コーチングの源流 アドラー心理学④
コーチングの源流であるアドラー心理学の基本的な考え方を学び、コーチングで大切にするとよいポイントを理解していくシリーズ。
①では「劣等感」と「補償」そして「ライフタスク」と「課題の分離」
②では「目的論」と「主体論」
③では「全体論」と「対人関係論」をとりあげました
今回の記事では「認知論」と「共同体感覚」について説明します
「認知論」
「認知論」は「私たちは世界をありのままに見ていない」という考え方です。私たちは思い込みのフィルター(色眼鏡)を通して世界を見ているのです。
例えば、相手のことを悪い人だと思い込んでいたら、悪いところばかり目につきますし、例え良さそうなことをしているのを見ても、何か裏があるように考えてしまいます。
他人のことだけではありません。自分のことも色眼鏡を通して見ています。例えば、自分のことをダメな人間だと思い込んでいたら、どんなに頑張ってもやっぱりダメなところが目につくし、自分を厳しく見てしまって、落ち込見ます。その結果として、やる気も出なくなり、本当にダメなほうに進んでしまう可能性もあがります。
このように、色眼鏡を通してみることで現実が歪んで見えるだけでなく、そのことが思考や感情、行動にまで影響を与え、実際の人生で起こる出来事にも影響していくのです。確証バイアスと呼ばれるものです。「予言の自己成就」と呼ばれるものもそうです。自分で予言(予想)した通りになりやすいということです。
だから人生は、アドラー自身の言い方だと「万事認知次第」です。全ては自分の捉え方次第で変わるのですから、自分にとって役に立つ捉え方(考え方)を持ちたいものです。
では、どんな認知を持つことが役に立つのでしょうか?『嫌われる勇気』の中では以下のように説明されています。
引用文にある心理面の目標が、私たちがまずは持っていたい認知ということになります。確かに「私には能力がある」と思え、「人々はわたしの仲間である」と思えたなら、理想の状態に向かって困難があったとしても人々と助け合いながら、チャレンジが続けられそうです。
アドラーの「認知論」の影響を受けて「認知行動療法」の基礎を作ったアーロン・ベックはうつ病を研究する中で「否定的認知の三徴」を発表しています。自分自身のことを否定的に捉える、他人や社会を否定的に捉える、未来を否定的に捉える。この3つの考え方が、うつ病と関係しているというものです。先程の話を逆側から説明しているとも言えるではないでしょうか。
アドラー心理学では、各人の基本的な認知は、10歳位までの体験によって作られると考えています。10歳くらいまでの人間関係と、そこで体験した出来事から①世の中はどんな場所か?(世界像)②自分はどんな存在か?(自己像)③だとしたら自分はどうあるべきか?(理想像)を作り、生涯にわたって、その認知を使い続ける傾向があるというのです。そしてこれらの認知をその人の「ライフスタイル」と呼んでいます。考え方やそれに基づく行動の仕方が、その人の人生のスタイルだからです。
具体例で考えて見ます。子供の頃に「お兄ちゃんと比べて勉強ができないな」と親に言われたとしましょう。その体験から
①世の中では勉強ができることが大切。親は兄のことが好き(世界像)②自分は能力がない。必要とされていない(自己像)③バカな自分を演じて期待されないようにしよう。その方が傷つかない(理想像)
と思い込んでしまったとしましょう。このような考え方を持つと決めたら「私にはできません」と言ったり、過度にふざけたりしながら、チャレンジを避けたり、真剣に取り組むことをしない人生になりそうです。
けれど同じ体験から別の認知が生まれることもあります。例えば
①勉強ができることは大切(世界像)②自分は物分かりが良くない(自己像)③時間をかけて取り組み続ける姿勢が大切(理想像)
もしくは
①兄は勉強で評価されている(世界像)②自分は人に優しいタイプ(自己像)③もっとみんなの力になれる自分になっていこう(理想像)
などの解釈をすることもできるからです。こちらの認知を持った方が、その後の人生は幸せになりやすいのではないでしょうか。
つまり私たちは、子供の頃に経験したことを自分なりに解釈して、そこから生まれた認知(捉え方)を生涯にわたって使っていく傾向があるということなのです。
だとしたらどうすれば良いのでしょうか?まずは自分がどんな認知を持っているのかに興味を持つことです。そして自分が持っている認知に気がついたら、それをより役に立つものに変わるように見直して行くのです。
認知の変化に関するアイデアを2つ紹介しておきます。まずは多角的に見てみるということです。自分の認知に気がついたら、それを脇に置いて、他の見方で見てみるのです。上手くいってる部分や役に立っている部分見ようとしたり、違う人の目からはどう見えるか考えて見たり、人の意見を真摯に聞いて見たりするのです。認知再構成法の考え方に近いので、関心のある方はこちらもどうぞ
他のアイデアも紹介します。未来のありたい姿を思い描き、そこに向けて様々な行動を取りながら試行錯誤してみることです。そのプロセスの中で、良いやり方に気がついたり、自分の成長や変化を感じられたりします。もしくは周りの人とより良いコミュニーケーションが取れるようになることで、人生をこれまでとは違う形で捉えられるようになってきます。まさにコーチングですね。
だからコーチングをうけながら、現実の変化をコーチと一緒に見てみるよ良いのです。特に上手く行っている部分を探してみましょう。理想の未来に向けてコーチと作戦会議をし、様々に行動しながらそのことから役に立つ学びを得てゆく。このように考えてみると、コーチングを通じて、クライアントの認知が良い方に変化して行くのがわかると思います。
アドラー心理学ではこれを「プライベートロジック(私的論理)」から「コモンセンス(共通感覚)」への変化と呼びます。個人的に持っていた理論や理屈が、より多くの観点を学ぶことで、もっと役に立つ考え方に変わって行くということです。
「共同体感覚」
最後は「共同体感覚」です。これはアドラー心理学において最も大切なものです。
そもそもアドラー心理学には”Equally good(同じように良い)”という考え方があります。生まれつき人々に優劣はなく、皆同じように良い。それぞれのままで良いし、それぞれの価値観、考え方、行動の仕方も、それで良い。変えたくなったら自分で変えれば良いし、人にどうこう言われるものでない。
とは言え、人類に共通する価値観(大切にしたいもの)もあるのではないだろか?その答えが「共同体感覚」なのです。
「共同体感覚」とは、そのままの私でも居場所があって、そこには仲間がいる。そして私はその人たちに貢献できる。という感覚のことです。
このような感覚を持って生きられることは幸せです。そしてもっとそう感じられるように行動し、成長して行くことが幸せな人生への道ではないか?と考えているのです。
1人では生きていけない私たちは、社会の中で他者と協力しながら生きて行くことが必要なのです。その時にちゃんと居場所があって安心でき、自分を活かしながら貢献できている。そのような感覚を皆が感じられるような社会が幸せな社会ではないでしょうか。
そこを目指して、助け合いながら成長して行くことが人類の進むべき道ではないか?
これが第一次世界大戦に従軍し、第二次世界大戦へと世界が向かう中を生きていたアドラーからのメッセージです。人類全てを共同体だと感じるような「共同体感覚」は、今後も人類が生き延びていくために必要なものなのです。
ですから家庭や地域社会、会社など自分が具体的に自分が所属していて人間関係がある共同体はもちろんのこと、日本社会や世界(さらには、ご先祖様や未来の世代も含めた人類全体)など大きな共同体でも、共同体感覚が感じられることを目指しましょう。そのようにアドラー心理学は提案しているのです。
ちなみに共同体感覚は以下の4つの組み合わせと考えてみると良いかも知れません。
①所属感「自分には居場所がある」
②自己受容「不完全である自分で良い」
③他者信頼「人々は仲間であり協力できる」
④貢献感「私は人々の役に立てる存在だ」
所属している共同体において、そして世界全体や全人類に対して、この4項目を感じられることが幸せであると考えているのです。
そして、共同体感覚を持てていると、勇気が生まれます。これも大切な観点です。勇気というのは、望む未来やありたい自分に向かって進みづつけるためのエネルギーです。
ですから私たちコーチは、クライアントが勇気を持てるように、クライアントの①所属感②自己受容③他者信頼④貢献感を意識して、それが上がるように働きかけ続けます。そしてクライアントが自らの共同体感覚を向上させるような行動を取れるように支援するのです。そのためには私たちコーチ自身が普段から自らの共同体感覚を向上させるために様々な行動をとっていることが役に立ちます。
最後に勇気づけに関連して「私たちが持てると良い3つの勇気」について触れておきます。それは
①不完全である勇気
②失敗をする勇気
③過ちを認める勇気です
自らが不完全であることを受け入れ、失敗を恐れず挑戦し、過ちがあればそれを認める。これらを持てた時に、私たちの前に成長の道が開かれ、共同体感覚の中で自己実現していくような人生を歩めるのです。
そして過ちを認めた際には、
①原状回復
②再発防止
③謝罪をする
ということも覚えておいてください。このようにしながら私たちは成長し、良い広い社会のなかで貢献していけるようになります。これがアドラー心理学の考え方です。
このシリーズでは4回にわたり、アドラー心理学の基本的な考えを簡単に説明してきました。興味をもたれた方はぜひアドラー心理学を学んでほしいと思います。以下に手に入りやすくおすすめの本を何冊か紹介しておきます。
コーチにおすすめのアドラー心理学本
僕のスクールでも推薦図書にしています。コンパクトな解説とワークがついているので、アドラー心理学の基礎が体験的に理解しやすいです
アドラー心理学を使ったカウンセリング(コーチング)がどのようなものかのイメージがつきやすい。ただしカウンセリングの基礎知識がないと難しい部分もあります
この本は勇気づけのコミュニケーションについてでおすすめです。面白ければ、同シリーズの他の本を読むのも良いです。もともとの本は古いのですが、内容は素晴らしいです
クラス運営や子育てに活かせるアドラー心理学本。簡単に書かれていますが、本質が学べます
ベストセラー作家小倉さんの部下育成を切り口にしたアドラー心理学本。とてもわかりやすいと思います
岩井先生はたくさん本を書かれているので、最新作を紹介。アドラーの言葉からアドラー心理学に迫っています
アドラーもたくさんの本がありますので、基本図書の一つをご紹介。
平本さんと前野先生の本は、とてもわかりやすくコーチが学ぶには特におすすめです。
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