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CBC⑨「目標を描けないコーチと飼い犬の思い出」

クライアントが自己理解を深めると変容が始まる

という趣旨のことを前回投稿の最後に書きました。本当でしょうか。
変容が起こるとしたら、どんなメカニズムなのか。

別の例を使って考えてみましょう。

僕が主宰しているコーチングクラスでの出来事です。

効果的なゴール設定に関する講義をしていたときのことです。40代男性コーチが僕に言いました。

「他人がゴールを描くのを助けるのは得意なんだけど、自分が描くのはいまいち苦手なんです」「現実的なゴールを描くことはできるけど、制約を外してみたいなのが。。。」

彼はいつも明るく、愉快、率直。そしてスキルフル。みんなに頼られるコーチです。「彼の中でいま何が起こっているんだろう」と思いながら僕は質問します。

僕「そうなんだ。制約から自由なゴールを描こうとすると、あなたに何が起こるんですか?」
男性「なんか、固まっちゃうというか、止まっちゃうというか。。。」

その瞬間です。彼が変なことを言いました

男性「あれ!!足が動かなくなっちゃった。。。。動けない」
僕「ん???物理的な話をしてる???」
男性「はい。。。なんか太ももの筋肉がつってるみたいな感じで」

催眠療法などしていると、こういった不思議なことに遭遇したりするけれど、クラスの質疑応答の最中だったので、ちょっと珍しい事象ですね。でもこういうのって僕は、彼の無意識が発している声だと思うんですよね。

そもそも最初の「他人がゴールを描くのを助けるのは得意なんだけど、自分が描くのはいまいち苦手なんです」ってところから、彼の無意識(言語化されていない内面)が何か言いたいんだろうな、とは思っていました。だから

僕「おもしろいね。。。ちょっと嫌かも知れないけど、そのままその『動かなさ』を感じてくれますか。きっと大切なことを教えてくれると思うので」
彼「あ。。。はい。。。」
僕「太ももを感じながら。。。そこに例えば何がある感じだろう。。。」
彼「。。。。ヒモのようなもの。ベルト?で締め付けられてるみたい」
僕「ではそのベルトのようなものを感じて。。どんな風に締め付けているのか。。。。」

その時です。またしても彼は変なことを言いました。

彼「動けない。。。あれ。。。なんだ。。。犬が足元にまとわりついてて動けないイメージが出て来た」

ホント興味深いですね。でもこれも無意識が何かを伝えるために出してくれたイメージなら、乗っかっていけばいいのです。彼は真剣に自分の内側に向き立っているし、変化を繊細に感じながら、なんでも言葉にしてくれるので、僕としてはとても助かります。

僕「オーケー。そのワンちゃんをよくみて。。。どんな大きさで、色で。。。動き方は。。。。犬種は。。。。」
彼「。。。。ああああ。。。。これは××(飼い犬の名前)です。僕が小学生の頃、最初に飼った犬です。。。。」
僕「そっか。。。××ちゃん。出て来てくれてありがとうね。。。××ちゃんをよーく見て、鳴き声を聞いて。。。存在をよーく感じるよ。。。。何て言いたそう」
彼「。。。もっとあそんで!って。。。でもなんだか寂しそうにしてます。。。。そっか。。。ごめんね。。。。最期一緒にいてあげられなくて。。。。」
僕「あら。どういうことだろう」
彼「××は僕が拾って来て、親の反対を押し切って飼い始めたのだけど、しばらく経ってから体調を壊し、一生懸命介護したけど、ある日突然、家から逃げ出して、姿をくらまして。。。探しにいったけど見つからなくて。。。。」

この話がどこに辿り着くのか、この段階では僕も分かりませんでした。

しかしクライアントの無意識が始めたプロセス、その終着点までついていく。こんなカウンセリングのやり方もあるんです。例えばフォーカシング(後述します)などはこれに近いですね。追体験といいますが、クライアントの中で起こっている体験を聴きながら、カウンセラーも追体験をしています。そうやって関わることで、クライアントはますます体験を深めていきます。

僕「探しに行ったけど、見つからなくなった。。。。。今身体では何が起こってるかな。。。」
彼「。。。あぁ。。。さっきより締め付けが緩んだ感じ。。。」
僕「あとは。。。」
彼「悲しい」
僕「。。。。その悲しさは、どこから来るんだろう。。。。」

沈黙が流れます。そして

彼「。。。。××をお墓に入れてあげられなかった。。。あとの子たちは入れてあげたのに」

彼が言うには、最初のわんちゃんがいなくなってから、悲しみにくれていた。そんな彼のために、親は次のわんちゃんを買ってくれたとのこと。その子や、その次の子は亡くなった時にちゃんとお墓に入れてあげて、お墓参りにも定期的に行っているのに、最初の子だけ入っていない。しかもあれだけ可愛かったのに、その子だけがお墓に入っていないことをこれまで意識せずに来たこと。それが申し訳ない。。。。と

僕「そっか。あなたはどうしたいと思ってる?」
彼「もし可能なら、××を一緒のお墓に入れてあげたい」
僕「いいね。もしそれができたらどうなりそう。。。。」
彼「ホッとする。。。けど。。。」
僕「けど?
彼「××が入りたがるかな?」
僕「どういうこと?
彼「自分は雑種だし野良犬だったし、血統書つきの犬と暮らせるかなって、言うかも」
僕「そっか。どうしたい?」
彼「。。。でも一緒のお墓にいれてあげたい。。。。うーん」
僕「OK。じゃあ今から入れてあげてみよう」

上のスクリプトの太字部分は僕が確認の質問と読んでいるものの一部です。このような質問によって、相手の話をより正確に理解しようとしています。僕が「より正確に理解しよう」とすることで、クライアントもより正確に説明するために言語化を進めます。そうやってクライアントの自己理解を進めていくのです。
※確認の質問は拙著『人生を変える!コーチング脳のつくり方』P145〜などを参考にしてください。

彼「今から。。。ですか?」
僕「うん。イメージの中でね。まずはどこにお墓にしようか」

一緒にいた部屋の中で、お墓の場所を決めます。そこに椅子を置いて、墓石の代わりにしました。

僕「ではその場所に××ちゃんを連れていってあげよう。。。丁寧に抱きかかえてあげて」

彼は足元から××ちゃんを抱えあげる動作をして、慎重にお墓の場所まで連れていきます。(彼の足は動くように戻っていました)

僕「それでは、お墓の中に入れてあげよう」

彼はやさしくお墓の中に××ちゃんを入れる動作をしました。

僕「そして、よく観察して。。。。お墓の中で××ちゃんはどうしてる?」
彼「。。。。楽しそうに戯れあってます。そっか。よかった。。。」

血統書がなくても大丈夫だったようです!

僕「それはよかった。なんて言ってあげたい」
彼「よかったね。。。あと、本当にごめんね。忘れてたわけじゃないんだけど、そのままにしていた。。。。」
僕「どんな気持ち」
彼「。。。ちょっと落ち着いたのと、やっぱりすまない気持ちもあります」

ここで僕はさらに変な提案をしました。

僕「では、今度は××になってみよう」

亡くなった犬とのポジションチェンジです。『コーチがするカウンセリング』シリーズではポジションチェンジがさまざまに使われますが、犬相手でもできるのです。

ポジションチェンジは、相手の気持ちを理解したり、相手とどのようにコミュニケーションをとったらいいかのヒントを与えてくれます。今回はわんちゃんの視点から、クライアントとわんちゃんの物語について理解を深めようとしているのです。

僕「では、今度は××になってみよう」
彼「え?」
僕「××ちゃんの視点に立つために、その椅子に座ってください」

彼はお墓がわりの椅子に座りました。

僕「××ちゃんにききます。。なりかわって答えてくださいね」「××ちゃんお墓はどう?楽しい?」
彼(犬)「楽しい!」
僕「そっか、優しいご主人様でよかったね」
彼(犬)「はい」
僕「彼はあなたのこと、ずっと気がかりだったんだって。寂しい思いをさせたって」
彼(犬)「ありがとう。。。でも。。僕たちは死ぬときは一人で死ぬから。。。だから。。寂しくはなかったよ」
僕「そっか。。。そして今は遊び友達がいて楽しい。。。」
彼(犬)「はい」

僕はここからギアを入れ、本題に入りました。

僕「そっか。ねぇ、君にとってご主人様ってどんな人だった?」
彼(犬)「。。。やさしくって。。一緒に遊んでくれて。。。」
僕「うん。。。」
彼(犬)「。。。。僕を本当の家族みたいにしてくれて。。。(涙)」
僕「そうなんだね。。。。ねぇ、君のね。ご主人様は、悩んでる。。。自由に夢を描けないって。描こうとすると固まっちゃうんだって。。。。なんて言ってあげたい。。。」

沈黙が流れます。。。。彼は自分の内側としっかり繋がりながら、言葉を紡ごうとしています。そして。。。

彼(犬)「。。。幸せになってほしい。。。。。。。。。。。ねぇ。。。もしかして、僕のせいなの?」
僕「どういうこと?」
彼(犬)「僕がいなくなったから。。。。もう二度と寂しい思いはしたくないって。。。。。(涙)」

謎が解けた瞬間です。これが彼が最初に言っていた

「他人がゴールを描くのを助けるのは得意なんだけど、自分が描くのはいまいち苦手なんです」「現実的なゴールを描くことはできるけど、制約を外してみたいなのが。。。」

という言葉の意味だったのです。
「制約を外す」のが苦手なのではなく、誰かと深い関係を持つような未来を描くことを、無意識レベルの恐れが避けていたという話でした。。。

追体験ってすごいな。ただクライアントの無意識が始めたプロセスに追いかけていくだけで、こんなことが起こる!!

でもまだプロセスは完結していません。僕は続けました。

僕「そっか。。。もう一回きくね。ご主人様に君はどう生きてほしいの?」
彼(犬)「。。。。。家族を持つことを恐れないでほしい!」
僕「ありがとう。。。でもね、彼は怖いんだって、君がいなくなっちゃったから」
彼(犬)「僕は犬だから!!!。。。。。。人間は大丈夫だよ。。。。人間は。。。。だから。。。人間を信じて。。。。(涙)」

ここで僕は、彼(犬)にお礼を言って、椅子から立ち上がってもらいました。そして僕たちは二人で泣きながら笑いました「僕は犬だから!!って傑作だね!!間違いない!!」って。。。。笑っている彼の顔は、まるで少年のように見えました。

そうして、少し落ち着いてから、彼にここまでのプロセスを振り返ってもらいました。

「これまでもどこか気づいていたけれど、自分が家族をつくることや、仕事でも会社組織にするなど深い関係をつくることを避けていた。なんとなくうまくいかないような気がしていた。でもいまは、大丈夫な気がしている。自分の描く未来が変わり、人生が変わっていきそうな予感がする。。。」ということでした。そして、この日を境に、彼の人生は大きく変わり始めました。

このセッションで僕がしていたことはただ「プロセス」についていくこと。ときに促進したり、増幅(アンプリファイ)することです。

傾聴というも、本当はそれがしたいのだと思うのです。でもそれをもっとダイレクトに実践してみたのです。

カール・ロジャーズの傾聴(相手の言葉を丁寧に聴き、確認の質問を投げながら、内面世界の正確な理解に迫っていく)を受けて、

共同研究者のユージンジェンドリンが開発したフォーカシング。これは身体の反応(フェルトセンスと呼ばれます)にフォーカスを向け続けながら、その言語化を試みることで、内面の理解に迫っていこうというものです。

身体は私たちの人生に対して、何かを訴えている。でも言葉で教えてくれるわけではないから、なかなかそれを理解できない。でも身体は訴えている。「もっとこう生きたい」と。。。。それをなんとか言語化したいのです。

「できない」「すべきじゃない」「ぜったい無理」の奥に隠れた、「こう生きたい」という自分の願いに気づくこと。。。本当の願いに気づけば、脳はそれを実現する方法を探し始めるモードになっていきます。そこから人生は変わり始めるのです。

※やり方は全然違いますが『人生を変える!コーチング脳のつくり方』P288〜の石川さんという女性のケースも、深い部分の願いに気づくことで、脊椎損傷の患者さんの人生が大きく変化した奇跡の物語です

続く






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