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CBC⑧「眠れない女の子の恐怖」

コーチングクラスが終わって、片付けをしていると、20代女性の参加者が僕のところにやってきた。「だいじゅさん。ちょっといいですか」

彼女はとても繊細で愛情深いコーチ。やさしく話を聴くのが上手な人だけど、どこか芯の強さを感じさせる人でした。

ふと見ると頬に涙の跡がある。

「どうしたの?」ときくと
「ちょっと怖くなっちゃって」と言う。

自らの夢に向かってチャレンジをはじめていた彼女。クラスの最後に今月やりたいことを考えていたら、不安が出て来たのだと言う。ひとたび不安に気がつくとそれは大きくなり、どんどん怖くなって来たと。

「何が怖いの」ときくと「私にできるのかな」から始まり、いくつかの不安が語られました。ぼくはちょっと不思議だった。どれも別に彼女にできそうなことで、どうしてそんなに恐怖を感じるのかわからなかった。

だから、それをそのまま彼女に伝えた。すると彼女はしばらくの沈黙の後

「わたし、眠れないんです」と言った。

「怖くって。。。近くにだれかいると気になって。自分の家は大丈夫だけど、実家でも緊張感があるし、ホテルとかも難しい。。ましてや誰かと一緒の部屋とか無理で。。」

「今月は、自分がやりたいと思ったことの関係で地方に行く予定。その時眠れないのではなないか。怖くて眠れないような自分には、やっぱり無理なんじゃないか。すごく情けないし、悲しい。。。なんで自分はこうなんだろう」

そんな話でした。「眠れないくらいなんてことないじゃん!1日くらいならエナジードリンクでも飲んで乗り切れるって」とか思えるならいいのでしょうけど、

眠れないで不安を抱えている。それをなかなか乗り越えられない。

そんな体験が続いて、

眠れない=自分はダメ=やりたいことなどできない(してはいけない)
みたいに考えてしまったみたい

彼女に「眠れないときはどんな風に過ごしているの?」ときいてみると

彼女「とにかく横になって、寝ようとする。でも無理で」
僕「無理で?」
彼女「寝ようとする」
僕「寝ようとするって?」
彼女「目を閉じて、寝れなくて、怖くて」
僕「うん。。。」
彼女「なんで寝れないの。って」
僕「そう思っちゃうの?」
彼女「はい。。。。寝なよ。何怖がってんの。おかしいよ。って」
僕「怖がっている自分と、おかしいよって言ってる自分がいる。。」
彼女「はい。。。」

ここまできて彼女と一緒にできることが見つかりました。彼女の中に「健全な大人」を育てることです。

それによって彼女が眠れるようになるかは分かりませんが、「健全な大人」を育てることは彼女にとって良い結果につながるでしょう。

仮に眠れなかったとしても「健全な大人」がいれば、眠れない=ダメな自分=やりたいことはできない、にはさせないからです。
※「健全な大人」についてはコーチがするカウンセリング⑥を参照

もっとシンプルな別の考え方もあります。Do something different という奴です。

自分にダメ出しをしていても眠りにつけないわけです。なのでダメ出しをやめよう、と。うまく行っていないことはとりあえず別の何かに変えてみればいいのです。

リチャード・フィッシュという先生が書いた『解決が問題である』という本があります。その中で、私たちが問題を解決するために良かれと思ってとっている行動が、却って問題を持続させている可能性があると指摘されています。

今回のケースで言うと、自分を眠らせようとして「叱咤」するわけですが、そのことによってかえって「眠れない」という問題が起こっているかもしれないということです。

これは偽の解決行動ということで「偽解決」と呼ばれたりもします。

ということで、僕は彼女相手にセッションをスタートしました。

僕「あなたの中に眠れない子がいる。怯えているその子は、何歳くらいな感じがする?」
彼女「うーん。4歳か5歳くらいかな」
僕「OK。ではその子を寝かしつける練習をしてみよう」
彼女「寝かしつけ、ですか?」
僕「そう。寝なよ!っていっても彼女は寝れないんでしょ?だから安心して眠れるように関わってあげたいんだよね」
彼女「。。。はい」

みたいに協力を取り付けた後、僕は椅子を二つ並べて起きました

僕「怖がってる女の子はどっちの椅子に座ってそう?」
彼女「こっちです(と指をさす)」
僕「OK。では反対の椅子に座ってみよう」
彼女「(だまって座る)」
僕「眠れない夜。その女の子はどうしてる?」
彼女「周りのことを気にして、緊張してる。。。」
僕「緊張してる。。。。」
彼女「。。。。ビクビクしてる」
僕「オーケー。それでは、そんな女の子の。。。呼吸をイメージして。。どんな感じだろう」
彼女「。。。。浅くて、少し早いかも」
僕「では、その呼吸をイメージして、それに合わせてみるよ。。。彼女と、一緒に、呼吸を、します」
彼女「(呼吸を合わせようとする)」
僕「そう。。。いいよ。。。隣の椅子の。。。背もたれに腕を回して。。。そう。。。その子の。。呼吸のリズムを感じながら。。。。大丈夫だよ。。。安心して。。。。と、優しい声で。。。伝えます。。。。」
彼女「だいじょうぶだよ。。。。。あんしんして。。。。。」
僕「そう。。。。ゆったりと。。。。。少しずつ。。。。女の子の身体が落ち着いてくるのを感じながら。。。。。」
彼女「。。。。。。。(だんだん呼吸がゆっくりになってきました)」
僕「そう。。。。。いいよ。。。。まだ彼女は眠りません。。。。彼女を寝かせてあげるために。。。。。ほんの少しだけ。。。。あなたの方が。。。リラックスしてみるよ。。。。ちょっとだけ。。。。寝たふりをするイメージで。。。。すや。。。。すや。。。。。と。。。。」

子どもを寝かしつけるコツを利用してます。穏やかに横にいて、呼吸を合わせつつ、自分のリラックス度を上げていく。自分も眠いつもりになって、自然にアクビでも出て来たらシメたものです。子どもは引きずられるように眠りに落ちていきます。それを自分の中の眠れない子供に対してやってもらっているのです。。。

彼女のリラックスはさらに進み、たまに首をカクッとさせたりしていました。

僕「そう。。。。とっても上手です。。。。そんな風に。。。女の子よりも。。。。少しだけ。。。。より。。。。眠い。。。。状態で。。。。いてあげます。。。。。そう。。。。」

僕「あなたは。。。。お姉さんだから。。。。女の子が。。。。眠りにつくまで。。。。。ずっと。。。。こうして。。。。あげますよ。。。。彼女が寝息を立てはじめたとき。。。。あなたも。。。。ゆっくり眠りにつきます。。。。二人で。。。。あたたかく。。。。つながって。。。。あんしんを。。。。かんじながら。。。。きもちよく。。。。。」

彼女は完全にウトウトし始めました。

僕「そう。。。。。外側の世界から。。。。大人のあなたが。。。。。まもって。。。あげてる。。。。女の子との。。。。つながりを。。。。感じながら。。。。」

彼女が完全に眠りに向かっていったので、しばらく間を置いてから僕は伝えました

「オーケー!!それではしっかり息を吸って!!そう。そしてしっかり吐いて!!!そう。。。では気持ちよく伸びをして。目を開けますよ!!」

彼女はしっかりと目を開きました。

僕「コツを掴んだみたいだね。。。きっと、この女の子は何か怖い思いをした。大人にとっては、たいしたことないことかも知れないけど、この子は怖がって怯えているみたい。だから大人のあなたが、それを支えてあげた。周りの世界から、この子を守って、バリアを張ってあげるみたいに。。。彼女との繋がりを感じながら、あなたのリラックスを使って、女の子が少しずつリラックスできるように手伝ってあげた。。。ね。。。はやく寝なさい!って言うよりも、こっちの方が良さそうじゃない?」

彼女「。。そうですね。なんかすごくリラックスできました。きっと子どもの頃の私がリラックスできたんですね」

僕「そうか!すごいね!!リラックスさせてあげられた!!」
彼女「はい。すごくリラックスできた」
僕「いいね」
彼女「なんか大丈夫な気がして来ました。」
僕「どういうこと?」
彼女「もしかしたら外でも眠れるかもって」
僕「おーーーすごい!!」
彼女「あと。。。もし眠れなくても、リラックスして夜を過ごせたら、翌日もなんとかなるかもしれない。。。」
僕「ワオ!それは最高だ」
彼女「ありがとうございます」
僕「最後に教えて、女の子をリラックスさせるポイントは何だったの?」
彼女「彼女の呼吸に合わせて、優しくトントンしながら、少しずつ、トントンをゆっくりにしていく感じ。。。あとは。狸寝入りかな(笑)」

ということでした。後日彼女が報告してくれたのは、出先のホテルで眠れたばかりか、移動中の乗り物の中でもうたた寝をしてしまったとのことでした!

ということで、彼女に「健全な大人の寝かしつけ」の練習をしてもらったセッションでした。彼女が寝かしつけをしやすいように、僕自身も声のトーンを落として、ゆっくりと、間をとりながら、声をかけていきました。

NLPのミルトンモデルなど催眠言語を学んだことのある方は、僕の声かけのなかにそれがどんな風に応用されているかを検討してみてください。クライアントが抵抗なく、コーチ・カウンセラーの作る世界に入っていくために言い回しを工夫したセッションでした。

ということで、何回かに渡って「健全な大人」を自分の中に育てる、というコンセプトで行われたセッションのケースを紹介してきました。このシリーズで他に紹介されているケースも、ほぼほぼこの「健全な大人」を内側に育てるための関わりをしていますので、そんな視点で読んでみると理解が深まるかもしれません。

ちなみに、ぼくたちコーチの関わりこそが「健全な大人」のモデルであるべき。と僕は思っています。

人間性心理学の祖カール・ロジャーズが提示する在り方の指針『中核3条件』は
・無条件の肯定的関心(相手が何をしようとしなかろうと肯定的に見る)
・共感的理解(相手の立場にたって、相手を正確に理解しようと試みる)
・自己一致(コーチ・カウンセラーは自分らしく、いまここを感じている)

この3つの条件を我々対人援助者が満たしていると、クライアントは自己理解を深め、変容をはじめます。自らの心の声にともに、迷いなく、人生を生き始めるのです。

そして、こんな風に人に関われるのは「健全な大人」だと思います。

続く






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