるように、丁寧に言葉を発します

僕「お父さんのこと。。。。。どういうことでしょう。。。」
彼「今はそうでもないんですが、父は昔暴力が酷くて、母も僕も、いつか殺されるんじゃないか。そう思ってました。」
僕「。。。。。。。」
彼「だから。。。。未だに、父のことも怖いし。。。。それが関係しているのかも知れません」

ここにも「小野田さん」がいました。

そして、ここはセッションの分岐点です

進むのか?
戻るのか?

別に小野田さんを迎えに行くだけが選択肢ではありません

CO「なるほど!そんなことが関係しているのかも知れないんですね。ところで、現在、あなたが緊張して困るシチュエーション。こんなときに緊張せずにいられたら。。というシチュエーションを教えてもらっていいですか?」
CL「うーん。まずは会社の先輩にもっと気軽に相談できるようになったらいいですね」

などに戻して、そのために何ができるかをコーチング的に考えるのもありです。

僕らはこのやり方を『あえて表面にとどまる』と読んでいます。

なんでもかんでも過去に遡ったり、心の深い部分に切り込んでいかなくてもいいんです。

あえて表面にとどまる

現実に起こっている事象にだけ着目し、自らの行動によって変化をつくる方法を検討する。

むしろそれが良かったりもするんです。過去に何があったとしても大丈夫。今の心の状態がどうでも大丈夫。目の前の出来事に対して、自分に出来る行動をとっていく。そのことでちゃんと人生が変わっていく。それを体験できたら自信が持てます。

しかも心の世界ではなく、現実の世界に取り組むアプローチなので、ちゃんと現実が変化する。(心の世界に取り組むだけだと現実が変わらないことがあります)

そして何よりも、安全にセッションを進めることができます。

だからどちらのアプローチでも良いし、第一の選択肢は「表面にとどまる」ことだと思います。

けれど、このとき僕の中に、迷いはありませんでした。

小野田さんを迎えに行こう。

彼が目の前の課題を解決できたとしても、お父さんとのことまでは変わらなそう。せっかく僕に相談してくれたのだから、お父さんとのことも含めて、できる限り整理してみよう。彼は、その覚悟でいるのではないか?そう思いました。

僕「そっか、お父さんとの間でそんなことがあったんだね。どうだろう?一緒にここで、その過去に決着をつけますか?」

彼は答えません。

自分の内側に向き合っています。

僕「どちらでもいいです。緊張問題だけ扱うのもいいし、過去の出来事に決着をつけるのもいい。何が良いと思いますか?」
彼「。。。。。父とのことを。。。お願いします」

彼の肚は決まりました。

僕「わかりました!!このセッションが終わったときに、どうなっていたら素晴らしいですか??」
彼「父のことが怖くなくなっていたら。。。今は僕の方が強いと思いますが、それでもまだ怯えている自分がいるので」
僕「分かりました。。。そうだね。ここから、あなたの人生を生きようね!」

セッションの最後がどうなったら良いかをきくのは役に立ちます。コーチもそこを目指して関われば良いから、フォーカスが定まりシンプルになります。

さて、これから戻る彼の過去は文字通りの戦場です。安全に救出作戦をやりきるために、一度深呼吸をして僕自身も、もう一段階集中スイッチを入れました。

僕「よし。では、やろう。いまから子どもの頃の出来事にもどります」
彼「。。。。。はい」
僕「あなたが本当に苦しかった時。そこに戻って、その過去に決着をつけましょう」
彼「。。。。。(無言で頷く)」

僕「では教えてください。あなたが本当に苦しかった時。それは何歳くらいのときかな?」
彼「。。。。5歳か6歳。。。。幼稚園の頃です」
僕「オーケー。ちょっと辛いかもしれないけど。。。。どんなシーンを思い出す?」
彼「。。。。おかあさんが殴られてる。。血が出て。。。やめて!。。。って。。。。その日は特にひどくて。。。」

彼の呼吸が少し早くなっています。心拍数も上がっているように見えます

僕「。。そっか。。。。ゆっくりと。。呼吸をしながら。。。。」
彼「。。。。。。。(ゆっくりと呼吸)」
僕「そう。。。。そのときあなたは。。。どうしてたのかな」
彼「怖くて。。。怖くて。。。。隣の部屋に隠れて。。。。でも。。。声が。。。。情けない。。。。でも怖い。。。。」
僕「。。。ゆっくり。。。。呼吸をしながら。。。。そう。。。。怖い。。。。そして。。。情けない?」
彼「。。。。おかあさん。。。ごめんなさい。。。。助けてあげられない。。。」
僕「あぁぁ。。。」
彼「。。。。。。」

彼の目からは涙がこぼれます。恐怖と悲しみの入り混じった表情をしています。僕からも、深いため息、もしくはうめき声とでもいうべきものが漏れ出ました。

大きな悲しみが空間を支配しています。

僕「。。悲しい。。。。助けてあげられない。。。助けてあげたいのに。。。。他にもありますか。。。。その時の気持ち。。。。」
彼「。。。。。。。。。」

何か躊躇している感じ。。。。クライアントは自らの気持ちに蓋をしようとしている。そう感じました。。。。だから

僕「教えて。。。その気持ち。。。」
彼「。。。。。。。。。。。ころす」
僕「。。。。お父さんのこと。。。。」
彼「。。。いつか。。。あいつをころして。。。。おかあさんを幸せにする。。。。だから。。。ごめんなさい。。。。いまはなにもできない。。。」

何人もの子どもがいるようです

・こわいよ!と逃げる子ども
・お母さんにゴメンねという子ども
・お父さんをころすという子ども

僕「。。。。そっか。。。怖がってる自分。。。。お母さんゴメンねっていってる自分。。。お父さんをころす、って自分。。。。他にもいるかな。。。。」

彼は再び、自分の中に潜っていきます。

彼「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
僕「。。。。。。。。」
彼「。。。あ。。あとは、これを人に知られてはいけないって自分です」
僕「どういうこと?」
彼「幼稚園で家のことをきかれても、絶対に何も言わない。お父さんのことも、お母さんのことも、自分が考えてることも。バレたら大変だから」

僕「ふぅーーーーー。」

僕はあえて聞こえるくらいの音で息を吐きました。これは半分は自分のため、あと半分はクライアントにもしっかり息をしてもらい、ここで小ブレイクをとるためです。

それを感じたのか、彼も少し深い呼吸をしてくれました。

僕「そうやって、守ってきたんだね。。。。つらい話だろうに、ありのまま話してくれてありがとう」
彼「。。。話せました」

過去のトラウマ的な体験を話してもらうときには注意が必要です。話しながら再び恐怖を感じてパニックになったりすると、トラウマの上塗り体験になりかねません。僕は彼が、感情に飲み込まれずに記憶を処理できるように、慎重に観察を続けています。

僕「では、一度おおきく伸びをして!!!!!あああああ!!」
彼「あああああ!」
僕「どう?まだ僕に対して緊張してる(笑)?」
彼「あははは。だいじゅさんにはしたことありませんよ」
僕「あははは。僕が子どもっぽいからかな。面倒みてやらないと、みたいな」
彼「いやぁ。。。そんなんじゃないですけど(笑)」

笑いあえる関係って大切です。特にいまは戦場にきているわけだから。

僕「では、少し離れたあのあたり。。。あの辺が、過去のその頃だとして。。。。あそこに椅子をおいて、このときの状態を表現してみよう。。。お父さん。。。お母さん。。。。怖がっているあなた。。。。お母さんゴメンねっていっているあなた。。。。。ころすって言ってる子。。。。そして絶対知られてはいけないって子。。。。ゆっくりでいいから。6つの椅子で表現してみよう」

タイムラインを意識しながら、過去の場所に、椅子を使って、その頃の状態を可視化するのです。

ゆっくりと自分の内側を探索しながら、彼は椅子を置いています。お父さん、お母さん。隠れる自分。謝る自分。。。。。ころすと決意する子。。。。隠そうとする子。。。

僕は思うのです。

もしこの時、彼の家にコーチがいたら。

逃げたり固まったりしている子どもをぎゅっと抱きしめて守ってあげるだろう。「大丈夫。ぜったい守ってあげる。。。大丈夫。。。」

お母さんゴメンねということに「君は何も悪くない。お母さんのことも助けてあげるから、大丈夫だから待ってて」というだろう。

ころしたいという子にも、秘密にしたいという子にも、かけたい言葉がある。

お母さんに対してかけたい言葉もある。お父さんに対してかけたい言葉もある。

でも、この時この場所にはコーチがいなかった。だから、彼の中に生まれた「小野田さんたち」はこの時から、ずっと戦争を続けてきた。

椅子がいい具合に配置できたのを見計らって僕は声をかけました

僕「さて。。。誰から迎えに行こうか?」
彼「むかえ?ですか」
僕「そう。お迎えにいくんだよ。。可哀想でしょ?ここにずっといるのは」
彼「。。。。。そうですね」
僕「だからね。今から一人一人、順番に迎えに行く」
彼「はい」
僕「一番、迎えにいきやすい子から行ってみよう。。。。だから教えて、どの子が一番話しやすい?」
彼「。。。。。怖がっている自分かな」
僕「いーねー。なんて声かけてあげると良さそう」
彼「。。。。。うーん。。。こわいよね。。。かな」
僕「たしかに!そうだよね!きっとこわいもんね。。。。こわいよって、この子が言ったら、なんて声かけたいたい?」
彼「うーん。。。。無理するな。。。かな」
僕「いーね!無理する代わりにどうしてほしいの?」
彼「うーん。。。。リラックスは無理だから。。。。。。。」
僕「だから。。。。」
彼「。。。そうか。。。こわがってていいよ。。。怖いもんね。。。。終わるまで隠れてていいよ。。。。」
僕「いーね。。。。一緒にいてあげるよ。。。」
彼「そう。。。守ってあげる。。。。一緒にいてあげる。。。」
僕「なんならお父さんより強いし、ね」
彼「あはは。はい。そうですね。でも僕は暴力は使わず。。。。守ってあげます」

コーチングはコーチとクライアントで作り上げるものだと僕は思ってます。相手のアイディアは引き出せるだけ引き出すけど、僕もアイディアを出してみる。そうやって二人でつくりあげていくのです。あくまで主体はクライアントだとしても

僕「じゃあ行こう。大人になったあなたが、子どもの自分を助けにいくよ。まずは怖がってる子から」

彼は真剣な表情で、怖がっている自分の椅子の前まで行って言いました

彼「もう大丈夫だよ。。。僕がきたから。。。。怖いよね。。。。大丈夫。。。。守ってあげるよ。。。。怖がってていい。。。。怖いもんね。。。。今は大丈夫。。。泣いてて大丈夫だよ。。。。いつか君も誰かを守れるようになるから。。。」

大火の中に飛び込んで、子どもを抱えて出てくる消防士のように見えました。この子を安心させよう、自己否定をさせないようにしよう、と関わってました。だから

僕「いーよー。。。その子の安心度合いを感じて。。。。もっと安心できるように。。。。泣きながらも。。。大丈夫だ。。。と思ってもらえるように。。。しっかり抱きしめて。。。」
彼「だいじょうぶ。。。。。怖かったね。。。。。ぜったい守ってあげるよ。。。。」

言いながら彼は泣いています。

いまの自分の言葉に安心する昔の自分。そのことを感じながら泣いているのです。僕はそのまま、その椅子を抱えて、現在の場所まで戻ってくるようにお願いしました。

僕「一人助けられたね」
彼「はい」
僕「すごいよ。本当にすごいね」
彼「ありがとうございます」
僕「じゃあ。次。行こうか」
彼「はい」
僕「誰に行く」
彼「。。。。。。。お母さんごめんなさいかな」
僕「うん。行こう。では、お母さんにごめんなさいって言ってる自分の椅子に行こう」

彼は移動します。

そしてその子をみます。自分だって怖いのに、お母さんにごめんねって言っている自分。

僕「すごい子だね」
彼「。。。。。。。」
僕「さぁ。大人になったあなたは何ていってあげたい?」
彼「謝らなくていいよ」
僕「どうして」
彼「君の責任じゃないから」
僕「ほんとだね。。。。その子は何て言いそう?」
彼「。。。。納得してない」
僕「どういうこと」
彼「。。。。お母さんを助けたがってる」
僕「そっか。。。。どうしようね。。。。どうしてあげたい」
彼「これはお母さんの課題だから、と言ってあげたい」

アドラー心理学でいう課題の分離です。このクライアントはアドラー心理学を学んでいるので、こういった言葉が出たのかもしれません。

これはお父さんとお母さんの課題であって、子どもには無関係ですよね。子どもが責任を感じて謝るようなものではないのです。

僕「では、言ってあげて」
彼「これはお母さんの課題だから。。。君には関係ない」
僕「その子はなんて言いそう」
彼「うーん。納得しなそう」
僕「どうして?」
彼「僕は何もお母さんの力になれてない。。。悲しい。。。そんな感じかも知れない」

このままだと難しそうなので次の手を打ちました

僕「オーケー。では、お母さんの椅子に座ってみよう」
彼「。。。。。。はい」
僕「お母さん。。。。。大変な中ですけど、お子さんの声をきいてください」
彼(母)「。。。。はい」
僕「お母さん。息子さんは、ごめんなさいと言ってます。助けられなくて。。。。幼稚園生なのに。。。。。。そして力になれていないと。。。お母さんの。。。。なんて言ってあげたいですか。。。。」
彼(母)「。。。。そんなことないよ。。。。力になってくれてるよ」
僕「お母さん。。。。いや、僕は力になれてない。。。。お母さんごめんなさい。。。と言ってます。。。どうやって力になってくれてるか、教えてあげて」
彼(母)「。。。。。お誕生にカードくれたでしょ。一生懸命書いてくれた。。。お母さん本当に嬉しかった。。。ごめんね、不安な思いさせて。。。。でもお母さん、なんとかするから。。。。だからごめんなさいなんて言わないで。。。あなたのせいじゃないから。。。。」
僕「お母さん!お母さんにとって、息子さんはどんな存在ですか?」
彼(母)「。。。。。一番大切な存在で。。。。希望です。。。だから絶対、このままにしない。。。」
僕「お母さん。ありがとうございます。。。。。では、立ち上がって、自分の椅子に座ってみよう」

彼は、ごめんなさいと謝っている自分の椅子に座りました。

僕「お母さんの言葉をきいて。。。。これはあなたの問題じゃない。お母さんがなんとかするから。。。。。そして。。。。誕生日カード嬉しかった。。。。お前が一番大切で、私の希望。。。。だから。。。ごめんなんて言わないで。。。。お母さんは勇気づけられてる。。。。」
彼(ごめんなさい)「。。。。。。。。」
僕「どんな気持ち」
彼(ごめんなさい)「。。。。。お母さんの気持ちを受け止めたい」
僕「。。。どういうことだろう?」
彼「お母さんが、そういうなら。。。。また手紙書いたりしたい。。。」
僕「。。。。そっか。。。。では立ち上がって。。。その子の椅子も現在までつれて帰ろう」

さぁ、あと二人です。

僕は彼と一緒に「隠そうとする自分」の椅子に近づいていきました。そして、彼にその椅子に座ってもらいます

僕「ねぇ。。。どうしておじさんには、秘密を話してくれたの?」
彼(隠そう)「。。。。信頼できそうだったから」
僕「ありがとう。。。。君はすごいな」
彼(隠そう)「。。。。。」
僕「君は冷静で、人の気持ちを考えていて、何が本当に大切かを考えながら、ベストなタイミングを狙ってる。。。。。違うかな」
彼(隠そう)「。。。。。」
僕「お母さんのために、何がベストか考えてる。おとうさんをころそう、って自分のことも、その自分がつぶされないように、隠している」
彼(隠そう)「。。。。はい。。。」
僕「君のおかげで、どうなったかな」
彼(隠そう)「。。。。。」
僕「ころそうと思っていた自分が誰かに潰されることはなかった」
彼(隠そう)「。。。。はい」
僕「お母さんも救われた。息子が犯罪者にならなくて。。。」
彼(隠そう)「。。。。。」
僕「お父さんは生きてるけど。。。でももう暴力は振るわない」
彼(隠そう)「。。。。。。」
僕「おつかれさま。。。。君が待てと言ってくれたおかげで、これ以上誰も傷付かなかった」
彼(隠そう)「。。。。。。(涙)」
僕「。。。。。そして、次の未来にすすむためのベストなタイミングで。。。。君は、僕に相談しようと決断してくれた。。。。。」
彼(隠そう)「。。。。。。(涙)」
僕「ありがとう。。。。。あとは◯◯くん(クライアントの名前)がおじさんと頑張るからね」
彼(隠そう)「。。。。。。(涙)。。。はい」
僕「たちあがって。。。。改めて、大人のあなたは、この子になんて言ってあげたい」
彼「ありがとう。。。本当に。。。すごいよ」
僕「この子は嘘つきじゃない。みんなを守るために一生懸命だった。。。違う?」
彼「。。。。はい」

そして残ったのが「お父さんをころすと決めている子」です。

僕「さぁ、最後の子のところに行こうか」
彼「。。。。。」
僕「どうしたの?」
彼「。。。。なんて声かけていいか。。。」
僕「そうだね。。。。。。もう少し、あの子の近くに行って。。。。彼を感じながら、言葉が出てくるのを待ってみよう」

クライアントの気持ちもわかります。暴力が嫌で嫌で、さけて生きてきたはずの自分。でもその自分の中には、お母さんのためとはいえ、お父さんをころしたいと思っている自分がいた。。。。

一番受け入れ難い自分。。。

それでも彼は、子どもの自分の椅子に近づいていきます。椅子の近くに屈んで、声をかけようとする彼。。。。でも。。。。声が出ない。。。。。

僕「ゆっくりでいいよ。。。。この子の悲しみを感じて。。。。。この子の怒りの。。。。その奥にある。。。。感情。。。。。想いを。。。。」

長い沈黙。。。。彼は何度か言葉を出そうとしては、躊躇していました。
目の前の子どもに、響く言葉を探しては、捨て。探しては捨てる。。。

そして、その時がきました。決意の呼吸の後。。。。彼は言いました。

彼「いいよ!ころそうと思ってもいいよ!!!!」

大きな声。覚悟と確信に満ちた声でした。

彼「それでいいんだよ!!!!。。。。だって。。。。だって。。。。一番大切な人を守るためには。。。。。一番強い感情を使うしかなかったんだもんな」

なんという受け止め方!!!!なんという愛情!!!!なんと
いう勇気!!!!

そしてなんと美しい表現だろう。。。。

僕はこの言葉を一生忘れないと思います。

「それでいいんだよ。一番大切な人を守るために、一番強い感情を使うしかなかったんだもんな」

全ての感情には、肯定的な目的がある。。。。そのことを深く痛感しました。

こうして4人の小野田さんたちを彼は無事救出しました。そして、僕は最後に、彼にお父さんの椅子の後ろに立ってもらいました。

僕「このときお父さんはいくつかな」

まだ若かったお父さん。若かったから許してやれという話ではありませんが、私たちは未熟なまま親になってしまうことがある。。。。子どもからしたら親は大きな存在だけど、親の視点からしたら自分は完璧でもなんでもない。まだまだ、もがいている存在だったりする。

若かったお父さんの肩に手をおいて、その苦しみ、悲しみに思いを馳せました。

僕「彼がしたことは許されることではない」
彼「。。。。。。」
僕「でも。。。だからこそ。。。。言ってみてほしい。。。お父さんに向けて」
彼「。。。。はい」
僕「。。。。。なんかあったんでしょ。。。。。」
彼「(涙)」
僕「本当のところはわからないけど。。。。でも。。。。なんかあったんでしょ。。。。。だから。。。ダメだよ、殴ったら。。。。もっと苦しくなるんだから。。。。僕でよかったら。。。話きくよ。。。。。。父さん。。。。俺も。。大人に。。なったから。。。。。」
彼「(涙)。。。。。」
僕「こんなふうに言ってくれる大人がいればね。。。。お父さんの周りに。。。。」
彼「。。。はい」
僕「なんていってあげたい」
彼「。。。。。話きくよ。。。。お父さんもきっと、つらいことがあったんだよね。。。」

僕は別に、親子だから必ず仲良くせねばならない、とは思っていません。むしろ距離をとった方がいいケースもある。。。

ただこのケースは、お父さんはもう暴力を振るっていない。だから、もし彼が許すなら、お父さんに彼とやり直すチャンスがあってもいいのかな。そう思うのです。

お父さんのことを理解しようとしてみて、それでもダメなら、そのときにまたお父さんとどうするか考えれば良いのではないか。。。そんなふうに思っていました。

僕「では。。。。伸びをして。。。。ここまで振り返ろう。。。。今の気持ちは」
彼「落ち着いてます。。。。まだ嵐の後みたいだけど。。。でも気持ちは凪いでます」
僕「お父さんが怖くなくなるとよい。と言っていましたが。。。今はどう?」
彼「。。怖くないです」
僕「怖くなくて、どんな感じ」
彼「さみしそう」
僕「そっか。。。確かに。。。そうかもしれないね。。。。」
彼「。。。。。はい」
僕「僕のことは?怖くなくなった?(笑)」
彼「あはは。だいじゅさんは怖くありませんよ!」
僕「よかった。どうだろう。。。。年上の男の人への緊張感はいまどうなったかな。。。」
彼「。。。。。。なんだろう。。。。みんな一生懸命なだけというか。。。。相手も。。。僕も。。。」

すごいな。。。相手が怖く思えたとしても、それは相手が一生懸命なだけ。。。緊張している自分も一生懸命なだけ。。。。。

この日は①セルフケアのためにやると良さそうなこと②このセッションで分かったことの整理 を宿題にして終わりました。

そして、何かあったらすぐに連絡するように、と伝えて終わりました。過去の封印していた思い出にアクセスすると、無意識が記憶を再処理するために、他の記憶がフラッシュバックしたり、感情がアップダウンしたりすることもあるのです。だからそんな可能性も伝えた上で、遠慮なく連絡してねと言いました。

この話にも後日談があります。

しばらく経って、彼と再会したときのことです

彼「だいじゅさん。。。。あれから実家に帰った時。。。居間の前を通ったときに、ちらっと見えた父の背中が寂しそうで、思わず声をかけました。。。『なにしてるの?』って」
僕「そっか。。。で、どうなったの」
彼「父はボソボソと答えて。。。で、ぼくなぜか『たまには飲まない』って言えて。。。。」
僕「。。。。。。」
彼「はじめて、サシで飲みました。。。普通に話ができました。。。父のことを怖いと思う気持ちは、もうありませんでした。。。ありがとうございました」

コーチングをしているとクライアントの勇気に驚くことばかりです。

啐啄の機

ひなが卵からかえるとき『啐=ひな鳥は内側から出ようとする』と『啄=母鳥は外側から卵を割ろうとする』が同時に行われる

その瞬間を啐啄の機というそうです。

僕は外からつついた、彼は中から出ようとした
彼は外からつついた、父は中から出ようとした

こんなセッションをしていると、人生にはタイミングというものもあるのだな、と思います。

続く

















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