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CBC⑲「お父さんを殺した母の夢2」

これまでとはちょっと違う角度から、だけど大切な話。

家族療法にシステムズアプローチ(SA)という流派があって、とっても面白いし、僕も大いに影響を受けています。


この際だから、(ちょっと見えにくいかもしれませんけど)コーチングの系譜をご紹介しましょう。
『コーチング心理学概論』からお借りした図に赤字で書き込みをしています。

アドラーはエリスやベックの認知行動療法にも影響し、それは認知行動コーチングへと続いています。
アドラー心理学は、ロジャーズらの人間性心理学にも影響し、そこから傾聴や行動主義コーチングが誕生しています。
アドラーは家族療法にも影響し、システムを扱うコーチングが生まれています。
そしてこれらの影響を受けながらNLPコーチングもできたのです。

改めてアドラー心理学すごい!!

今回は家族療法(システムズアプローチ)→システムコーチング系の話ということになります。

システムズアプローチは、かなり特徴的な流派で色々な面白い考え方をもっているので、ここからそれをいくつかご紹介します。

まだコーチがするカウンセリング①を読んでいない方は、そちらが前提になるので、先に読んでおいてください。

教えその1「悪循環構造を発見」


システムズアプローチでは悪循環にフォーカスを当てます。問題状況の中で「どんな悪循環が起こっているのか?」を考えてみるのです。

上の図(僕のセミナー資料から引用)の左を見て下さい。カップルで揉めています。彼は彼女に不信感を持ち、怒りのエネルギーを使って彼女に真実を話させようとしています。彼女は不信感を持たれた自分に自己嫌悪を感じて、彼に恐縮しています。

彼女が良かれと思ってしている恐縮。それが彼の不信感を助長。
彼は彼女に本音で話して欲しくて感情的(怒り)になっているのですが、そのことが彼女の自己嫌悪をつくっています。

まさに悪循環ですね。
そして良かれと思ってしているが、悪循環を起こしている行動を偽解決(行動)と呼びます。

コーチ・カウンセラーはこの偽解決行動に気づくことも大切です。その行動をやめるだけで、あっさりと問題がなくなったりするのですから。

親がうるさく言う(偽解決)から子ども反発して非行する
なんとしても寝ようとする(偽解決)からかえって眠れない
助けてあげようとする(偽解決)からクライアントが自立しない
信じて放任する(偽解決)から生徒が行動しない

例えばこんなことがないかと、チェックしてみるのです。
案外良かれと思ってやっていることが、問題を維持発展させていることがあります。そして気づいたらやめてみたらいい。

そしてこれを2人以上で協力し合ってやっているのが人間関係システムなのです。

上図のカップルがそうですね。トムとジェリーではありませんが「仲良く喧嘩」してるのです

アドラー心理学で言うと、対人関係論。問題は個人の認知行動パターンにあるのではなくて、コミュニケーションの悪循環の結果だという考え方です。

心因性などという考え方とは真逆ですね。

なので本人の内面が変わらなくても、関わる人が変わったり、コミュニケーションパターンが変われば問題は起こらなくなる!という考え方なのです。

では、この考え方を使って、コーチがするカウンセリング①で紹介したケースの裏側を検討してみましょう。

じつは①では、行動主義コーチング(もしくはソリューションフォーカス)的なアプローチで解説していますが、システムズアプローチも併用していたのです。


上図左側を見てください。
①お母さんには「死ね死ね」の声が聞こえ(幻聴)憂鬱になります。②お母さんは「死にたい」と口にします。(これは多分①の声を増強させています)③おばちゃんはお母さんに憐れみを感じて、最大限サポートします。そのことでお母さんは無力感、そしておばあちゃんへの罪悪感を感じます。(そのことでますます②の「死にたい」を言い、おばあちゃんは③のサポートをします)。そしてそれが続くとおばあちゃんが④疲弊します。無力感を感じます。そうすると、おばあちゃんはお母さんに対して「あんたといるとこっちまで気が滅入る」など愚痴ります。お母さんは⑤憂鬱を感じ「ほっといてほしいと言います」。そのことでお母さんは孤独感を感じ、ますます憂鬱に。(それをみたおばあちゃんは、愚痴を切り上げ③のサポートに戻ります)。この状況を見ている息子さんは無力感を感じて、⑥見守ることにします。そのことで息子さんは自己嫌悪します。(そして息子さんの無力感はつのり、見守りが続きます。)

お疲れ様でした。ちょっと複雑になりましたが、循環しているのがわかったと思います。

このセッションは息子さんから依頼を受けたものでしたから、僕は事前に概要を把握していました。で、このような循環図を書いて、あらかじめ指針を考えていたのです。

それが上図右上のBOXです

指針1◆おばあちゃんには少し距離をとって、人生を楽しんでもらう
おばあちゃんだけがお母さんに関わっていると、悪循環が続くので、おばあちゃんには少しお母さんと距離を取り、人生を楽しんでもらう。
このために当日のセッションでも、僕と息子さんがいる間おばあちゃんには、好きなパチンコに行ってもらい、その後も定期的に好きなことをする時間をとってもらうようにお願いしました。これによって、介護疲れの結果として愚痴を言うことが減りました

指針2◆リハビリを息子さんとする
おばあちゃんの距離を取る代わりに、息子さんに関わってもらう。お母さんにとって必要で、息子が関われそうなものを考えた結果リハビリをしてもらうアイディアに辿り着く。息子が関わってくれる安心感。身体が動くようになっていく効力感。そのことによるメンタル安定。おばあちゃんも余裕ができる。息子さんも効力感を感じます。このように好循環を作りたいのです。

このため、セッションに息子さんには同席してもらい、お母さんの状況を理解してもらうと共に、巻き込めるポイントを探し、その場で同意を取り付け、どんどん話を進めていきました。これがあったので、お母さんも新しい行動(リハビリ体操や通院)にコミットしたのです!

指針3◆薬の見直し
カウンセリングはソフトウェアへのアプローチです。
投薬はハードウェアへのアプローチです。

必要なら両方やると良いのですが、このケースでは薬が効いてない。もしくは薬のせいで余計に症状が出ている(これも偽解決)可能性がありました。もちろんコーチ・カウンセラーは薬には介入できません(しません)ので、お医者さんを巻き込んで見直しの可能性を検討してもらいたいと思っていました。(このケースでは、長年薬の見直しが行われていなかったため)

よいお医者さんとつながれたら、そこを起点にまた良いことが広がっていく可能性もあります。

指針4◆お母さんを社会的リソースとつなげる
実際には、デイサービス施設でのリハビリにいくことになりましが、通院や、介護など行政の支援を受ける、患者の会への参加など外的なリソースにつなげたいと思っていました。

そのことで、おばあちゃん、息子さんの負担軽減、メンタル安定につながりますし、外部の人と接すると、お母さんも感情が変わる、行動が変わるなど変化します。あたらしい知識を得たり、トレーニングを受けるなどもできます。いいことだらけです

指針5◆お母さんの貢献可能性をさがし、希望とする
お母さんができることで、人の役に立てることを探したい。してもらうだけではメンタルが安定しないのです。アドラー心理学的な考え方ですが。

実際には数ヶ月後には息子さんの会社の簡単な仕事を手伝うようになりましたが、セッションの中でも、お母さんの貢献欲や貢献可能性を引き出すなど、貢献のチャンスを作り出し、それを希望としてもらいたいと思っていました。

このように、どんな種類の変化をつくると、いままでのパターンからブレイクできるか。それを考えて、指針をもってから、クライアントとあっていたのです。

教えその2「扱いやすい問題を扱う」


再び同じ図です。

この家族の問題はなんですか?
・鬱?
・統合失調による幻覚幻聴?
・お母さんの認知の歪み?ネガティヴ思考?無力感?
・お母さんの幼少期の体験?殺人体験?
・家族関係?おばあちゃんの過干渉?息子の放置?
・息子の自己嫌悪?
・薬があってないこと
・寝たきり?体力が落ちていること?日常生活が難しいこと?
・肥満?
・霊障?ご先祖さまの?お父さんの?地縛霊?
・カルマ?前世の生活態度が悪い?
・風水?壁の色がわるい?
・宇宙人の嫌がらせ?

何を問題として見るかはとても重要です。

何を問題として見るかでアプローチが変わります。
何を問題として見るかで取り組みやすさが変わります。
何を問題として見るかで結果が変わります。

大切なのは、取り組みやすいものを問題だとすることです。
取り組みにくいものを問題にしてしまうと、当たり前ですが取り組みにくくなります。

さらに言うと、取り組みやすく、波及効果が狙えるものがいいのです。

例えば、

お母さんの統合失調症が問題だ!とすると、これは専門性のある人を巻き込まないと取り組むのが極端に難しくなりますね。そして、統合失調には数ヶ月から数年の時間をかけて取り組むことになります。もちろんこれはこれで大切なアプローチです。

しかし統合失調症がよくなっても、それだけでは循環図が変わらない可能性があるのです。お母さんが死にたいと言っていれば、似たような状況が続きやすそうですね。だから取り組むのが難しく、時間がかかり、効果が波及しにくい可能性があります。

僕は、息子さんの放任が問題であるという問題設定をしました。
ただこの言い方だと、息子さんが悪者になるので、

息子さんというリソースを使いきれてないことが問題だ!

と問題を定義したのです。息子さんがリハビリを手伝い、通院を手伝い、お母さんの身体面をサポートする。そうすれば、お母さんのメンタルも安定するし、おばあちゃんの負担も減り、メンタルも安定する。それだけでかなり状況はよくなるはず。

だから、問題は息子さんがどう動けばいいか分かっていなかっただけで、息子さんが動けるようになれば、何も問題ない!という物語にもっていこうとしたのです。

システムズアプローチでは「問題は方便である」と言ったりします。

方便とは仮にとる便宜的な手段のことです。

かならずしも本当ではないが、仮にこれを問題だとしておこう。そうすると取り組みやすいし、結果が出やすい!

みたいに問題を捉えてみよう。ということなのです。

発想が普通じゃないですよね。
普通は問題ありきで解決を考えるわけですが、

何を問題だと捉えると、楽に変化が起こりそうか考えて、
それを問題だと見做すというやり方なのです。

教えその3「平等な肩入れ」


さて。次に紹介したいのが「平等な肩入れ」です。

家族問題などグループの問題に関わるとき、
・だれかに肩入れする(感情移入する)
・中立を大切に誰とも距離を取る

のどちらかになりがちです。

でも誰かに肩入れすると、自分もシステムの一部になるだけで、悪循環構造は変わらない可能性があります。

また中立に意見をきいているだけでも、誰からも信頼されず、誰も変わらない可能性があります。

だから平等な肩入れなのです。

お母さんにも肩入れする。「がんばってる!」「自分のことは自分でやりたいと思っててすごい!」「おばあちゃんのこと配慮しててすごい!」「息子さんを気遣っててすごい!」などなど

おばあちゃんにも肩入れする。「愛情の塊!」「お元気で、前向き!!」「言うことはちゃんと言う!すごい!!」「孫を気遣ってる!すごい!」「長年やりつづける今期すごい!」などなど

息子さんにも肩入れする。「コーチ呼んできてすごい!」「全体見ててすごい!!」「お母さんへの愛情すごい!!」「自分も何かやりたくてすごい!!」「希望を持ってすごい!!」などなど

とにかく全員を肯定的関心の目で見て、全員のリソースを見たいのです。そして感動して、勇気づけしまくりたいのです。

クライアントは基本的に善意の人です。そして関わる人も基本的に善意の人です。そうやって相手を見るのです。

ザ・リッツ・カールトンホテルのモットー

「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」

これです。クライアントとその関係者は紳士淑女です。彼らと対話する私たちコーチ・カウンセラーもまた紳士淑女です

こういう気持ちで、全員に関わるのです。人は、心から紳士淑女として扱われ続けたら紳士淑女になっていくのです。

僕はおばあちゃんにも最大限の経緯をもって関わりました。そしておばあちゃんの素晴らしい点を伝えようとしました

お母さんにも、息子さんにも同様です。

だから、みんな僕を受け入れてくれました。だからみんな僕と真剣に考えてくれました。だからみんな僕の提案を前向きに捉えてくれました。だからみんな僕と決めたことを守ろうとしてくれました。

システムを動かそうと思うとき、みんなの協力が得られると簡単です。せめて悪者を作らず、可能ならみんなが協力的になること。

実は僕は、家族を一同に迎えるなどの「合同面接」でない、個人面接でも、この平等な肩入れを重視しています。それが僕のカウンセリングやコーチングの成果と密接に関連しています。その話はまたいつか。

続く




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