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CBC③「海外生活で鬱になった女性の転機」

僕がまだ駆け出しのコーチ・カウンセラーの頃の話です。

仲の良かった女の子が国際結婚して海外に移住しました。とても幸せそうで良かったなぁ、と思っていたのですが、しばらくして。。。

その子から連絡がありました。

「つらい。できたら話を聞いてほしい」

いつも明るく元気。とても理知的で仕事もできる。弱音吐いてるのなんて一度も見たことなかった。そんな彼女が出してきたSOS。

Skypeで話してみると、誰?っていうくらい落ち込んだ声でした。

海外かつ地方の閉鎖的な街でコミュニティに入れない。夫ともうまく行かない。ひどい状態になっている。誰も味方がいない。

その日はただ彼女の話を聴くことしかできませんでした。そして

「もし聞くだけでいいなら、いつでも聞くよ」と伝えると、また話を聞いてもらいたいとのことだったので、すぐに次の予定を入れました。

そして、次の回もひたすら話を聴くだけ。彼女の状況は僕が想定していたよりもはるかに大変でした。僕自身、遠い異国で彼女に何かあったらどうしようと心配になってしまいました。

「心配だから些細なことでも連絡して」と伝えると、彼女からは週3くらいのペースで連絡が来るようになりました。深夜のこともあったし、一回の通話がかなり長時間になったこともありました。僕は「彼女の身に何かあったら大変だ」という気持ちで関わり続けました。

これってプロのコーチ・カウンセラーの関わり方としては基本的にNGです。

週に1回など日程を決め、一回あたりの時間も60分などきちんと設定。その枠内で話を聴くことが大切なのです。枠組みをはみ出すと依存が始まることがあります。コーチ・カウンセラーはクライアントの人生をまるごと支えることなどできません。だから決まった面談の時間の中で関わり、次の面談までの間をうまく過すための工夫も一緒に考えるのです。

この時の僕はプロのコーチとしてでなく、友達として、ただ心配で話を聞いていたのですが、彼女は僕との関係に依存してくるし、僕も心理的に巻き込まれていました。どんどん良い形で関わるのが難しくなっていきました。

それでも彼女の力になりたくて、僕はそれまでに習ってきた手法を色々と試しました。他のクライアントの力にはなってきたつもりでしたが、どれも彼女にとっては役には立たなかったようです。「やっぱりもう生きていたくない」という言葉が何度も繰り返されました。

僕も焦り、そして無力感を感じるようになっていました。

そうして2ヶ月ほどたったある日のことです。1週間ぶりくらいに彼女から連絡がありました。

話してみると、びっくりするくらい明るい声でした。

「今日はなんだか明るい声だね。何があったの?」と僕がきくと

彼女「友達が訪ねてきてくれたの。飛行機を乗り継いで、こんな田舎まで」
僕「そっかぁ。良かったね。。。どんな時間を過ごしたの?」
彼女「二人でお茶して、美味しいもの食べて。」
僕「うん。それで?」
彼女「友達に全部話をした」
僕「そっか。。。。」
彼女「だいじゅさんがずっと受け止めてくれたから。だから友達にも話せそう、って思って」

この時、僕は泣きました。ホッとして。あとは無力感を感じていた自分が少し報われた感じがして。。。僕自身もよっぽど混乱していたのだと思います。

僕「そっか。良かった」
彼女「そうしたらね。友達が怒ったの。顔を真っ赤にして。『なんで一人で我慢してたの??相談してよ!!私、◯◯ちゃんをこんな目に合わせた人を絶対に許せない!!絶対に許さない!!』って。涙流しながら、大声で怒鳴ってくれた」
僕「。。。。。」
彼女「私も泣きながら、でもそのとき、私も怒ってたんだってことに気がついた」
僕「そっか。。。。」
彼女「だから、私も許さない!って言ったの。私も絶対許さない!!って」
僕「うん」
彼女「その勢いで、ワーって話して。そうしたら吹っ切れたというか、なんだか大丈夫になっちゃって。言うこと言って、やることやって、それでダメなら全部捨てて次にいけばいいやって」

僕は「良かったね」と言いながら、別のことに捕われていました。情けないことにそれは、彼女の友達に対しての圧倒的な敗北感でした。

俺はなにをやっていたんだろう。どこかで学んだ手法を恐る恐るつかっていた自分。どうしていいかわからず、ただ話をきいていた自分。自分はプロのコーチ・カウンセラーとして関われなかったし、友達としても関わらなかった。。。

彼女との通話を終えても、僕は延々と考えていました。1つ目は「それにしても友達ってすごいな」ということ。

ある先生に「100年ちょっと前には心理療法は存在しなかった。ではその頃の人間は救われなかったのだろうか?」と問いかけられたことを思い出しました。

もちろんそんなことはないわけです。家族や友達が、宗教が、長老の教えが、その他の色々なものが人々が、苦しむ人々の力になってきたです。

そして精神科医の神田橋條治先生の言葉。

「治療の主役は病む個体である。正確に言うと、病む個体に備わっている自然治癒力とそれを抱える自助の活動とが治療の主役である(『精神療法面接のコツ』)」と先生は言います。

治療の主役は医者、セラピスト、カウンセラーではなないのだ!と。

だから本人の自然治癒力と自助の活動が、最大限発揮されるように支援することが大切なのだと。

そのためにまず必要なのはクライアントが保護される環境(支援者との関係性)だ。

その上で必要に応じて、クライアントの自然治癒力と自助の活動が発揮されるための『刺激』(カウンセリングの技法)を与えるのだと。

彼女の友達の関わりは自然治癒力や自助の活動が引き出される関わりだったんだろうな。。。

そして大好きなカール・ロジャーズの考えも頭をよぎりました。

傾聴の目的は一致である。
一致とは体験と認識が一致することである。

超訳すると「身体で起こっていることを、頭が正確に理解している状態」が一致であり、それがカウンセリングのゴールであるということです。

彼女の件で言うと、彼女は自分が怒っていることに気づいてなかった。友達が怒る様子を見て、自分の中にある怒りに気づいた(一致した)。そして怒りを感じながら口にした言葉が自分の実感をうまく表現していたので、納得。そのことにより被害者としての自分から脱して、自分で人生を切り開いてきた彼女を取り戻した。みたいなこと感じかな。。。

ロジャーズと同じ人間性心理学に属するフリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法)の説明では

『身体』しかなければ人生はシンプルだ。欲しいものがあれば接触し、嫌なことがあれば引きこもる。それだけなのだ。

だけれども『頭』が「こうであるはず」「こうすべき」「それはしてはいけない」などと、それをコントロールしようとするから生きづらくなる。

だから『頭』と『身体』を分けて対話させることで、頭の誤解を解いていくわけです。(拙著『人生を変える!コーチング脳のつくり方』のP220 〜興味深いケースを紹介していますので、良かったらそちらもご覧ください)

そして、もう一つ思い出したこと。それがマズローの欲求階層説です。欠乏欲求を満たしてはじめて成長欲求が出てくるというやつです。

マズローの五段階仮説では

自己実現欲求

承認欲求

所属欲求

安全欲求

生理的欲求

の階層になっていて、生理的欲求から承認欲求までの「欠乏欲求」が満たされると「自己実現欲求」が出てくるとなっています。

これはコーチングでも重要なのですが、生理的欲求や安全欲求が満たされていないクライアントに「本当はどんな人生いきたい?」と問いかけても、「◯◯な自分として生きたい!生きる!」というような自己実現欲求はなかなか出てこないわけです。まずは「欠乏欲求」を満たすことが優先されるのです。

カウンセリングでも、この考え方は大切で、

欠乏欲求が満たされれば、クライアントは自ずと「もっと◯◯な人生を生きたい!」という思いを持ち始めるのです!

彼女に対する僕の関わりは、彼女の欠乏欲求を満たしきれなかった。彼女の友達がした関わりは、彼女の欠乏欲求を満たしたのかもしれない。。。

欠乏欲求のことを普段、僕は単に「ニーズ」と呼んでいます。そして私たちは実にさまざまなニーズを持っています。NVC(非暴力的コミニュケーション)というものを推奨している人たちが作ったニーズのリスト(リンク先PDF2枚目)を見てみてください。

ここにはたくさんの「ニーズ」がリストアップされていますが、まだこれでも全てが網羅されているわけでもありません。

とはいえ、この中から良かったらあなた自身の心や身体が、今現在満たしたがっている「ニーズ」を探してみてください。

そしてそのニーズが例えば「認めてもらうこと」だとしたら

誰に?何について?どんなふうに認めてもらいたいのか?そのために自分にできることは何か?

などと考えてみて、自らのニーズを満たすために、自分からできる行動を考え、そして実行してみてください。

そしてニーズを満たすことで、自分の心身がどのように変化し、それによって感情や思考、そして行動にどのような変化が生じるかを実感して欲しいのです。

ニーズが満たされると、よい状態になります。自分がもっている能力(潜在力)が発揮されやすい状態になるのです。

彼女のニーズは何だったのだろう。「受け入れられること」「気のおけなさ」「親密さ」「理解してもらう」「嘘じゃないこと」。。。。

必要としていた何かが満たされたから、彼女は本来の自分に自然と戻っていった。

そしてその後、彼女はそれまでにも増して、自然体でエネルギッシュな人生を生きるようになって行きました。

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いろいろご紹介しましたが、特に最後の「ニーズ」は使い勝手がよい考え方ですので、コーチの行うカウンセリングにはぜひ取り入れてみてもらいたいです。

GROWモデルのように、いきなり未来を描くのが難しそう。かといって傾聴だけしていても進展が望めない気がする。

そんなときの選択肢の一つとして「クライアントの現在のニーズは何だろう?どんなニーズが満たされるとクライアントは良い状態になるのだろう?」と考え、それをクライアントと探究して欲しいのです。

CL「もう何もかも嫌になりました」
に対して
CO「何もかも嫌になった自分は、何を求めてる?」
CO「どんな時間がとれるとよい?」
CO「誰と会うと救われそう?」
CO「なにがあれば落ち着けそう?」
CO「これまでは、どうすると良い状態になれた?」
CO「この表の2枚目見てみて。今のあなたは何を必要としているだろう?」

など色々な質問が考えられますね。クライアントが自らのニーズに気づいたら、それを満たすために取れる行動をなるべくたくさん考えてみるのです。そして、その行動をとってみること。その後も、自分の状態をよくしそうな行動を取り続けることを促すのです。

気分が変われば思考が変わります。行動も影響を受けるようになります。ニーズを満たすことでまずは心身の状態を変えることからスタートするのです。

そうやって状態が良くなれば、簡単なゴールなら描けるようになります。

「いまの状態がまずはどうなればいい?」とか質問して「そのためにできそうなことは?」でもいいですし、

CO「理想が10点だとして、今何点?」
CL「。。。3点」
CO「じゃあ4点はどんな状態だろう?」
など問いかけて、4点のためにできそうなことを考えてみるでもいいのです。

こうなればもうコーチングですね!

ただし気をつけてください

僕のコーチングの先生の一人で一緒にスクールを始めた平本あきおさんは

人生には3つの時期がある。歩く時期、走る時期、止まる時期だ。

と言います。

疲れ果てていたり、どうしたらいいか分からなくなったときは、しっかり止まって、メンテナンスしたり考えたりする。

少し元気になってきたり、何かを試してみたい時は、歩きながら試してみる。

これだ!と思ってノってきたら走る!!

コーチング、カウンセリングをするときも、相手の時期にあわせて関わって行きたいですね。

続く







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