コーチングのゴールと『12の物語』①
今回から新しいシリーズをスタートします。
テーマは『コーチングのゴール』
コーチングは、基本的に「ゴールを明確にしてから実現方法を考える」という思考法ですが、たくさんのコーチが『コーチングのゴール』を意識しないままコーチングをしているという実態があります。
こんなことを言うと「コーチングはクライアントの中にある答えを引き出していくプロセスなのだから、コーチがゴールを決められるものではない」というような意見をくれるコーチもいるのですが、果たしてそれで良いのでしょうか?
少なくとも
・本人が納得のいく答えを引き出せている
とか
・本人が行動したくなっている
とか
・本人がスッキリしている
とか
・自己一致している
などなど何か目指している方向があるのではないかと思います。
もし、方向がないのならそもそも構造を用意しないはずです。構造というのは、どの順番で何をするかということです。
例えばGROWモデルは構造です。
GOAL
REALITY
OPTIONS
WILL
の順番で質問するわけです。この順番で話を進めていくのは、最後に得たい結論があるからではないでしょうか。
反対に傾聴には短期的なゴールがありません。本当に傾聴をしているときは、クライアントに洞察してもらいたいという意図などないわけです。もちろん自己一致してもらいたくて傾聴するわけですが、別に「このセッションで自己一致してもらう」ことをゴールにして傾聴するわけではないのです。
あなたが質問をするということは意図があるはずです。何かのゴールに向かって質問をしているはずです。
そのゴールとはなんなのか?それを明確にしてもらいたい。そんな気持ちでいくつかの話をしていきたいと思っています
コーチングのゴールは
「クライアントが指針とエネルギーを得ている状態」をゴールとして置いてみたらどうだろう。
というのが、僕の最初のおすすめです。
もう少しそれぞれを具体化すると
指針「◯◯のために××をする!が具体化されていること」
エネルギー「やりたい!やれる!感じていること」
シンプルに言えば、
具体的に何から始めるか決まっていて、それを実行するエネルギーがある
ということでも良いと思います。
例えばこのようにゴールを決めておけば、セッションが残り5分になったときに、残り時間で
・より行動を具体的にするために何ができるか?
・よりエネルギーを高めるために何ができるか?
を考えてクライアントに関わっていけばいい。ということになるわけです。ぜひゴールを決めて、そこにむかってコーチングの時間を使っていくという発想で、コーチングを見直してみてください
もちろん、コーチが設定してはいけないゴールもあるはずです
・クライアントに奥さんと別れさせよう
・クライアントに学校に行くと言わせよう
などは、設定してはいけないゴールの一例ですね。
これはクライアントが決めることであり、コーチが結論を決めて誘導するようなことではありません。
でも
・クライアントに本当の気持ちに気づいてもらう
・クライアントに主体的な選択をしてもらう
などは、コーチが意図して関わってもよいゴールだと思います
他にはどんなゴールがあるか?
僕自身多くのコーチングカウンセリングのケースと関わってきましたし、先生や先輩のケースを見せてもらったり、後輩や生徒のケースの相談もたくさん受けてきました。
今回紹介する『12の物語』は、そんな膨大なケースから抽出された、コーチングの結末集です。
どんなゴールに辿り着いたとき、クライアントが気持ちよく現実に取り組み始めるか?
何に気づいたときに、クライアントは、新しく価値ある行動を始めるのか?
その答えを12種類にまとめたのが『12の物語』なのです。
コーチングでどんな物語が作られた時に、クライアントの人生が変わり始めるのか?
コーチングカウンセリングの仕事はクライアントと新しい世界観をつくることですから、こんな問いかけを持つことは僕たちコーチにとっては大切なことだと思います。
では、実際にその答え(の一部分)とも言える『12の物語』を見ていきましょう
人生の主人公として生きる12の物語
トップバッターは
①私を人生の主人公として扱ってくれる人がいる!
です。これはコーチングカウンセリングの内容とは別に、あなたの態度やクライアントへの関わり方が生み出す物語です。
あなたはどれくらい、相手(クライアント)のことを人生の主人公だと思っているでしょうか?
相手が人生の主人公だとしたら、もっとどんなふうに話をきくのでしょうか?
相手が人生の主人公だとしたら、どんなメッセージを相手に伝えるでしょうか?
有名なリッツ・カールトンホテルのモットーですが、彼らは顧客のことを「紳士淑女」だとみているわけです。だから相手が何を言っているか、やっているかに関わらず、「紳士淑女」であるという前提で彼らに接するのです。だから、顧客は「紳士淑女」になっていくわけです。
アドラー心理学も同じです。
相手のことを「自分の責任を引き受けて生きることができる人」とみなして関わるのです。「責任を引き受けられない、かわいそうな人」とみて助けてあげるような関わり方はしないわけです。
クライアントは、自分で決めて自分の人生を生きることができる人である。クライアントは自分で気づいて、自分で変えられる人である。クライアントは周りによい影響を与えることができる人である。
私たちはそのようにクライアントのことを見て、人生の主人公に対する関わりをし続けるのです。
あなたが知っている中で、最も尊敬できて人生の主人公だと思う相手は誰でしょうか?
その人に対する関わりと、クライアントに対する関わりは、何が同じで何が違うでしょうか?
ぜひチェックしてみてください。
そしてもう一度リッツ・カールトンのモットーに戻りましょう。後半部分に「私たちもまた紳士淑女です」とありますね。
私たちコーチもまた「人生の主人公」なのではないでしょうか?あなたは自分自身のことを本当の意味で、人生の主人公として扱っているでしょうか?
自分にスケーリングクエスチョンしてみてください。
私は10点満点で何点くらい、自分のことを人生の主人公として扱っているだろうか?
この答えが10点に近づくためには、普段の言動のどこがどう変わっていくと良いのでしょうか?ぜひ書き出してみて、新しい行動をとってみてください。
このような自分自身の扱い方、相手への関わり方が、あなたと時間を過ごすクライアントに影響するのです。
そして、コーチングで話した内容を超えて、
「私の人生を生きてもいいのかもしれない。だって、明らかにコーチはそう信じて、私と関わってくれている」
という感覚をクライアントにもたらすのです。
残念ながら、多くのクライアントは、
・こんなの無理
・自分にはできない
・やっても無駄
・できてせいぜいこの程度
・周りの要求に応えねばならない
・◯◯するしかない
などの考えをなんらか持っているものです。生きていれば思い通りにならないことはたくさんありますし、諦めが生じてきてしまうこともあると思います。
そこをひっくり返して、クライアントに新しい人生への第一歩を踏み出してもらうのは、あなたの信念とそれに基づいた関わりなのです。
そのための最初のゴールが
「自分のことを人生の主人公として扱ってくれる人がいる」
そのことに気づいてもらうことなのです。
19世紀のイギリスにグラッドストンという政治家がいました。彼と付き合っていた女性が彼を評して「彼って最高なの。彼と話していると、彼って本当に世界一の存在だと思う」と言ったという話があります。
この女性はその後、ディズレーリという政治家と付き合ったそうですが、その時には「彼って最高なの。彼と話していると、私って本当に世界一の存在だと思う」と言ったというのです。
僕たちコーチは、どちらかと言うと、クライアントにとって、ディズレーリのような存在でありたいのです。
そしてあなたの関わりは時代を超えて、クライアントの人生に影響し続けます。「あのとき自分を信じてくれたコーチの気持ちに応えるために頑張ろう」そんなふうに思い続けてくれるのです。
コーチを長年やっていると、
「10年まえにだいじゅさんがかけてくれた一言が、支えでここまでやってこれました!」
みたいな、本当に嬉しい報告を受けることが多々あります。人生は山あり谷ありですが、そんな人生を歩み続けることを支えてくれるのは、自分のことを心から信じてくれる人の存在なのではないか。僕はそう思っています。
ということで、いつでもクライアントのことを人生の主人公だと思って関わるということはどういうことなのかを探求したいわけです。
②私は自分なりによくやってきた!成長できる!
クライアントに持って帰ってもらいたい物語(世界観)の2つめは自己受容の物語です。
クライアントと話しているときに、クライアントが自分に厳しく、自分を認めていない場合は、コーチングの一つのゴールとして自己受容をおくことがあります
否定的認知の三徴とよばれるものがあります。
・自分自身に対して否定的になる
・人々に対して否定的になる
・将来に対して否定的になる
これらの認知を持つと鬱状態になりやすい。というものです。
考えてみれば当然ですね。私たちは
・自分自身を生きていくしかない
・人々と生きていくしかない
・将来を生きていくしかない
であるのに、これらを否定的に捉えたら生きにくくなるわけです。
特に自分です。自分から離れて生きることはできませんから、自分を否定していては辛いままです。
私たちには親友が必要なのです。
「あなたはよくやってきた。私はそう思うよ」
「お前はすごいよ。誰がなんと言おうと俺はそう思う」
そんなことを心の底から言ってくれる人がいたら、私たちは報われます。
まだ結果が出ていなくても、人と比べて優れていないように見えても、同じ過ちを繰り返しているような時でも
自分を労ってほしいのです
おつかれさまでした。頑張ったね。よくやったよ。まずは体を休めよう。あったかいものでも飲もう。
そんなふうに言ってあげてほしいのです。
人生には答えがありません。何が本当の目的で、何がもっとも優れた手段か、なんて本当は誰にもわかりません。
誰も人生のマニュアルをもって生まれてきていないのです。ましてや変化のスピードがかつてなく速い世界に生きているのが私たちです。持って生まれたものも全員違うのです。
うまくできなくても当たり前。そんな中で、奮闘しているのが私たちなのです。
自分の中に親友を育てましょう。自分のことを本当に大切に思い、自分に温かい声がけができる存在を自分の内側に育てるのです。
別の例を見てみましょう
「誓います!」こんな風に言ってくれる存在が自分の中にいたら。。。どれだけ励まされ、どれだけ勇気をもって生きていけることができるでしょうか
自己受容は、「私はよくできてる!私は素晴らしい!」でなくてもいいのです。
よくやってるよ。それでいいんだよ。僕は離れていかないよ。ここにあなたの居場所があるよ。大丈夫だよ。
そんなふうに自分に接する態度なのです。だから
自分なりにやってきた。よくやってきた。。。。
それで良いわけです。こういうふうにクライアントに感じてもらいたい。そのために何ができるのか。ぜひ私たちコーチはそう考えたいものですね。
そして私たちは「成長できる!」
今がどうであれ、これまでがどうであれ。私たちは自分の人生を自分が望むものに向けて、変えていくことができる存在なのです。
そのことを認め、受け入れて、人生を生きること。
それが自分なのだとクライアントに気づいてもらうこと。そのために何ができるかを考えていきたいのです。
自己受容を目指したセッションが例えばどのようなものかは、以下の記事を参考にしてみてください
ただし、これらのやり方が正しいという話ではなく、あくまでもクライアントの置かれた状況に合わせた一つのやり方にすぎません。
クライアントが自分を受容できている状態とはどんな状態だろう。そのために一緒に何ができるだろう。ぜひそれを考えてみてください。
ということで、今回のシリーズでは、コーチングカウンセリングのゴール集とも言える『12の物語』の解説をしていきます。
私たちは、ゴールが設定できると、そこに向かって工夫することができます。ぜひコーチングでもゴールがなんであるかをイメージして、進めていってほしいのです。
『12の物語』は、コーチングの結末=最後にクライアントがどんな考えを持てていたら良いのか。そのバリエーションを教えてくれるものです。
ぜひ、これらを参考にコーチングカウンセリングのゴールを設定し、そこに向けてプロセスをつくる練習をしてみてください。
つづく
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